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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

日本の雇用と中高年 (ちくま新書 1071) by 濱口桂一郎

 本書はずいぶんとわかりやすく過去とこれから先を整理してくれている一冊であり、読みおえると自分の現状や行末を俯瞰してみれるなかなかの良書。

 自分がまさにその只中にいるからこそ現状の日本各所で見られる労働形態には違和感ばかり募っていき、かといって欧米の例を持ちだして「こうなれ!」と一点張りで押し付けてくるのも芸がない。そもそも今のひずみだってそれなりの利点があったからこそ選択されてきたものだ。なればこそ容易く全く違った文脈を持つ他国と同じようにできるはずがない。まずは過去を振り返って文脈をたどりどこからおかしくなったのかを一つ一つ点検していきよりよい、今から動きやすい方向へとだんだん舵を切っていくのが地味だが得策というものだろう。

 本書では、まず大きな構造的な違いを欧米と日本の間にみていく。たとえば欧米のジョブ型社会では会社側がやってもらいたい「職」がまずあり、それにふさわしいスキルを持つ人間を採用するのに対し日本のメンバーシップ型社会では、まず会社にふさわしい人物を新卒を一括取得しその上で採用した人間にその時存在する「職」をあてがって覚えてもらっていく形になる。良い点としては職がなくなってもたらしく覚えてもらえばいいので解雇しなくても済み、会社への忠誠心がうまれるところだろうか。

 ジョブ型の場合もともとやってもらっていた「職」がなくなってしまった場合その職についていた人間は解雇される。あるいは欠員を補充する場合もスキルのある人間をあてがうので能力を養ってきた中高年ばかりが採用され若者にまでその順番が回ってこないことからジョブ型社会では若者が雇用問題になる。一方メンバーシップ型の場合企業内で元々やっていたもらった職がなくなっても別の場所に会社が仕事を見つけてくることが義務化している。

 その代わり年数が経っていくと職が変わっていき(ほとんどの場合現場から管理職へ)能力と貢献度もそれに伴って上がっていくことを前提として賃金は高くなる。企業からすれば変化に柔軟に対応できるコストの低い若者の方が使い勝手がいいので人を切る場合は中高年からだし、補充は若者からになり中高年が雇用問題として焦点があたるようになる。ようはジョブ型を選択すると若者の労働が問題になりメンバーシップ型を選択すると中高年が問題になってくるのだ。

 それぞれの型にそれぞれの問題が発生するのは言うまでもないが、メンバーシップ型のひずみはこの日本社会で働いている人間には明らかなところが多々あるだろう。たとえば年功序列制で賃金が上がっていくので途中で子育てなどのドロップアウトにより戦力が減少するような状態に対応できないこと(それにより女性の労働力が無駄になっていること)。なぜか経験年数に応じて管理職としての立ち位置につけられること(職が変わっていくこと)。

 誰もが管理職になれるのではないにも関わらず、残業代規制から外れさせるために管理をしない管理職が大量に生産され残業代が払われない定額使い放題社畜が量産されてしまっていること。年齢と共にあがっていく賃金と責任に応えるために生活スタイルまでもを変質させていかなければいけないこと。これのせいで「賃金はいらないからもっと時間がほしい」とか「エンジニアの仕事ばかりしていたい」という個々のライフスタイルに合わせた職業形態をとることができなくなってしまう。

 問題はそうした状況をいかにして変えていくかだが、本書で提案されているのはジョブ型正社員を増やしていこうという方向性である。年齢に応じて役職がついて給与があがっていくのではなく最初から働く時間、場所、職が明確に規定されているジョブ型正社員によって多様な働き方が許容されるようになる。もっともそれを最初から適用すると若者の雇用問題になってくるので、本書の題名にも表れている中高年期からジョブ型労働形態への移行を進めていくゆるやかな携帯を想定しているようだ。

 僕は正直いって日本の労働環境にはそれ程不安を感じていない。それがなぜかといえば今の若者はすっかり海外の労働環境を知っていて、価値観的にすっかりジョブ型を志向しているからだ。明らかに労働の負担が自分の利益に見合わない時、すっぱりと辞めて逃げて行くことが出来る。企業は労働力を確保するために労働形態の変更を迫られるし、残った若者も今後会社の中心になって作り変えていくだろう。あと5年〜10年したら日本の労働形態は自然とガラッと変わっていると思う。

 もっとも年齢差別、性別差別が未だに激しい現状が変わるかどうかはよくわからない。なんでこんなに遅れてるんだろうか。結局のところ労働システムが年齢差別、性別差別をなくせるようになっていないところに一つの原因があるのだと思う。新卒一括採用が今の制度を支えていて、新卒一括採用と中高年のコスト高がある限り年齢差別はなくならないし、女性が子育てや家庭のことをするという前提からは年功序列制度で賃金が上がっていく現状のモデルには対応できない(途中でパフォーマンスが下がるようになるから)。

 労働システムが変わればそのあたりも改善されてくるとは思うが、うーんどうだろうね。それだけが原因とも思えないのでこのあたりは今後の個人的なテーマとしていこう。今の20代〜30代前半ぐらいまでと40代以後の世代の仕事に対する価値観の違いはちょっと見ていてびっくりするぐらいジョブ型とメンバーシップ型に分かれているのでこういう構造的な知識を一度頭に入れておくといろいろと把握しやすいことが多いと思いますよ。

日本の雇用と中高年 (ちくま新書)

日本の雇用と中高年 (ちくま新書)