基本読書

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日本を舞台にした妖怪大戦争アメコミ『Wayward 1: String Theory』

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↑ここで紹介されていたのを読んでなんとなく注文してみたのだけど、面白い。上記の記事は海外の反応、つまり英語で読んだ人らの反応なのだが、日本人から見ると読むとわりとおかしなところが多くて、ただ頑張って日本的な要素を取り込んでいるのも確かで、その違和感の混在が面白い。

Wayward 1: String Theory

Wayward 1: String Theory

主人公の女子高生であるローリーレーンはアイルランド人の父と日本人の母の間に生まれ、日本で母親と暮らすために飛行機にのってアイルランドからやってくる。満員電車に不可思議な街並み、飛び交う日本語と文化的な差異に驚きつつも母親と見事対面を果たし、一緒に暮らし始めたと思った矢先、突然モンスターに変化し剣を持って襲い掛かってくる不可思議な男三人組に遭遇し、同時にそれを阻止し撃退してくれた謎のウォーリアーガールが──とローリーの人生は日本に来たことで一変してしまうことになる。

面白いところとして、風景がところどころ日本っぽい(看板が日本語だったり、自販機があったり)のだが、どれも微妙にズレているところだ。たとえば彼女の母親が暮らす家には畳ゾーンと普通の床のゾーンが何の段差もなければフスマもなく存在していて、何の区切りもなく床と畳がシームレスに繋がっている。畳は日本の象徴の一つだがその描き方はちょっと違うんじゃないか! 都会のど真ん中付近になぜか誰も寄り付かないような廃墟があったりと風景とか何もかも「たしかに、なんか日本っぽいけど、凄く違和感がある……」風に仕上がっている。

意図的なのか無自覚なのかはわからないが、もともとローリーの出自がアイルランド人と日本人の混合したカルチャーを体現しており、街並みやそれぞれの風景などの違和感はその混合を示しているところはあるのかもしれない。

ローリーの異常性

突然化け物に襲われて混乱しながらも、母親はジャパニーズ社畜であり自分の問題を話して心労をかけたくない……。何も言わずにローリーが学校にいってみればそこはちょっと雰囲気が悪くて、彼女は異分子だから速攻で孤立してしまう。なれない異国の地にやってきて、化け物共に襲われ、謎のウォーリアーガールに救われ、自分もなんだかよくわからない行動予測能力を発現し、学校では一人ぼっち。

なんというか、そこまで読むと「かわいそうだなあ」で終わる話なのだが、彼女はそんな状況下で突然トイレに駆け込んだかと思うと、ナイフを取り出して──リストカットでもするのかと思ったら自分の左腕に「一人(TRANSLATION:"ALONE")」と刻み始める!『…FOCUS ON SOMETHING REAL.』つって。いやいやいやいや、それはちょっと覚悟キメすぎじゃないですかね? 確かに恐ろしいことばっかりだし、一人ぼっちだしで精神的にやばいのはわかるけど、いきなり「覚悟完了」みたいにして腕に消えない傷を刻み込まなくてもいいんじゃないですかね? このシーンは本当にびっくりした。ここまでやる必要あったのか……。

日本的キャラクタたち

第二話では両腕に包帯を巻いた昔のヤンキー漫画でもあんまり出てこなそうな典型的な不良が出てきて、突然神社で妖怪みたいなもんに「力がほしいか……」とかいって身体を乗っ取られているのだがローリーが額に「弱」の文字を書き入れると正気に戻る。二人はトラブルメーカー同士、また謎の妖怪みたいなもんに遭遇してしまった者同士として仲間になるのであった。

その後はでかい骸骨に襲われているオタク少年(特殊能力持ち)を助けて仲間にしたりと、仲間を増やしながらなぜこの世界でも安全な都市である東京に妖怪が跳梁跋扈しているのかを調べていくことになる……。またこの妖怪の出し方が一匹一匹出してくるわけじゃなく、もうしょっぱなから「妖怪大戦争スタート」みたいな感じでぶっこんでくるから凄い。しかも妖怪だけじゃなく超パワーで浮いてる僧とかもいるし。なんだそりゃ。
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↑このページを開いた時めちゃくちゃ混乱した。妖怪に混じって僧がいるじゃねーか!

対向する味方は両腕にオーラをまぶして超防御力と攻撃力でぶん殴れるファイターに、なんだかよくわからないがとにかく強い女ウォーリアーに、なんだかよくわからないけれど精神干渉系・テレキネス系の能力を持っているオタクに、正しい道を予測する能力や言霊能力を持つローリーと色物揃いで妖怪大戦争に流れ込んでいくのはなかなかに燃える。前半二人キャラかぶってね? 

最後にはおまけページにはキャラクタラフやが載せられている。垢嘗、狐、狂骨、ぬらりひょんと1巻に登場する妖怪の解説がずらずらと並ぶのは──日本人のこっちからすれば知識があるからそんなに嬉しくはないが、まあ英語で書かれたぬらりひょんの解説とかなかなかおもしろい。

In the late Showa period(1926-1989),Nurarihyon got a promotion .He gained the reputation as a commander of yokai, leader of the Hyakki Yagyo.His elevated rank can be traced back to Shigeru Mizuki's seminal yokai comic Kitaro, where Nurarihyon showed up and announced himself as the Yokai Sodaisho.

Yokai Sodaisho.妖怪を扱う上できちんと水木しげるにまで言及し、参照しているあたり好感が持てますな。あ、日本語訳版はないと思うけど英語は簡単なので普通に読めると思います。