基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

スポーツを10倍楽しむ統計学 (DOJIN選書) by 鳥越規央

一言でいってしまえば色んなスポーツを統計やら確率の数値を出してみてみようというだけの本なのだけど、それだけのことがめっぽう面白い。実際にはそれだけではなく、スポーツを数学的に解析していくことによって戦略から戦術、トレーニングはどこに重点をおいたらいいのか──といったところまで含めてなのだが、本書では特段そこまで踏み込んでいるわけではない。

僕自身はスポーツにかぎらず将棋だろうが囲碁だろうがこの世に存在する勝ち・負けの存在する競技に興味がない(AとBが対戦してどっちが勝とうが興味が無い)のだけど、こういう分析の話は勝ち負けとは別のところにある話なので純粋に楽しむことが出来る。

スポーツを10倍楽しむ統計学 (DOJIN選書)

スポーツを10倍楽しむ統計学 (DOJIN選書)

逆にスポーツの観戦が趣味の一つである人は本書のような本を読んでどう思うんだろう。テニスで言えば、本書では錦織圭がグランドスラムを獲得する確率を大雑把に計算している。21世紀以降、大会開始直前のATPランキングが5位以下の選手が、その大会で優勝できたのは57大会中11大会。単純に計算すれば13.9%で──とその後錦織圭の場合の特殊事例をある程度計算に盛り込んでいって、本書には最終的な値はでてこないが、仮に20%ぐらいまで上がったとして、計算屋がしたり顔で錦織圭がグランドスラムで勝つ確率はまあ20ぐらいだね。だから負ける可能性の方がずっと高いよ、といったら、まあ応援してる人はあまりいい気分はしないような気がする。

スポーツ観戦ってある程度その場のノリというか、その瞬間瞬間の一喜一憂、打った、打たれた、テニスだったらラリーが続いていくのを緊張しながら見守って、ポイントが積み重なっていく一瞬一瞬を楽しむものなんじゃなかろうか。そういうのを楽しいと思ったことがないからよくわからないが、そうした一瞬一瞬の楽しみからある程度距離をとることを必要とするスポーツ科学みたいなのを学んだからといってスポーツが10倍楽しくなるかって言うと微妙なところである。

数値で面白かったのはこういう計算をまったくしない時の直感に反するものや、思いもしなかった結果が出てくるもの。サッカーで言えば、90分間で0-0となる確率が実は9.4%しかないとか。へえ、なんかわりと0-0で終わることって多いような気がしてたけど、10試合に1回のレアケースだったんだな。ちなみにもっとも多いスコアは1-0で全体の18.1%。先制点についての話では、先制点をとったチームが勝つ割合は528試合中69.7%もある。つまるところ先制点をとられた時点で7割方負けが決定しているわけで、このデータを知った上でサッカーの試合をみると先制点が決まった時点で早々にしらけてしまいそうだ。

PK戦は先攻後攻どっちが有利かとか(これは先攻)こういう事例がたくさんあるので、ぱらぱらとめくっていくだけで楽しい。個人的に知らなかったので驚いたのは、卓球やサッカーで常に、よりスポーツがエンターテイメントとして面白くなるようにルール策定側が考えているってことだ。サッカーでいえば、もちろんゴールが生まれる瞬間が面白いんだけど、なかなかゴールが生まれない、だったら競技者を10人にしたらどうだ? とか、ボールをもっとはねるようにしたらどうだ? とか様々なルールやボールの改定が「より面白くなる」ように行われているんだなあと。野球とかをみていて、「なんでこの人達はずっと同じルールでやってるんだろう? 飽きないのかな? 1チーム20人ぐらいでやってみたり、一振でアウトとかにしてルールを大幅に変えてみればいいのに」とよく思っていたが、興行側もそういうことちゃんと考えてるんだな。

今あらゆるスポーツでこうした分析が行われているが、本当にこうした分析から戦略・戦術を最適化し、選手をその計算から出てきた結果通りに動かすことで結果をあげることが、スポーツを面白くするんだろうか、と読む前は思っていた。「そもそも面白くなるように、同じデータを使ってスポーツを再設計」すれば面白さはなくなるどころか、むしろ増すのかもなあと思った。プレイする側の自由度は減ってつまらなくなるかもしれないけれども。どっちにしろ僕がスポーツを楽しんでみることはなさそうだ。