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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

太陽・惑星・天冥の標・鶴田謙二

毎月やっている月ごとまとめを今月もやっていきますよう。2014年の12月はまあいろいろ出ましたなあ。個人的には2014年最大の衝撃の新人作といってもいい『太陽・惑星』を読んだし(出たのは11月の終わりだけど)、巻数を重ねてなおその勢いを失うどころか加速し続けていく天冥の標シリーズ最新刊も出て、あとはライトノベルや漫画の分野で待ち望んでいたものがいくつか出た月であります。『別荘』『遁走状態』などなど外国文学も面白かった。

ノンフィクションがあまり読めなかったのが心残りか。出版業界のイベント的に何かめぼしいものがあったかとちょっと振り返ってみると、なんかあったっけ。早川のSFマガジンが隔月刊化する前の号が出て、あとはまあ2014年の出版売上が大層ひどいことになっているとかそのあたりかな。うちのブログもとうとう売り上げ的には紙の本を電子書籍が上回っております。それはまあ、レビューを読んだ後に電子書籍であればすぐに読み始めることが出来るという相性の良さがありますが。

そんなことはどうでもいいか。漫画とかライトノベルはそこまでちゃんとした記事を書いてないのですが、今回はそっちで面白いものがいくつかあったので重点的にピックアップしていくかもしれませんが、まあまずは小説から。

12月の小説

今回個人的には第二回ハヤカワコンテスト受賞作であるニルヤの島 by 柴田勝家 - 基本読書と新潮新人賞受賞をした太陽・惑星 by 上田岳弘 - 基本読書がなんといっても飛び抜けていた。あまり間をおかずに読んだのですが、時間も空間も主観も連続せず、縦横無尽に分断されながら物語っていくスタイルが共通していてこれが時代性ってもんなのかなあ……と思ったり。過去の名作はどんどん蓄積され、パブリックドメインに吉川英治が入るような時代ですから、新人はある意味では現代の作家たちとのパイの取り合い以上に「過去の作品との戦い」になっていくはずです。

ニルヤの島 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

ニルヤの島 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

太陽・惑星

太陽・惑星

そんな中で新人が発揮できる優位性とは何かといえば1つは、過去作を踏まえて先人がやっていないこと、踏み入れていない場所へあえていくこと、あるいは先人が書いたその先を書くこと。A.Cクラークが書いたことをもう一度やったってしょうがないわけですから。もう一つは時代性を捉えることであります。現代人の空気というか、雰囲気みたいなものを敏感に捉えるのは同時代人にしかなかなかできることではないので(稀に未来予測じみたヨミから「未来の人間こそが受け入れられるような小説」を書く異才がいるので必ずしもその限りではありませんが)。まったく別の分野から出てきた二人だけれども、この空気の捉え方がすごく面白いなと思う12月でした。どちらも次に書く作品がすごく楽しみ。

それからもう一つは天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART2 by 小川一水 - 基本読書 で、これはもう伝道入り。全十部作完結を目指してはじまった物語で、いまようやく第八部が終わったところなのですが、物語ことここに至ってその魅力が衰えるどころか、世界観を拡大し新たな要素を見出しながら加速的に面白くなっているという素晴らしいシリーズです。新刊が出る度に総評レビューもそのときの気分で半分ぐらい書き換えていてもはやライフワーク的なレビューになっている⇒全ての力を尽くして天冥の標シリーズをオススメする - 基本読書

SF、サイエンス・フィクションといってもその魅力は一言に表せるものではないわけですよ。パンデミックSFとかいって人類が未曾有の危機に陥って病気をいかに根絶するのかー! という人類規模の危機を書いたものもあれば、宇宙世紀とかいって宇宙に進出した人類が宇宙空間でどんぱちやらかす物もあれば、ロボットに心はあるのかとか意識は産み出せるのかとかそれぞれの分野で、それぞれの魅力がある。SFはもはや拡散しすぎてしまった。それなのにこの天冥の標というシリーズは、そうしたSFの魅力という魅力をすべて取り込んでみせるとばかりに徹底的に書いて、しかもそれを一つの年代史としてまとめあげている。

天冥の標VIII  ジャイアント・アーク PART2 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標VIII ジャイアント・アーク PART2 (ハヤカワ文庫JA)

このシリーズの凄いところは(まだ語るのか)、新刊が出るたびに波が高くなっていくところなんですよ。波って何かといえば、読者の感情のボルテージですよ。第一部が出たばかりの頃、何やら面白そうな話が始まったぞとはみんな思っていても、それが本当に面白いシリーズになるのか半信半疑だった。第二部が出た時に、うわあなんだこれは、なんだかすごいぞという反応が出てきた。第三部、第四部と新しい巻が出る度に、なんだなんだ、これはおかしいぞすごすぎる……と反応の質が変わってきた。

今回みたいに新刊が出ると僕はまた「うおおお新刊が出たぞおおおもしれえええ」と叫ぶわけだけれども、そうするとまた誰かがどれどれそんなに言うのならわたしも読んでみようかしらと参入して、そういう人達がみんな今の僕みたいに「うおおおおおなんだこれはおもしれえええ」と感化されていく。新刊が出る度にこの流れが起こっていて、ようするにこれが波が高くなっていくという意味ですよ。新刊が出る度に、熱狂的な天冥の標読者が増えていく(ように見える)。メールやツイッタの反応で「気持ちを代弁してもらいありがとうございました!」とか「もっといろんな人に広まれ!」と代弁のように記事を拡散してくれる人もいて、読んだ人間の熱量の高さを感じる。

SFに偏ってしまったので違う方向にもふっていくと、別荘 (ロス・クラシコス) by ホセ・ドノソ - 基本読書 とかも面白かったな。これはもう完全に文体の、というよりかは語りの魅力の勝利。地の文は洗練されていて、セリフがいちいちかっこいい。『「そうだとも」フナベルは言った。「好きでオカマをやってるんだ、お前たちのように金のためにオカマになる奴らとは違う」』とか声に出して読みたい日本語ですよ。わかりやすいプロットで進行していくわけではないし(勇者が魔王を倒すみたいな)、時間の流れがぐちゃぐちゃで何がなんだかよくわからないところもあるのだけど、象徴的なイベントをつなげて物語っていくスタイルがたいへん素敵な作品です。4000円近くしたんだけど自分へのクリスマスプレゼントに買ってよかった。

別荘 (ロス・クラシコス)

別荘 (ロス・クラシコス)

ノンフィクション

年末ということでアベノミクスや増税の成果検討はいかがか。日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点 by 片岡剛士 - 基本読書 この本は地道に数字をおって、より分けて、どこからどこまでがアベノミクスの成果でどこからどこまでが消費税増税の痛みなのかを細かく検討していく良い一冊。僕は基本アベノミクスに賛成というか、リフレ派の主張を採用している立場なんですけどあの界隈の人達って喧嘩っぱやいんで腰がひけちゃうんですよね。僕も熱烈に支持しているというか、反対派の理屈を読んでも納得がいかないし、リフレ派の主張する理屈は実際に数値として現れている上に現象としては確かにそうなるよなと思うところなのでそういうもんなのかなと考えているぐらいなのですけど。

日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点

日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点

経済でもいっこあげておくと海賊と資本主義 国家の周縁から絶えず世界を刷新してきたものたち by ジャン=フィリップ・ベルニュ,ロドルフ・デュラン - 基本読書は面白かった。 ソマリアの海賊は本書の定義からすると海賊ではなくなってしまうというなかなかぶっ飛んだ本。じゃあどういう定義なのかといえば、国や資本主義が「テリトリーの拡大」⇒「ルールの敷設」を続けていく仕組みだと考えた時に、常にそのテリトリーの周縁でルールに納得がいかないと抵抗を続けたり、テリトリーの拡大時の安定していない防衛機構なんかをついて利益を出そうという集団を海賊と定義し、彼らがいたからこそ国家・資本主義という制度は常に外側からルールの改変を促され続けてきたのだっていう。

だからこの定義でいえばハッカーもそうだし自国では法律で禁止されているから許されている国でクローン人間を創ろうなんて言う人達もみんな海賊なわけで、たしかにそういう人間がいるからこそ国内のルールが改変されることもあるわけですよね。時には私掠船免状、ワンピースでいうところの王下七武海みたいな海賊なんだけど政府公認の海賊みたいなよくわからない形で内側に取り込まれる人達も出てくる。今後国家の力は弱まりこそ強まることはなかなかないと思うけれど(国連のような国際組織の力の増加と、GoogleやAppleのような一企業の力がどんどん大きくなっているので)このルール改変システムの指摘は重要だと思った。

海賊と資本主義 国家の周縁から絶えず世界を刷新してきたものたち

海賊と資本主義 国家の周縁から絶えず世界を刷新してきたものたち

  • 作者: ジャン=フィリップ・ベルニュ,ロドルフ・デュラン,谷口功一,永田千奈
  • 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
  • 発売日: 2014/08/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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もう一つは、進化論という非常に使い勝手がよくそこらじゅうで使われる語を、ちゃんと教えてあげようという親切な一冊。理不尽な進化 :遺伝子と運のあいだ by 吉川浩満 - 基本読書 キリンは別に高いところにある草を食べられるように自分の意志で進化したわけじゃなくて、たまたま首の長い個体が生き残る確率が高かったから遺伝子が残ったよね、それにどれだけ能力が優れていても恐竜みたいに地球環境の変化によって容易に絶滅しちゃうのがこの世界なんだよっていう当たり前のことを丁寧に書いています。「生き残るためには進化しなければいけない!」なんていうのはだから、基本的には間違っているわけですね。
理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

漫画

まず漫画からいくけど、鶴田謙二さんの『ポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniere 』はもう最高。素晴らしい。この絵は国宝だよほんとに。基本裸の、黒髪の女がごろごろしたり猫とたわむれたりするだけの話なのだけど、この鶴田謙二さんの描くけだるげな黒髪女性が最高なわけです。裸のフォルムが完璧だし、何より洗練されたエロティックさがある。その完璧なフォルム、洗練されたエロをあらゆる角度、あらゆるポージングで漫画にしていくという、感謝しかないですね。もう表紙のこのどこか不満気な眼、だるそうな表情、まったく恥ずかしそうにしていないポーズが最高なわけですよ。

ポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniere (書籍扱い楽園コミックス)

ポム・プリゾニエール La Pomme Prisonniere (書籍扱い楽園コミックス)

ライトノベル

今月は個人的には豊作。まず始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇 (ダッシュエックス文庫) by 王雀孫 - 基本ライトノベルが出た。俺たちに翼はないのシナリオライターである王雀孫が執筆したライトノベルで、まあとにかく筆が遅いのだが出れば面白い。基本喜劇として進行しながらも、悲劇の重さもしっかりと書け、しかもそれらを最終的に統合してしっちゃかめっちゃかにするという無茶苦茶な荒業を『俺たちに翼はない』で披露していて心底惚れ込んでいたものだが、本作も基本漫才の芝居じみたハイスピードなやりとりを続けながらどこか暗さを感じさせる。話自体は全く動いていないからその点で批判が出るのはわかるけどね。

始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇 (ダッシュエックス文庫)

始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇 (ダッシュエックス文庫)

人類は衰退しました 平常運転 (ガガガ文庫) by 田中ロミオ - 基本読書 も出ましたねえ。こっちはシリーズ完結後の後日談的な短篇集&BD/DVD特典としてついた小説の合わせ技で、本来のコンセプトに近い一話完結の金太郎飴的な短篇集になっている。もちろん面白いけれど、やっぱり田中ロミオさんは長編作家なんだろうなと思う。しかし同時期に王雀孫、田中ロミオ、丸戸史明と時代を代表するようなエロゲーライターのライトノベル作品が出てしまうのは、何かしらを象徴するようで不思議な感覚を覚えました。

シリーズ第一作目を取り上げていくと『筺底のエルピス (ガガガ文庫)』が面白かった。著者のオキシタケヒコはこれがデビュー作だけれどもプロットもバトル描写も、どれをとってもこなれている。何より現代伝奇物だが人に取り憑く鬼を倒すというわりと「ふーん」としか言い様がない設定がSF的に練られている。それを倒す側の武器や描写もいちいち科学にのっとって描写されていくので、面倒くさい人間にとっては面倒臭いだけだが設定に緻密さを求める人間は好きだろう。たとえば銀髪のヒロインを出すのもいちいち理由付けをしていて笑える。『人間の毛根細胞は独立した代謝系を持つため、栄養が充分に行き渡らない状態で伸びた髪は、細胞の間に隙間ができ、その空白や気泡が光を乱反射する。だから彼女の髪は、銀色に輝いている。』

筺底のエルピス (ガガガ文庫)

筺底のエルピス (ガガガ文庫)

個人的にはバトルの描写が緻密で面白かったな。鬼を倒す能力者が各国に存在しているという設定なのだが、能力者ごとに固有能力が違っていて必然バトルにはさまざまな組み合わせが生まれてくる。バトルを小説で書くのが難しいのは、絵を想像しづらいというのもあるだろうがAとBが戦った時にBが勝った、というのを緊迫感と説得力を持って書くのが大変だからだと思う。

緊迫感を出すには同レベルの実力者、あるいは主人公勢が極度に劣勢という状況にしないとならないが、そうなると今度は同レベルの実力者間で何らかの実力の不均衡が起こることか、劣勢を巻き返す特別なロジックを書かなければならない。故に相手の油断を誘ったり、突発的なイベントで注意をそらしたり、あるいは突然何らかの理由でパワーアップしたりするわけだが、それは一歩間違えば容易く「ご都合主義じゃん」となってしまう。これはまあ、小説に限らないけどね。

で、本作はバトル時における逆転のロジックが綿密で読んでいて納得のいくものだった。バトルで難しいのは「すごい実力者」と「かなり劣る主人公勢」が戦った時に、「かなり劣る主人公勢」が勝つシーンを書くことで「なんだ、すごい実力者、ぜんぜんすごくないじゃん」となって敵の格が落ちることだけれども、この処理も綿密=戦いが終わった後も相手の格が落ちない のでいろいろと手練手管が洗練されているなと思った次第でした(上から目線だなあ)

おわりに

SFが充実していた月だったなあ。そうそう、ライトノベルは最高の効率で、最高の金儲けを『WORLD END ECONOMiCA』 by Spicy Tails - 基本読書の文庫版も出たんですよね。支倉凍砂さんが同人ノベルゲームとして出したものの、小説版(ノットノベライズ)。月で株取引というめちゃくちゃな設定だけれども、三部作終わる頃には「ああ、これは確かに月を舞台にしないと無理だわ、そしてこの物語、めちゃくちゃ面白いわ」となってるはずなのでオススメ。金ってありとあらゆるものに左右するし、容易く人の絶望と歓喜を引き起こせるから物語装置として非常に優秀なんですけどあんまり扱われないので残念。

とまあ他に書くこともないので、また次月〜