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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ソシャゲ☓仮想通貨☓世界征服──『世界創造株式会社 1』 by 至道流星

SF ライトノベル

世界創造株式会社 1 (星海社FICTIONS)

世界創造株式会社 1 (星海社FICTIONS)

至道流星という作家が何を書いてきたのか

huyukiitoichi.hatenadiary.jp
『羽月莉音の帝国』の至道流星最新シリーズ。僕はこの人の作品は現状全て読んでいるぐらいのファンではあるが、実をいうと『羽月莉音の帝国』を超えたシリーズは一作もないと思っている。政治とアイドルを掛け算し日本の政治を世界水準まで引き上げようとする変革を描いた『大日本サムライガール』、極道の世界を描きながら世界への復讐譚となる予定だった『東京より憎しみをこめて』、宗教ビジネスを描こうとした『好敵手オンリーワン』など様々に手を広げながらも、どれもどこか弱点がある。

大日本サムライガールは最初はアイドルという宣伝広告としての役割と政治をうまく絡めていたように見えたが次第に話が両者の間で噛み合わなくなっていき(突然終わった)、東京より〜は冒頭の展開が遅すぎてやっと盛り上がってきたと思うところまでが長い(3巻で中途半端に終ってしまった)、好敵手オンリーワンも宗教ビジネスの観点は新しかったもののそれ以外の部分で特に読みどころがなくあっさりと終わってしまった。

いま、世界征服をする意味

そしてこの『世界創造株式会社』である。裏面のあらすじを読んだ瞬間に嫌な予感がしたものだ。「あのね、私と一緒に世界征服してみない?」本書は本当にこの台詞から始まる。それだけだったらはあ、凄い始まりだなあというところだが、実はこれは至道流星さんデビュー作『雷撃☆SSガール』(後に世界征服に改題)とまったく同じテーマなのだ。話の流れもまったく同じ(これは他の作品も大体そう。無茶苦茶壮大な思想を持った女の子が才能を持った男を強引に釣れ出す)。

世界征服 (星海社文庫)

世界征服 (星海社文庫)

いよいよネタがなくなって、幾つもの作品が終わってしまって、元のネタをリサイクルに走ったのか? それはもう作家として終わりでは? と思わされたものだ。一方で「ゼロからリスタートする」ということなのかもしれないと好意的に考えた。確かに第一作はその野心だけがぎらぎらとあって、キャラクタは借り物のようだし(これは今でもひどいけど、ちょっとはマシになった)、まるで進研ゼミのような展開で(これは今でも進研ゼミみたいで、あんまり進歩してない)、作家としての経験値が足りておらず手に余る展開だったようには思う。

本書のあたらしさ

なんか前置きが長くなってしまったけれど、本書は『世界征服』と同様の思想ながらも、まったく違った展開をしてくれるのでその点は安心であった。先に総評から書いておくと、確かにまったく違った展開をして、それはここから先にちょろっと書くがなかなかおもしろい。一方で相変わらずダメなところはとことんダメであり、これが近年の「突然終わった(事情がわからないので打ち切りとは書かないが)」作品群を乗り越えていけるかどうかは今のところまったくわからない。

飛び級でMIT卒業した天才少女日乃原涼香に誘われたフリーゲーム製作者のだいたい大学生ぐらいの年齢三人。それぞれ天才プログラマ、熟練の絵かき、シナリオ・企画者とゲーム制作に最適な能力でそれなりに人生を渡ってきた三人を相手に、彼女が「あのね、私と一緒に世界征服してみない?」と問いかけ、「何をどうやったら世界征服なんてできるんだろう?」とディスカッションがはじまっていく。*1

このあたりの流れは至道流星作品お得意の(ド下手糞な)強引な導入であり、あんまり「納得感」などを求めてはいけない。ともあれこの強引な女の子にそそのかされ、4人で「世界創造株式会社」なる世界征服を目指す会社を創立し、ディスカッションの中で出た二つの案が複合的に最初の事業内容として運用されることになる。

一つは「価値ある仮想世界」を創立することによって、現実よりも人々の生活・重きを仮想世界へと置かせること。仮想世界の概念には仮想通貨も入ってくる。国という明確な管理者がいる国に属する通貨とは違って、グローバル金融システムを根こそぎひっくり返すような新しい通貨システムを構築すること。もう一つは多くの人間がハマり生活を注ぎ込んでいるソーシャルゲームだ。

ソシャゲ☓仮想通貨☓世界征服

作戦の要点はシンプルで、1.ソーシャルゲームをつくる。2.ソーシャルゲーム内のカードや交換用のマネーを仮想通貨として扱う=日本円などと交換可能=実質的に仮想世界上の、仮想通貨を管理する銀行アカウントとする。一般的にはソーシャルゲーム運営側は次第に新しいカードを追加し、能力をインフレさせガチャを回すことを誘導するが、そうした事は一切せずにソーシャルゲーム上のカードは基本的にはユーザ間で取引される通貨として扱われ、発行数は常に公表され制限以上には増やされないとする。

法律的にそんなことが可能なのかとか、システム的にそんなことが可能なのかなどさまざまな疑問が噴出してくるだろうがなにぶん仮想通貨も新しい動きゆえにまだ規制などは始まっていない(これから始まるかもしれない)ビットコイン取引を規制へ 金融庁、仮想通貨の監視強化:朝日新聞デジタル こうして、まずはグローバル金融に根こそぎ仮想通貨で乗っ取りをかける為に多くの人間が嵌り込むソシャゲを使ってそうとは知らずに仮想通貨取引を開始させようとする壮大な作戦が始まるのであった──というのが物語の冒頭部。

その後は、実際にソーシャルゲームがどのような理屈で運営されているのかの説明など、本書でつくられるゲームがどのようなシステムなのかがかなり具体的に書き込まれていくので、そこも読みどころとなる。もっとも、恐ろしく変化が早い業界で、手練手管や規制状況なども1年前とは一変しているような状況なので、描写的にはちょっと遅れているなと思うところや、ノンフィクションではなく小説であるから説明が足りていないなと思うところもある*2

ゲーム関連の描写については著者の友人であるという株式会社ビサイドの南治一徳さんにチェックをお願いしているというし、ほとんどはよく書かれているのだが、2巻3巻と続けていくうちに現実の方がどうなっていくのかは難しいところだ。それは仮想通貨もまったく同じで、ずいぶん危うい物二つを組み合わせてしまったなと正直思う。途中で書いたようにこの物語が至道流星作品の中でどのような位置を占める作品になるのかはいまだ未知数だが、とにかく1巻目のつかみとしては十分に面白い。

ちなみに同じく仮想通貨を扱っている作品に藤井太洋さんの『アンダーグラウンド・マーケット』がある。こっちは仮想通貨が日本で一部の下層民に当たり前に使われるようになった至近未来を描いた小説で、「国が運用する貨幣システム」と異なる貨幣システムが国に生まれることによってどれだけのことが一変しえるのかを実感させてくれる逸品だ。huyukiitoichi.hatenadiary.jp

アンダーグラウンド・マーケット

アンダーグラウンド・マーケット

*1:至道流星作品はテーマ優先の強引なところがあり、なし崩し的にいつも「我々の国をつくろう!」とか「世界に復讐してやる!」とか「日本を変革する!!」と無茶苦茶な目的に邁進していくことになるのだが本書もそのあたりは変わらない。

*2:僕は一応Webプログラマなので、直接的にソシャゲに関わった事こそないものの間接的な形で関わったり現場の話を聞く機会も多い