基本読書

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マインクラフト 革命的ゲームの真実 (単行本) by ダニエル・ゴールドベリ,リーヌス・ラーション

マインクラフト自体への分析が主な本かと思いきや、製作者であるマルクスの個人的な人生に文章が割かれている。本人が書いたものならまだましだが、ただのちょっと文章を盛り上げていくのがうまいだけのノンフィクション作家が書いた、雑な伝記はかんべんしてくれ。ジョブズの時も思ったけど、こいつらひとの人生について演出を大幅にかけ、まるで自分が子供時代を伝記主と一緒に観てきたかのように語るのでたいへんうそ臭い。

原題はちゃんと伝記部分について触れている。Minecraft: The Unlikely Tale of Markus "Notch" Persson and the Game that Changed Everythingなのに。訳すときに『The Unlikely Tale of Markus "Notch"』の部分を省く意味はなんなんだ。まあ、副題にしてはちょっと長すぎるけどね。これはまだマシだけど、英語の副題ってだいたいアホかってぐらい長いからなあ。

僕がそもそもこの本に興味を持ったのは、マインクラフトがいくつかの面で新しく、そしてゲームとしての発想も面白かったのでどういう視点で作られているのかに興味があったからだ。伝記以外の情報についてはさすがに演出を加えても嘘がつけないので、確かにちゃんと描かれている。マルクススウェーデン出身の開発者である為、スウェーデンのゲーム事業についての記述も面白かった。全体的にいえば可もあり不可もある本だが、題材が面白いから紹介しよう。

さて、まずは題材であるマインクラフトについて軽く説明しよう。マインクラフトとはマルクスというスウェーデン生まれの根暗なオタクが基本的な部分は一人で創りあげたゲームである。千六百万人がマインクラフトをダウンロードし、そのうちの四百万人が有料でプレイしている。ちなみに今ではアプリも様々に広がっていて僕がプレイしたのはiPhoneiPad版になる。

ゲーム自体はしごくシンプルなもので、登録が完了してゲームを起動するとプレイヤーは四角い物体で構築されきった変てこな世界観に突如放り投げられる。そこからは地面を掘ったり広い世界を探検してみたり自分の家を作ったりモンスターと戦ったり刷る。特に何を強制されるまでもなく、チュートリアルがはじまったりもしない。いきなり、なんでもけずってなんでも創りあげられる世界の放り投げられるのである。

大地も、木々も、山も、台地も、すべてがブロックで構成されている。好きにブロックを取得して、別の場所に移動させることができる。つまり世界を思うがままにできるというわけだ。家を建てられるし、倉庫を建てられるし、城をたてられるし、中にはスター・トレックに出てくるエンタープライズ号を作ってしまう狂気的な人間まで現れるぐらいだ。

本書には「革命的」という表現が使われているが、たしかにけっこう凄いことをいろいろやっている。たとえば1.インディーズゲーム発であること。2.基本部分は一人の手によって作られたこと。3.今話題の最先端技術を使っているわけでもなく、グラフィック自体は20世紀のものかと思うようなシンプルさであること、などなどである。ああ、あと4.MineCraftEduという教育に使われるバージョンまで出来ている、というのもひとつ。

インディーズゲームであり製作者が一人に固定されるというのは製作者であるマルクスへの信奉者を多く産み出すようになったようだ。どこにいっても歓声を持って迎え入れられ、Twitterのfollowerがなんと151万人もいる。大人数開発になってみえなくなりがちなゲームのシステム開発者ではなく、アーティストとしての立ち位置を獲得したといえるだろう。

MinecraftEdu

あと特記しておくべきところといえば、教育に使われているというちょっとびっくりするような事実がある。製作者であるマルクススウェーデン出身であることも手伝って、特にスウェーデンでの使用が増えているようだ。どうやってゲームを使うんだと疑問に思うが、たとえば「歴史の授業で過去の町並みをMinecraftでつくって、今の町並みと比べてみよう」なんて使い方があるのだという。

実際四角を積み上げてなんだって作れるのだから利用方法もいくらでも考えられる。都市計画のモデルとして使用してみたり、算数の授業で面積の計算にマインクラフトを利用したり。いま話題の「ゲームフィケーション」のようなものだ。楽しく、学ぶことこそが効率的なのだと。これは教育にたまたま利用した教師がいて、それを開発者側が知ったことにより「使えるんじゃね?」と思った事例だ。

たしかにこんなこと、作っている側ではなかなか発想できないよなあ。ただどうやったら面白いものになるかという意図で作っているのだから。面白い事例ではあるが、時流などもありこのロジックを別のゲームに応用するというのも難しいものがある。ちなみにMinecraftEduとは、教育用に機能をいくらか変更したバージョンのこと(敵がでないだとか、教師が授業で使いやすいように改変されている)。

ゲーム自体の魅力はなんなのか

本書ではこのゲームがなぜ魅力的なのかというところにも(当然)文章を割いているけれど、あまりちゃんとした内容になっていない。フロー理論とかも引っ張ってくるが、一部しかこのゲームには当てはまらないし。ゲームにロジックがあるからいいとか、抽象的だからいいといった何十年前の議論だよということを蒸し返してくるし。

個人的な面白かった所

一応個人の感想を書いておこう。僕は長時間やったわけではないが、このゲームは確かに面白い。何が面白いのか。目標を自分で決められるのが重要なのはいうまでもない。人に言われたことをやっているよりも、自分から進んでやることの方が圧倒的に効率がいいのは誰もが知っている通り。学校の勉強は捗らないが家でマンガを読むのははかどる。

じゃあゲームもプレイヤが好きなようにできる、自由度を与えてやればいいかといえば自由すぎて何も持たないままフィールドに放たれても、何をしたらいいのかわからんのではその辞典でやる気などなくなってしまう。大雑把に結論だけ賭けば、そこに自分が挑戦すべくわくわくする何かがあって、目標を立てやすく、そこに向けて一心不乱にがんばるだけの環境が与えられているときに最高の条件が整う。

マインクラフトの場合世界がシンプルかつ基本動作が取得、吐き出す、移動の3つしかない。何も難しいことを考えずに最初は「なんか作ってみようかな」「世界を探検してみようかな」「なんか作るためのいい場所を探してみようかな」「材料を取得するついでに、今後できるものの為に整地しておかないとな」と目標を自分で思いつき、できることが頭のなかにぽんぽんと浮かんでくる。

僕の場合家でもつくろうかな、そのためにはまず抜群の立地を見つけてこないかな、なにしろ家だし……。と考えながら抜群の立地を探しているうちに割りと景色がいいことに気がついたりしていった。いい場所を見つけてもなんかでこぼこしていて形が悪いな、と思ったらそこを必死こいて無心で整地していくことはゲームなのに修行のような気がしたものだ。

ただまっ平らな空間を作っていくだけでも何やら愉しい。たぶん、自分がやっていることが確実に何かを前進させているのだという感覚が、充実につながっていくのだろう。掃除とかと似たようなところがある。そこにえいやえいやとブロックを積み上げていって、いざ何かできあがってみるともっと他の何かが作りたくなってくる。そういうゲームなのだ。

必死に家(のようなもの)をつくりながらふと上を見上げてみれば天空には何やら得体のしれない雲みたいなものが浮いている。これもブロックだから最初は天界……? みたいな感じなのだが、自分がブロックの操作に成熟したらあそこにブロックを積み上げていけるかもしれない! と即座にゲーム上における未来の目的を理解することも出来る。はじめて一瞬後にはゲームのわくわく感とか、「何が出来るか」がある程度把握できる割合親切な設計だと思う。

LEGOがそうであるように、人は創造性を発揮するような適切な環境が与えられれば自分で勝手に目的をつくって動き出すものなのだなあ、とこのゲームをやっていると自分の創造的な部分の自主性に驚くだろう。

インディーズから

インディーズから稀有なレベルまで収入をあげた事例で、いろいろ面白い要素があるもののゲームの出来の良さの観点から離れてこれをビジネス的な教科書としようとした時には「運」の要素が強すぎて使い物にならんね、という感想。経営戦略の棚に本棚では置かれてたし、書き手の視点としてもそこにはあたっているんだけどね。

夢のある話ではあるよね。スウェーデンは総人口が神奈川県ぐらいしかいなくて、自国でテレビ番組の配信などなど割にあわないからアメリカのコンテンツを日頃から流用されて育っていくから文化的な親和性が元々すごくあるところだからとかいろいろ世界的ヒットへとつながっていく要因はあるんだけど、そうしたピースが奇跡的に全部くっついた感じ。

立ち上げた会社は「コンセプトを使いまわしてかけたコストに対しての回収率を高める」という当たり前のゲーム会社がやることを「あえてやらない」として解説されているが、次回作である『0x10c』の開発中止を宣言してしまうし、「次」を作り出してヒットさせていけるか否かが興味深い所。

マインクラフト 革命的ゲームの真実 (単行本)

マインクラフト 革命的ゲームの真実 (単行本)