基本読書

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金融は人類に何をもたらしたか: 古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで by フランクリン アレン,グレン ヤーゴ

2007年の世界金融危機から8年も経とうとしているのにいまだに度々話題に上る2015年。わけのわからない理屈でとにかく住宅の価値は上がり続けるんだから今買わなければ馬鹿であるし、どのような貧乏人でも住宅を買うことができるのだと言ってリスクを隠して売りまくった結果あっけなく自滅した金融市場への不信感はあの頃から対して変わっていないような気もする。しかし少なくとも「真の」金融イノベーションは投機と詐欺だけのために意図的に不透明な金融商品を考案することとは全く違う、金融の発展は社会にとって意義があるのだということを提唱していくのが本書のだいたいの内容である。

副題に古代メソポタミアから現代・未来までなんて大それたものがつけられているが実際にはそれぐらい昔の話についてはさらっと流されてしまうので「金融の歴史本」として読むにはおすすめしない。まあだいたい歴史においてどんなイベントがあって、どのような変化がそれに伴って起こったのかを概観して眺めるには良い感じ。メインはあくまでも現代においてどのような金融イノベーションが起こって、それがどのような効果をもたらして、今後どのような金融イノベーションが起こりえるのか、そもそも「真の」金融イノベーションとはいったいなんなのか、を論じたあたりにある。

実際2007年の金融危機のアホみたいな熱狂も祭りが終わってみれば「ああ、なんて馬鹿だったんだ」というしかない状況だったし、「危機の原因はそうした要因を引き起こすきっかけとなった金融イノベーションである」と言われれば「まったくだ」と思ってしまうのも無理ないことではある。だが実際にはそもそもインセンティブ構築が間違っていたり、透明性が担保されていなかったりと、金融システム以外の部分での失敗であることが少なくない。金融イノベーション=即悪ではないのだ、というのはうーん、どれぐらいの人間にとって当たり前の話であるんだろう。よくわからないところではあるけれど。

基本的には新しい証券化などによって新しくお金を調達したりする手段が増えるようにするのはなぜかといえば、多くの人に選択肢を与える一手として、である。0%の所有権で家を借りるか、100%の所有権で家を買うかといった「二択」状況下の選択を増やすのが金融モデルの一つの役割といえるだろう。たとえばシェアード・エクイティモデルでは住宅価格の将来の値上がり益の一部を対価に、税制優遇策や直接的な補助金(もしくは投資家がこれに投資をする形で)を受けることで住宅購入の負担を減少させる。市場と連動した仕組みで負担を少なくより多くの人間が住宅(に限らないが)を手に入れられるようになればそれは「真の」金融イノベーションの成功といえるだろう。

こうした仕組みは今も常に新しく生まれていて、医療から環境や貧困分野まで分野も幅広く横断している。たとえば新たなバイオ企業が資金を投資して新たな医薬品などから利益を生み出そうとしても何十年単位で開発期間を必要とする。その為一般的なベンチャーキャピタルの資本サイクルである投資回収まで3〜6年というのは速度があわない。株式公開したところで10年以上の期間を利益が降ってこない企業に投資してくれる人間がどれだけいるか。こういう時でもたとえばある疾病や医学上の問題に関係する特許の特許使用料価値を、時系列で推定する方法が存在していればそれは証券化の対象になりえる。

「いかにしてリスクを分散させ、これまで出来なかったことをしやすくするか」が真の金融イノベーションの根底にはある。本書は最終章にてこうした真の金融イノベーションについて必要な教訓として次の6つをあげている。1.複雑さはイノベーションではない。2.レバレッジが常に信用創造となるわけではない。3.透明性がイノベーションを可能にする。4.資本構成が重要である。5.資本の民主化は経済成長を促進する。6.金融イノベーションは建設的な社会変革の力となりうる。5だけ最初見た時意味がよくわからなかったが、ようは適切なリスクコントロールが行われて起業家たちが事業を展開しやすくなれば新産業の台頭などの構造変化をもたらし経済成長を促進するということらしい。

それぞれまあそうだなあと思うことばかり言っているけれども、あまりに理想論すぎて空虚だなあと思った。透明性が大事だなんていったってリスクを隠して貧乏人に証券を売るインセンティブがなくなるわけではない。ただこれ、訳者解説を読んだところによると元々は制作意思決定者や政策当局を強く意識して書かれたものらしいから、そこを読んだ時には「なるほどな」と思ったな。こういう方向性を実現させるために政策で道筋をつけろという話で、「透明性がイノベーションを可能にするって、そんなん無理だろ」みたいなツッコミはあまり妥当ではないようだ。

わりと取り扱われているネタ的にはムハマド・ユヌスのマイクロファイナンスの話とか長々となぜ2007年の世界金融危機は起こったのかみたいなことを語っていたり、この分野の本をいくつか読んでいると「もうそれはいいよ」的な話も多いが、金融全般についてまとまったそこそこ良い本なのではなかろうか。そうはいっても個別テーマに対して内容が深いわけでもないからたとえば貧困についてだったら貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える - 基本読書 に繋げていったり、これ一冊でわかった気になるには内容が浅いが。

金融は人類に何をもたらしたか: 古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで

金融は人類に何をもたらしたか: 古代メソポタミア・エジプトから現代・未来まで

  • 作者: フランクリンアレン,グレンヤーゴ,Franklin Allen,Glenn Yago,藤野直明,空閑裕美子
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2014/08/29
  • メディア: 単行本
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