基本読書

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強欲の帝国: ウォール街に乗っ取られたアメリカ by チャールズ・ファーガソン

アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞をとったインサイド・ジョブの監督が書いた本がこの『強欲の帝国』だ。映画の補填というか、情報量としてはこちらの方が多い。本書はアメリカの腐敗した状況について率直に、シンプルに述べていく。政治面や日本の財務状況についての暗い話題は毎日あがるが、アメリカの状況だってとてもいいものではない。隣の芝生は青く見えるというが、隣の芝生も腐敗してみえるというなんとも嫌な状況だ。でも他人事ではないので知っておいたほうがいいだろう。

野放し状態の銀行家はクズ証券の売り放題市場をつくりだし、だれもが値段の上がり続けるバブルの只中にいたことを放置するばかりかそれを推し進め、バブルが崩壊し膨大な痛手を世界全体が負った時も誰一人として訴訟されることがなかった。なぜ、あからさまな詐欺行為を行っているにも関わらず、誰一人として罪に問われないのか? 大統領や政権患部は処罰をしたくとも彼らの行為は違法ではなかったとして処罰を出来ない理由を正当化している。

が、実際はそんなことはないと批判するのが著者のファーガソンだ。明白な詐欺行為(住宅ローン担保証券の販売資料、その安全性などを謳ったもの)が行われており企業のトップはバブルがピークに達した時自社の財務状態にたいして嘘をつき続けてきた。安全性や流動性についての嘘を専門家である人間につかれたら素人である買い手には判断をなかなかできるものではない。

金融機関のトレーダーらは短期的な結果から報酬を得るようになり、長期的な目的を達成するインセンティブを持たないためしばしば顧客や業界、自社にとってすら有害な行動をとる強いインセンティブを持つようになった。さらに大きすぎる銀行はその破綻による影響が大きすぎて潰せない、政府によってその安全がある程度は保証されているとなれば自分が死にかねないリスクをとることにたいして躊躇する理由がなくなってしまう。

アメリカのGDPは伸びを再開しており、失業率も回復傾向にあるとはいえまだまだ高い水準にとどまっている。そもそもなぜGDPが増えているのに雇用が増えないのか、といえば本書はその主な理由をアメリカの壊滅的な教育状況にみる(アメリカの高校卒業率は80%しかない)。実際にThe Smartest Kids in the World: And How They Got That Way by AmandaRipley - 基本読書 などを読むとアメリカの教育がいかに死んでいるかがわかる。イギリスの労働党のトップなどは、もしアメリカンドリームを掴みたかったらフィンランドに行くんだ、とまで言っているぐらいだ。

金融、教育、不平等……あからさまな犯罪行為が金融業界では日常的に行われ、かつ明白に行われてきたのに誰も罰せられていないという「無法地帯」な現状、公平感が著しく損なわれていく超格差社会が覆うアメリカ国民の困惑が描き出されていく。さまざまな問題が絡み合っているのは当然だが、その大本には金融部門と超富裕層が自分たちに有利な方向に政策を大きく動かすことが出来る環境、構造そのものがある。政策が彼らに有利になればなるほど、さらに強力に豊かになる。

などなどなどなど。こんなかんじでアメリカの暗部を描き出していくわけだ。本書の構成として、前半の章は金融危機がなぜ起こったのかを歴史的にみていき、次に金融部門の行動においてどのような犯罪行為が行われていたのかを、出来る限り証拠ベースで進めていく。金融犯罪の増加と、それをきっちりと罪に問う必要性を問うた後、金融部門に限らない不平等社会になった理由の分析を行っていく。

アメリカについて書かれた本で読むのはほとんど経済関連のものばかりだが、どこにも景気のいい話は出てこない。ほとんどの場合格差を嘆き、失業率を嘆いている。それより何より危機的なのは若者の意欲のなさかもしれない。若者の間での一般的な見方は次のようなものだという『カネ持ちの親かコンピューター・サイエンスの学位かMBAを持っていれば大丈夫だが、そうでなければ未来は暗い。その運命を変えてそこそこカネ持ちになりたいのなら、上司を喜ばせることに徹底的に集中したほうがいい』

アメリカンドリームは既に死んでいるのだろう。資本主義の概念が生まれてから200年あまり、未だこれに変わる効率的なシステムは見つかってはいないが、問題、課題は山積みでアメリカがこれを乗り越えられるのかどうか(特に若者の意欲のなさは、日本も他人事じゃない)、これからの対応にかかってくる。著者のファーガソンはこうした状況における対応策も一応述べているが、曖昧な方針程度のものでその辺は残念。

強欲の帝国: ウォール街に乗っ取られたアメリカ

強欲の帝国: ウォール街に乗っ取られたアメリカ