基本読書

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世界の読者に伝えるということ (講談社現代新書) by 河野至恩

なんだかあまりうまくいっている感じのないクールジャパンなどをみて「いかにして世界へ伝えられるような情報発信をするか」の手本が知りたくて読んだのだけど、それについてはあまり得るものもなく。もちろんある程度は指向しているのはわかるのだが、単純に「他国で日本研究がどう行われているか」の解説や「世界文学とは何か」といった脇道の話に終始していて、実際に伝える方法についてはほぼ常識論で終わってしまっている。もっとも本書のテーマは「日本初の文化を世界の読者の視点から見る」ことだと最初にあるから、そこからはブレていないだけど。

情報発信方法について常識的だというのはたとえば次のようなことだ。結局のところ日本国内で流通しているコンテンツはどれも「日本の文脈」にのって進行しているものであって、海外にそれをただ翻訳して持って行ってもダメだよね。ちゃんと向こうの研究の状況を理解したり、受容のされ方を理解した上で、注釈をつけたり国ごとの問題意識に結びつけたりといった改変を加えていって「相手の目線で見ること」が重要だよね、という。そして日本の文化を他所へわざわざ持って行こうというのだからそこには「なぜあなたがたにはこれが必要なのか」「日本のコンテンツにどんな普遍的な価値があるのか」を語り続けなければいけない、とか。

うーんしかしその辺はそもそも、大前提なんだよなあ。あとは圧倒的に物量としての公式翻訳と、その提供速度が足りなかったのもあるけどアニメ分野においてはかなりの改善を見せているし。でもまだまだ「最初の段階」としてやれることっていくらでもあるはずなんだよね。まず日本のコンテンツを「デジタル」で海外から買えるようにするとか。デジタルなら海を越えられるか 海外の日本研究を支援するために クールジャパンや一部の状況は悲観するに充分な惨状だけど、それ以外だと徐々に改善しつつあるよね、っていう。アニメ以外の分野、文芸だとそもそも翻訳物が受け入れられる需要があるのかっていう問題があったりして、そうした話が読めるかなと思ったのだが。

いくつか個別の議論で面白いところもあるのだけど(日本人にしかこれはわからないとする言質には「自分たちは特別だ」というナショナリズムがあり、他国の文化を拒絶する結果に繋がるとか)全体を通していえば、求めていた部分については得るものは少なかったなあ。日本研究が海外においてどう行われているのかについてなど、同テーマをあまりみない本ではあるので面白かったけれど。

世界の読者に伝えるということ (講談社現代新書)

世界の読者に伝えるということ (講談社現代新書)