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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する by ミチオ・カク

科学ノンフィクション

SFをもっと楽しむための科学ノンフィクションはこれだ! - 基本読書 こんな記事を書くぐらいだから(今思うと記事名ミスってるけど)僕はSFも好きだけど科学ノンフィクションも同じぐらいには好きだ。その両者に共通するものといえば、自分自身が知覚している「世界」への認識が読むことによってアップデート、あるいはひっくり返されていく感覚にあるだろうと思う。「こんなもんだろう」と思っている世界そのものが、随分といろいろな可能性を抱えていることに気がつかされる。

本書の著者であるところのミチオ・カクさんは本職の理論物理学方面でも高い評価と実績を集めておきながら、同時にサイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か/ミチオ・カク - 基本読書や『2100年の科学ライフ』のように。サイエンス・フィクションと現実の科学を繋げるような本も多数出ている方でもある。本書はSF世界で描かれていることが実際にはどれぐらいの達成可能性があるのかを論じた『サイエンス・インポッシブル』に近いかな。現代の技術で人間のMIND、心はどの程度解明され、また操作できるのか。現在進展中の様々な技術によって、未来はどのように変り得るのか、どのような社会像がありえるのかを提示していく。

たとえば人工知能、ロボット、脳波で物を操作するブレイン・マシン・インターフェースにテレパシーから念力まで。天才的な能力は人為的に脳をいじくって出せるのかなどなど、いくつものSF作品を例にあげながらそれが今の技術によってどの程度可能なのかを広範にまとめていく内容だ。もちろん著者は理論物理学者であってこうした方面の専門家ではない。だから各分野のノンフィクションや、専門家から直接話を聞いてまとめている部分が多い。僕はそっち方面については熱心に読んでいるので、ここに出てくる内容の7〜8割は「それ別の本で読んだな」と思うようなものだったけど、テーマでまとめられているのが便利だ。家に散らばっているそうした本をわさわさ個別テーマごとに探しにいかなくてもこれ一冊家に置いておけば、現代の技術においての心の理論がだいたい把握できるのだから。もちろんあまりこの方面に明るくない人手あれば「え、そんなことが既に出来るのか!/出来るようになる可能性があるのか!」と驚き尽くしになるだろう。

で、実際ここに描かれているような未来はとても凄い物で、各所で研究されいている一つ一つの技術は我々の生活を根本から変えかねないものだ。たとえば脳にチップを埋め込んでインターネットに接続し、遠隔のロボットを動かす実験は既に成功している。さらには物を触った時の触覚それ自体を脳にフィードバックさせることすら可能だ。また非常に限定的なものだが脳から脳へ、インターネットを介してメッセージを送る実験も2013年には成功している。これは当然人間での実験だ。こうした技術的な可能性はいずれ言葉を発さなくても意思をやりとりできるようになったり、言葉にならない感覚を伝える未来を容易に想像させるし、実際、可能になるのだろう。

人工知能が人間を超えたら、人間は何をすればいいのか? 本当に安全なのか? というお決まりの人工知能問題があるけど、これに対してアイロボット社の創業者のひとりでもあるロドニー・ブルックスによれば「彼らと融合する」と答えが返ってくる。本職(とはいえないかもしれないが)からこういう答えがかえってくるのはけっこう面白いなと思った。ようは『ロボット工学と人工神経が進歩したら、われわれの体内にAIを組み込むことも可能になる。』ということだ。すごい人工知能やすごい運動性能を発揮するロボットが出来るんだったら、自身をそれにしてしまえばいい。

そうした恐ろしくも輝かしい可能性が幾つも提示されていくのは本書の楽しみの一つ。しかしそれはあくまでも「ずっと未来にはそうなるかも」という話で、現実の技術者、研究者からしたら「おいおい、そりゃ未来はそうかもしれないけど、今はそんなに期待しないでくれよな」と思っていることだろう。実際現場はそうした「煽られた期待」に大きなプレッシャーを感じていることもよく語られているところだ。たとえば脳と機械をつないでみたら――BMIから見えてきた (岩波現代全書) by 櫻井芳雄 - 基本読書 では実際に現代の技術で出来るぎりぎりのこと、「限界」がどこにあるのかについて語っている。

BMIは「思っただけで機械を動かせる」夢の機械のように見出しには書かれることが多いが、実際にはまだまだ動作範囲、自由度が低く長期間の訓練が必要で機械を動かすための信号を無理矢理ひねり出しているような状況だ。脳というのは単に一定の情報を出力する精密な装置なのではなく、日々変化しBMIを使う中でも変質して状態が定まらない「非装置」なのである。またロボットの悲しみ コミュニケーションをめぐる人とロボットの生態学 by 岡田美智男,松本光太郎 - 基本読書 では実際のロボット技術屋が、まだまだユーザが望んでいるような「しっかりと人間と対話を交わせるロボット」を創ることはできないとその限界をもどかしそうに語っている。

本書『フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する』は、技術の可能性の提示と、技術の暗い側面にまで光を当ててみせる良書だが、そうした可能性に到達する為に日々行動を起こしている現場の技術者や科学者のことも忘れないようにしたい。

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

脳と機械をつないでみたら――BMIから見えてきた (岩波現代全書)

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ロボットの悲しみ コミュニケーションをめぐる人とロボットの生態学

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