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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

角川インターネット講座 (10) 第三の産業革命経済と労働の変化 編集:山形浩生

科学ノンフィクション

来週作家である藤井太洋さんと山形浩生さんの対談(藤井太洋×山形浩生 「仮想通貨の産む闇と光」 『アンダーグラウンド・マーケット』刊行記念 | B&B)がある。それに行く前になんか読んでおこうかなと本書『角川インターネット講座 (10) 第三の産業革命経済と労働の変化 』を読んでみたのだがこれがなかなかおもしろかった。仮想通貨関連の話も(山形浩生さんが書いたわけではないが)きちんと織り込まれている。

インターネットが産業に起こした変化について、仮想通貨からリモートワークの普及、オープンソース、3Dプリンタ、コンテンツ産業と幅広くみていくと、一つ一つの変化の点から大きな絵が浮かび上がってくるようだ。。この角川インターネット講座はいろんな著名人に編集を任せてこのテーマで書いてくださいというもののようで、僕は他の巻は読んでないから角川インターネット講座の中で本書がどうこうという話はまったくできないんだけれども少なくとも本書は良い。

前半部は翻訳物で、インターネットが産業に与える影響についての前提や基礎となるような総括的な物が多い。後半部に至って現代の個別具体例に入っていく。3Dプリンタにしろ仮想通貨にしろ「これで人類は一変するんだー!」みたいな話ではなく具体的に何が変わって、革命といえるのはたとえばどんな部分なのかという要点が詰まっている。たとえば3Dプリンタ(データから3次元の物体を出力する機械)でいえば、今はまだ単純なものしか出力できないけどこれがきちんと電子機器や、スマホとか家が出力できるようになったら「生産の革命」である以上に「流通の革命」だよねあたりの認識はシンプルながらもっともなものだ。

それと関連して面白いのはクラウドソーシングについて語った章。この章ではインターネットを使ったテレワーク、ようは自宅にいながら仕事を請け負ったり、時間と場所に縛られないような働き方をみていく。プログラム系の仕事とか資料いじりとか、会社に行かなくてもできることは多い。僕は本職はWebプログラマーだが、そこでもクラウドソーシングサービスを使って仕事を頼むことが多くなってきているしね。語学系のサービスでは外国にいる人達に自宅にいながらにしてレッスンをしてもらったりもする。本章によれば、海外のクラウドワーカーはすでに2000万人を超え2017年には1億人に届く可能性さえあるというが、こうした増加傾向は現場で働いている側の実感としても合っている(関係有るのはITとか語学関連んだけだけど)。

こうして二つピックアップしてみると「やっぱりインターネットで起こった変化ってのは、個の時代の幕開けであり流通革命の幕開けでありみんながみんな自分の好きな場所で好きな時間に生産活動に従事して物を手に入れる時代なんだな」って感じだ。しかし実際にはそれと反して「リアルの復権」とでもいうべきこと、たとえば音楽は今やいくらでもコピー可能な情報になってしまったもんで価値は経験経済的な側面(ライブとか)に移っている──という『フリー』だかなんだかからずっと言われているようなこともある。相反する事象が同時に起こっているのではなく、これらは一体化して起こっている事象であることが、こうやって様々なインターネットの変化を見て行くことでわかるのだな。

たとえばクラウドソーシングの流れも基本的には止まらないというか、衰退することはないと思われる。流通革命としての3DプリンタやAmazonの無人機ドローンなんかもそうで、どんどん人と人との接点は失われていくだろう。移動の危険も回避できて、技術的にはどれも可能で(学校に集まる必要なんかもうないよね)エネルギー的にも無駄がない。いいことばかりだ。じゃあ人と人は会わなくなるのか? といえばそうでもないはずで、でも会う機会は随分と減るわけだから、その分だけ「会うこと、出かけることの価値は今よりもずっと高くなる」。

他にも紙の本は今後その数を減らしていくだろうけれどもその一方で「特別」な物になるだろう。たとえば記念に一冊だけ製本するとか、限定何百・何千部とか。今のように安くはないだろうけれどもその時人はその価値に納得してそれをつくり、買う。インターネットの発展に伴って昔よりスマートにできる部分が出てきて、その分今まで存在していた価値の変動が発生している(そしてそれは全て繋がっている)。もちろんこうした考えは僕が勝手に本書を読んでいて思ったもので、ぱらぱらとめくっていくだけでも論点が結合されていっていろいろ発想が浮かんでくる良い一冊だと思った。他のも読んでみようかな。

角川インターネット講座 (10) 第三の産業革命経済と労働の変化

角川インターネット講座 (10) 第三の産業革命経済と労働の変化