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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

作家を救う電子書籍という活路『ナナのリテラシー』 by 鈴木みそ

コミック

電子書籍漫画。

背景真っ白、もしくは線だらけ。顔ドアップの連続でコスト削減極まりない。電子書籍出版で鈴木みそさんの実体験をベースにした漫画でさくさくと話を展開させていくので普通のストーリー漫画と同じ軸で評価するものでもない。まず本書では現状確認から始まる。

電子書籍が売れないのは少しでもこの媒体に興味がある人にはわかっていることだと思うが、はじめて知った人は驚くだろう。一部の名が売れた有名作家こそある程度は売れるだろうが(それでも紙の本と比べればせいぜい5%ぐらいだと思う)それ以外だと2円だとか3円とか。要するに殆ど売れない。

過去に出版されたものを電子書籍化したって売れないし、新たに出たものを出しても宣伝をかけなきゃ誰も出たことにすら気が付かない。棚に刺さっているわけではないのだから検索しないと出てこないし、殆どの人は検索してまで電子書籍で買わないからだ。

そんな熱意のある人間ならとっくに紙の本で買ってる。読書をする人間の数がもともと少ないのに、そのうちさらに電子書籍なんてものに手をだす酔狂な人間はさらに少ない。iPhoneAndroidがあればKindleで本が買えることすらしらない人がほとんどだ。つまるところ、電子書籍は現状「売れるはずがない」のだ。

さて、現状の把握のためにいくつか数字が続く。現在プロの漫画家の数は推定でしか出せないが漫画雑誌が現在251誌。1つの雑誌で20人の漫画家を使っているとすると250誌で5千人。複数の雑誌で書いている人間が数%、連載を控えた予備軍、待機状態の漫画家を現役の半分として7千人から1万人。これが推定で出される漫画家の数になる。

食べれるレベルで売れているのがトップ1000人、トップ100人がめちゃくちゃ売れているとしよう。本屋はどんどん潰れている。新刊は日々増え続け今では漫画だけでも日に30冊は出る(年間12000冊)、売れている漫画は本屋に残り続け棚に残り続けるから必然売れないトップ100人以外の漫画が棚から削られていくことになる。

そういえば本書は別にノンフィクションマンガでもなく、フィクションなのでストーリーがある。女子高生の女の子が職場体験ということで映像を一瞬で記憶してしまう記憶能力を持った一人の天才男の職場に転がり込んでくる。その男は言葉巧みに鈴木みそ吉という漫画家にたいして現在の出版状況をめぐった絶望的な状況を解説し、今まで出版社の用意した船に載っていただけの状態から自分で舵をとる本当の意味での事業主に転換していかなければいけないと諭す。

その為の手法がなんとも心もとないが2つあって、1つはクラウドファンディング、1つがKindleのセルフ出版だ。この話が説得力をある程度持つのは書いている鈴木みそさんが今非常に「売れている」電子書籍著者だからだ。先日も2013年の電子書籍収支という記事をあげていたが⇒2013年電子書籍の収支 - CHINGE これほどまでに電子書籍で稼いでいる「ニッチ向け作家」は他にいないだろうという額。

凄まじいことに売上が1千万を超えている。もちろんこれは今までの蓄積を電子書籍にして出したり、値段を変えたり、セールにのっかったりと様々な要素が組み合わさっての結果だが、電子書籍でもこれだけやれるというひとつの(奇跡的な、かもしれないが)一例である。

紹介されているもう一つの方法はクラウドファンディングだ。希少価値をつけて金持ちに高く売る。100万円で10人に売っても100円で10万人に売っても得られる金額は同じだ。クラウドファンディングパトロンをインターネットで募集する。たとえばJコミでは活発に行われているこのクラウドファンディング★ Jコミの新型ビジネスモデル、「JコミFANディング」 のβテストを行います! 【初回目標額は10万円】 - (株)Jコミの中の人 だがサイン入り色紙や、または「高いかねで買ってくれた人に飲み会の招待券がついてくる」権利などで「普通に漫画を買うよりも高い金をファンから徴収する」仕組みだ。もちろん一定のファンがいる人にしかつかえない手段だが。

コンテンツの値段は実を言えば「際限なく高い値段をつける」こともできる。なぜなら、著者がつくりだす作品は別の人につくりだすことができないからだ。たとえば僕は秋山瑞人が書いた長編が1万円出さなければ絶対に読めない、となっても喜んで金を出す。秋山瑞人のような文章と物語を書ける人間は他にいないからだ。著者はいってみれば「独占供給者」なのである。実力があれば、そしてそれだけのオリジナリティと魅力を兼ね揃えていれば……という条件付きではあるが。

話はここから出版社から権利を取り戻して──という独立戦争の様相をていしてくる。出版社におんぶにだっこな状態から一人で戦う戦士になるのだ、って煽り過ぎだが。僕は正直な話鈴木みそさんの件は「真っ先にプロ作家が本気でやった例」として例外的にうまくいったケースであり後に続いても、成功例を模倣しても、このレベルで売れることはもうないんじゃないかなあ。というのも電子書籍市場で目立つ方法は実に限られているからだ。

1.もとより有名であること
2.ランキングにのること
3.日々のおすすめや値下げで特権的な地位にのせてもらうこと

これぐらいしかない。もとより有名であることはいうまでもない。ワンピースなら宣伝しなくても勝手に売れる。でもその地位にある人たちは極少ない。メインの発表媒体である雑誌の売上は年々下がっている。今後どんどんなくなっていくだろう。そうすると紙媒体での宣伝すら不可能になってくる。それ以外だともうネットのレビューサイトで取り上げてもらう他ない。3の日々のオススメ機能などはAmazonのショップで毎日、毎月の単位でやっていることだがこんなランダム性の強い要素に賭けられるはずもない。

2のランキングにのること。これが現状売上を大いに押し上げる要因になっている。電子書籍が「無限に広がる可能性を持った書棚」を持っていても、問題は「画面上に表示できるスペースは限られている」ということだ。読者は本屋をまわるようにして視覚的にいっぺんに本の情報を得ることは不可能なので。AmazonKindleトップページをみてみるとすぐにわかるけれども、ところ狭しと本の表紙を載せているが、その数の貧弱さ、スペースの貧弱さは悲しいぐらいだ⇒Amazon.co.jp: Kindleストア

中でも目立つのは日々変動をみせる「ランキング」。このランキングこそが「スペースの少ない」Web媒体で人に価値を知らせる最有力な手段になっている。Pixivでもニコニコ動画でもみてみると、「ランキング」形式ばっかりだ。ランキングを制するものがインターネット媒体でのview数を制す、というか判断基準がそれぐらいしかないからだろう。ランキングを毎日みていると1.値下げされたものがランキングに上がってくる。2.人気作家の新刊がランキングに上がってくる のが基本だ。

問題はランキングの枠がトップで表示される分については10個しかないところで、しかも人気作家の作品であればあるほど最近は発売と同時にKindle化されるので「枠の奪い合いが熾烈化」しているところだと思う。値下げすれば売れることも既に誰もが理解しているだろうから値下げを単純にすればいいというものでもない。ランキングを使って目立つのが、いくらニッチに的を絞ったところでどんどん難しくなるのではなかろうか。

この漫画ではその後出版社の再生プランとして社員を大幅削減、過去作やアーカイブを管理する所として残し、今までは受けてこなかった漫画以外の仕事、チラシや看板を描くことや大学を退官間近の先生の自伝本をマンガで描きおろすといったニッチな方向へと舵をきって「絵が書ける人間との大量のつながりがある」という残った利点を最大限活用した「絵が賭ける人材融通会社」として生き残っていく方法を提案していく。

実際マンガが売れなくなった、本が売れなくなったと言っても出版社が他の企業には持っていない価値を持っているとしたらそれは多数の作家との「コネクション」を持っているということだ。今後はこのコネクションを最大限活用していくしか道はない、というのは凄く合理的な考え方。でもこんなことはもう何年も前からわかりきっていたことで(電子書籍がくることも)森博嗣さんなんかは2000年代以前よりこのことを指摘している。

いろいろな条件が揃わなければ鈴木みそさんのようにニッチ作家が一千万円超えの純利益を叩きだすのは厳しいと思う。しかしたとえ生活していくだけの賃金を稼げないとしても、電子書籍出版というのはひとつの手段だ。僕も電子書籍を出してみようか、と思って今Amazonに申請中だが、ずいぶん簡単にできた。つまり簡単に一人出版社になれるわけで、「生活できないからやらない」とかそういう次元の話では既になくなっている。