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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ニッポンの音楽 (講談社現代新書) by 佐々木敦

新書

佐々木敦さんによる1960年代末から現在にまで至る日本のポップミュージックの歴史をおった一冊。歴史をおったっつってもそこには何百何千というアーティストの列があるわけで、すべての動きを追っていったら年表出来事羅列形式でもない限り新書一冊におさめるのは無理な話だ。その為本書はだいたい十年ごとに区切り、十年の中でも特徴的な動き……基本的には特定のアーティストを取り上げながら歴史の変遷をみていく。時代の寵児とでも呼べそうな存在はいつの時代にもいる。ざっくりとした形にはなってしまうものの「どのような問題意識・環境で新しい音楽が出てきたか」「新しく産まれた音楽を聞いたクリエイターはそれをうけて次に何をつくったのか」と連綿と変化・発展を遂げてきたニッポンの音楽が概観できる形に仕上がっている。

僕自身は音楽をまったく聞かないしカラオケも大嫌い。本書で取り上げられているアーティストや楽曲のことも一度も聞いたことがないものがほとんどだ。それでも特定分野の歴史の動きには興味をひかれるし、何よりこれを機会にいろいろ聞いてみようかとも思うようになった。ほぼ無知であるだけに本書の妥当性についての検証はまったく行えないわけだけれども、書かれていることで「それはおかしいのでは」と思えるような理屈の飛躍はみられない。当時のアーティストへのインタビュー記事や当時書かれた評論記事の引用が多く、当事者たちからの証言や書かれたものを中心に論を構成しているからというのもあるだろう。引用はどれも時代の空気が感じられてよかったな。

取り上げられているアーティストは目次である程度把握できるだろう。

第一部 Jポップ以前              
 第一章 はっぴいえんどの物語
 第二章 YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)の物語
~幕間の物語(インタールード) 「Jポップ」の誕生~         
第二部 Jポップ以後              
 第三章 渋谷系と小室系の物語
 第四章 中田ヤスタカの物語

はっぴいえんどの特異性としては60年代に存在していた政治性・社会性のある歌詞とは違いほとんど能動的な意味を持たない風景のみといってもいい牧歌的な空っぽさを抱えていたことがあげられている。そしてサウンド面では日本語とロックを融合したこと。いまにして思うと日本語でロックなんて当たり前のことをと思うけれど、当時ロックはアメリカ、外の文化でありそれを日本語でやるのはハードルが高いと思われていたみたいですね。日本語ロック論争なんてものがあったなんてはじめてきいた。

続いて語られるのがYMO。テクノの始祖であるなどの音楽的な新しさやメンバの経歴に触れながら、明確に「内=日本」「外=アメリカ」がわかれていた時代から、YMOが最初は外に向けて「日本」「アジア」的なものをイメージ戦略として象徴的に使いながら注目を集め、外で評価されたという事実・お墨付きをもって日本に戻ってきて評価を得たのだという主張は面白いですね。ふうむ。

次の章では渋谷系と小室系ということでフリッパーズ・ギターから小室哲哉が関わったさまざまなアーティストが出てくるのでいろいろと読み応えがある部分なのだが、とにかく小室哲哉という男の影響力の強さが記憶に残る。作詞、作曲、編曲、レコーディングから仕上げに至るまでの全工程をトータルに手がけることから著者がいうところの「オールインワン型」のプロデューサー。小室哲哉全盛期はぼかあまだ小学生ぐらいの時代だったので記憶にほとんど残っていないのだが、確かにこの頃街でかかってた音楽は小室哲哉が関わった音楽ばっかりだったなあ。この時代になると「日本風味の洋楽」とかじゃなくて「純粋な洋楽」を日本でリリースするなど、内と外の区別はかなり曖昧になってきている。

そしてもちろん我々が知っての通りその後小室哲哉の時代も終わりを告げる。そこには当然複合的な理由があり、オリコンもほぼ崩壊したように見える今は時代を代表するアーティストなんかいないんじゃないかと思う面もあれど、本書の締めは中田ヤスタカになる。作詞・作曲・編曲・演奏・録音・ミックス・マスタリングをすべて一人でこなしていることから、本書では彼を「オールインワン型」の完成形としている。音楽的な特徴としてはソフトウェアを駆使してヴォーカルから何からなにまで加工してしまうスタイルになるのだろう(声の加工自体は何十年も歴史があるけれども)。

最初は明確にあった「外」と「内」の区別がYMOの時代には行ったり来たりする、視点が交錯する身近なものになり渋谷・小室系の時代にはそうした領域は限りなくなごりを残しつつもほぼ消滅。そして中田ヤスタカが出てきた時代ではもう「外」と「内」の区別はほとんど意味をもたないものになる。時代を経るごとに何もかも移り変わっていくのは当然だが、ニッポンの音楽という枠組みの中でのサウンド的な変遷と、文化的な変遷の両面から、スナップショット的によくおさめられていたとおもう。

ニッポンの音楽 (講談社現代新書)

ニッポンの音楽 (講談社現代新書)