基本読書

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天体衝突 (ブルーバックス 1862) by 松井孝典

昨年のことだがロシアの都市チェリャビンスク周辺で起こった天体衝突はまさに「事件」だった。下記に動画が様々な角度から残っていることもあって、天体が落ちてくるときにどのように見えるのかがこんなにも明白にわかり、さらには広い地域にわたって衝撃はによってガラスが割れるなどの被害がもたらされたことも特徴的である。今まではこれほど人間文明に影響をあたえる形で天体衝突が問題になったことはなかった為、文明にどのような影響をもたらすか、その影響を推定することのできるひとつのケースになった。

これを初めてみた時は「うわあ、なんじゃこりゃあ!!」と思ったもんなあ。ちなみになんでこんなにたくさんの映像記録が残っているのかといえば、ロシアでは冬に自動車事故が多く(何故だ? 凍るからか?)そのためほとんどの車にカメラが設置されていたからだという。証拠のためにね。結果的にはそれが役に立った形になる。

今では恐竜の絶滅もまあ隕石だろうということで決着がつきつつあるし、人々の認識も「天体というのは衝突することがあり、それによって地球環境は大きく変わりうるのだ」という方向へ揃っていくように見えるが、考えてみればこれほど突飛な仮説もなかなかない。恐竜の絶滅は地球の環境変化によるものが普通だと思われていたし、その他の文明だって地球外からやってくる突発的な大異変を想定してはいない。

地球や生物の進化が長い時間をかけてゆっくりと変化するという考え方を「斉一説」といい、突発的な事件(天変地異)が起こったとする考え方を「激変説」、という。今から何百年も前常識でことを考えると後者の方が突飛な説に思える。というか人類はよく恐竜の絶滅を天体衝突に見いだすことが出来たものだと感心してしまう。隕石説が出てきたのも1980年台だから本当につい最近の調査のおかげなのだ。

もちろん無から仮説が出てくるわけでもなく、地質を調べた時に 白亜紀第三紀新生代)の間には謎の地層(K-T境界層と呼ばれているが)がある、それはいったいなんなのか、というところから産まれてきた仮説だ。普通のやり方では生まれ得ない地層で、巨大な隕石説が現れ、次第にこの地層の層が厚いところへ向かってその「根源」を探しにいく──、たぶん最初にこの仮説を思いついた人は興奮しただろうなあ。

本書は主に斉一説と激変説を例にあげながら天体衝突がいかに、どれぐらいの頻度で起こるのか、どんな小天体が飛来して大きさによる威力はどう変わるのか。クレーターからいかにしてその威力を推定し、地球史において何度こうした天体衝突が起こっていると考えられるのかなどなど複合的にみていく一冊で、他にあまり類をみないため良い一冊だ。

斉一説から激変説へと思考を切り替えるのは凄まじい体験だっただろう。『これは、まさに、科学におけるパラダイムシフトの例である。』と本書冒頭では語られるがまさにそのとおりだ。これまでの常識が一変してしまうような説の転換であり、生命の原初を地球外からやってきた隕石に求めるパンスペルミア説 - Wikipedia など、より明確な根拠が示されれば文明、生命史においても革命を起こす可能性がある。

天体衝突 (ブルーバックス)

天体衝突 (ブルーバックス)