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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

Sleep Donation by KarenRussell

SF 洋書

 中編の近未来世界を舞台にしたSF作品。突如発生した「身体に異常を引き起こし死者を頻発させるほどの不眠症」に侵された世界で「睡眠の寄贈と配布(献血みたいなイメージ)」が行われるようになっている。寄付者から集められた睡眠はSleep Bankに入れられて、それを必要としている不眠症の人達のもとへ届けられる。ただしチェック体制が万全でなかったばっかりに、悪夢持ちのやつが睡眠を持ち込んだら死にたく成るほどの悪夢にうなされる人間が出てしまって──と嫌な感じになっていく中編。だいたい100頁ちょっとだろうか。100頁ぐらいの本がKindleなら出せるし、変えるので嬉しい限り。

 著者のKaren Russellは日本ではまだ本が出ていないみたいだが2012年のピューリッツアー賞フィクション部門の候補作に選ばれるなど※訂正 これ、出てました。『スワンプランディア!』、ワニの表紙。あともうすぐ新しく『狼少女たちの聖ルーシー寮』が出るそうです。新進気鋭の作家といっていいのだろう。語り手であるTrish Edgewaterはこの深刻な不眠症によって死んでいった被害者の最初の一人の妹。「睡眠を投入する技術がすぐに出来ていたら姉を救えたのに……」と常にそのことを気に病んで、今は非営利団体の睡眠普及組織でリクルーターとして働いている。

 物語はチェックをすり抜け質の悪い睡眠、つまりはそれを投入されると悪夢を引き起こしてしまう夢を寄贈したDonorYと、特別に上質な睡眠を提供することができるが赤ちゃんであるBabyAを中心として展開していく。この辺とかまんま、献血時のチェック体制とか、何歳から献血を認めるのかの問題、献血上の国の問題をめぐるものとしても読める。睡眠障害が精神病の類型であることも含めて、アメリカの現代社会への参照が含まれているのは間違いがないだろう。

 アメリカ人はうつ病をカミングアウトしやすい環境のせいかもしれないが、ちょっとそれだけでは説明がつかないぐらい精神病と診断される人の数が多いし。America: #1 In Fear, Stress, Anger, Divorce, Obesity, Anti-Depressants, Etc. | Survival 強烈な睡眠障害という現実に存在しない(実際は存在しないわけじゃあないんだろうけど)病気を扱いながらも、実にリアルな恐怖感が表現されている。危機感、状況自体はアメリカの社会状況をそのまんま反映させているからだろう。

 全体にわたっている雰囲気はホラーそのもの。そもそも不眠症で、20日間近く眠れずに起き続けたあげく死んでいくとか、悪夢を注入されてしまったばっかりに夜眠ることが恐ろしくて眠れないままに死んでいくとか、死因からして恐ろしすぎる。ナチュラルに拷問だよそれ。そして実は味方だと思っていたトリシュの上司が実は日本のカネ持ちに特別に睡眠を提供していたことなどが明らかになるにつれてやばい事態に巻き込まれていくドキドキ感の演出など、全般的にホラーの技法を使っていることもある。

 プロットがそう面白いわけでもないし、文体がそう魅力的なわけでもない。英語力の問題かもしれないがその時喋っているのが誰なのかわからないところもある。ただ現実と虚構が入り混じったアイディアとその魅せ方はなかなかおもしろくて、短編だけでなく長編にも期待がもてそうな感じ。

Sleep Donation: A Novella (Kindle Single)

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スワンプランディア!

スワンプランディア!