読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

山田風太郎系能力バトル物の極北──『ダンゲロス1969』

ダンゲロス1969

ダンゲロス1969

これはまたえらい小説が出てしまったものだ。ガンガン人が死ぬ、敵の能力を読み合って、チンコやマンコを武器に戦う異常な能力者たちの物語が読みたいという奇特な人間がいるならば本書を是非読むべきだ。下世話で身も蓋もなく、それでいて無茶な理屈がきちんと通っている、そんな能力バトル物として本書は極北ともいえるべきぶっちぎり方をして走り抜けていった傑作であるからして。だが人は選ぶ。

本書『ダンゲロス1969』は、講談社BOXから出ていた架神恭介さんによる『戦闘破壊学園ダンゲロス』及び第二弾『飛行迷宮学園ダンゲロス』に連なる、多様な能力者が跋扈して戦力を削り合うシリーズ物の一冊。登場人物も時代もほぼ異なるので独立した能力バトル物の長篇として読める。『戦闘破壊学園ダンゲロス』は今ジャンプで『背すじをピン!と~鹿高競技ダンス部へようこそ~』を連載している横田卓馬さんがコミカライズしていることもあって知っている人が多少は多いかもしれない。

戦闘破壊学園ダンゲロス(1) (ヤンマガKCスペシャル)

戦闘破壊学園ダンゲロス(1) (ヤンマガKCスペシャル)

ちなみに、この『ダンゲロス1969』が講談社BOXからではなく著者自身による電子書籍出版のみであることは特記しておく必要があるだろう。物理的な本としては出ていないのである。事情はAmazon電子書籍って儲かるの?作家・架神恭介に聞いてみた | 株式会社LIG によると、「長すぎてダメ」と講談社側に却下されたけど作品のクォリティを保ったまま削りきれなかったようだ。

あらすじとか用語解説とか

『戦闘破壊学園ダンゲロス』で天下の悪法と評された、学校を一種の治外法権化する「学園自治法」がなぜ成立するに至ったのかを解き明かす物語だ。書名に1969と入っていることからもわかるとおり、モチーフになっているのは、この現実でも実際に行われた安田講堂事件──学生の自発的組織である全学共闘会議および新左翼の学生が安田講堂を占拠し、大学から依頼を受けた警視庁が封鎖解除に動いた事件だ。

現実の安田講堂事件と大きく違うのは、この世界には普通の人間が何らかの出来事をきっかけに普通の人間が持ち得ない能力を持ってしまった魔人がいることだ。当然魔人は社会では差別を受けていることが多い。この世界での魔人学生らを中心とした学共闘(複数のセクトが存在する)と、そのまとめ役であるド正義克也が提唱する「学園自治法」とは、そうした社会の思想的影響から学園と学生を保護することが目的であり、実際に現在法案が通るか通らないかの瀬戸際のところまできている。

学共闘陣営の目的はつまり、「学園自治法が通るまで、安田講堂を運動の象徴として保持し続ける」「その姿をマスコミに流し続けることによって世論を味方につける」ことである。一方で、警視庁側もそれを黙ってみている訳にはいかない。東大は入試もやらなければいけないし、入学式だってやらなければならない。かくして、命がけで安田講堂を死守し「学園自治法」を通過させようとする学共闘側と、それをなんとかして武装解除して出来れば殺さずに無力化させんとする警視庁側の大いなる戦いが始まるのだ。ただし、そいつらは全員キチガイじみた能力者である!

異常な能力者たち

と、ここまで読めば真っ当に作りこまれている集団能力者バトル物だなあと思ってしまうかもしれないが、実際読んでみればすぐに本書の異常性に気がつくだろう。何しろ能力のほとんどが精液だとかマンコウンコチンコに関わるものであり、関わらないにしても狂ったような能力ばかりである。本書の能力バトルはたいていは明かされない状態でお互いがお互いの能力を探りつつ判明していく過程が面白いタイプでもあるので、この記事で全てを明かす訳にはいかないが一部を紹介すると──。

〜変態編〜

閑話休題。魔人公安の刑事、魔人あんかけの能力は、『天上TENGA』。片栗粉からオナホールを作り出し、それを操る魔人である。通称はオナホ刑事。魔人公安は石動口止めの保険として、彼の股間にこのオナホールを取り付け、一生取れぬ呪いを掛けたのであった。

これはさしもの狂華も色を失う。彼女の能力『トリカブト』は、彼女の指定する空間座標へと男性の一物を現出させる能力である。一物は地球人類の成人男性の中からランダムで選ばれ、選ばれた人物の股間からは唐突に一物が消え、「Oh!」などと叫んでいるうちに、一物は狂華の指定する空間座標へ──、主には相手の咽喉の中へと出現するのである。

以来、魔人蟻地獄たまこは、公衆の門前で脱糞をすることにより蟻地獄を生み出す魔人能力を得たのである。

「頭がおかしいのか……」と絶句するぐらいに下品だが、これでも能力者のうちのごく一部である。ダンゲロスシリーズは、もともとTRPGとして設計されたゲームであり(著者が創ったゲーム)、各人が選りすぐりの変態能力者達を考えてきてそれを小説に投入していくので、ちょい役にも異常な能力が大量に設定されている。

そいつらが跳梁跋扈する戦場はウンコが飛び交って咽喉からチンコが次々と生えてきて触手が戦場を飛び交って男女問わずレイプされる地獄絵図と化していくのも必然。だが、もちろん能力者の全員がこのように下品な能力というわけではない、魔人らが立てこもっている安田講堂には条件を満たさないものを絶対に中に入れることのできない論理能力者がいるし、それに対抗するために警察側はウンコを投げ入れて通過するかどうか確認したりといった、地道な論理能力の検証が必要とされる。そうした「相手がどんな能力を持っているのか」の読み合いが楽しい。*1

偵察、索敵、無力化系能力バトル物としての面白さ

〜まともな能力篇〜
安田講堂に集まってきた学共闘のメンツと、それを解散させんとする機動隊の衝突が本書における一大スペクタクルシーンであることはいうまでもないが、実は読みどころはそれだけではない。二十人以上の能力者たちは戦闘に使える能力者ばかりではない。情報収集に適したものもいれば、陣地構築に適したものもいる。札束で相手の頬を張ると、通常の3倍の効果が得られる買収特化能力者がいれば、靴音を操る魔人もおりスニーキングミッションには最適だ。

いざ、決戦! となってしまえばあまり役にたたないこうした能力も、着実に敵陣の情報を集めて状況を構築していく時には実に役に立つ。シリーズはこれまでどちらかといえば集団vs集団のぶつかり合いを主軸にしてきたから(第二作目はミステリだけど)このような直接的に相手に危害を与えるわけではない能力者たちが一つの状況を徐々に進展させていく展開は物珍しく、シリーズ作品とはいっても毎度違う顔をみせてくれる。さらにいえば、まともな能力には直接攻撃系、即死系の能力者もいる。

多少明かしても問題なさそうなところからいくと、この世界には都市、はてには国家や惑星破壊級の能力を持つ魔人能力者が一握り存在する。そのうちの一人魔人星野夜の能力『星降る夜』は『鬼畜米英に苦しめられし幼き少女が夢見たあどけなき妄想から生まれた魔人能力。空からキラキラと輝くお星さまが敵国へと降り注ぎ、おとうさんおかあさん、ともだちのみんなをくるしめるわるいやつらはみんなしぬ。』

↑この手の能力者たちは、たったひとりの存在が全地球規模の虐殺を実行しえる可能性を秘めている。故に、どれだけ魔人サイドを追い詰めたとしてもそれは「勝ち」を意味しない。もし最後に残った能力者が星野夜だったら、相手は自分もろとも地球を壊滅させるかもしれないのだから。警察側も、学共闘側もこのレベルの大量破壊兵器能力者を隠し持っており、それがここぞという場面で発揮されストーリーが予想だにしない方向へと転がり続けていくのだ。

シナジーする能力バトル物

さらに能力バトル物としての面白さでいくと、「シナジーする能力バトル物」としての側面が上げられる。シナジーとはどういうことかといえば、一つではあまり役に立たない能力でも組み合わせることで絶大な効果を発揮するようになることだ。MTGなどのカードゲームではよく使われる言葉である。

たとえば炎とうんこを逆転する能力を持つ魔人が出てくるが、これ一人ではあまり役に立たない。しかしうんこをうまく投げることが能力の魔人が出てくると、この二人は片方がうんこを投げまくって片方がそれを片っ端から炎に変える脅威のシナジーを生み出すようになる。一つでは役に立たないように思える能力が、二つ組み合わせることで途端に脅威になる。あるいは、一つだけで発揮するとすぐにからくりがわかってしまう能力を、複数の能力を組み合わせることで相手に判明するのを防ぐ。

能力バトル物で割合1vs1、あるいはせいぜい2vs2ぐらいでお互いの能力が補完しあうシナジーを生み出すケースはあまり多くないが、本書はそれをメインに能力バトルを根本的に構築していくので「うおおおそんなシナジーのさせ方があるのか!!」と興奮する展開が目白押しなのと、一つでも変態的な能力ばかりなのにそれが組み合わさっていくとなんかパズルでもやっているような快感があるんだよね。

おわりに

電子出版であることから本屋で手に取れる作品でないけれども、AndroidやiPhoneやiPadなどを持っていればアプリを無料で入れて(当然本は有料だが)読むことができるし、パソコン版のアプリもあるので物理的に読めない人はほとんどいないだろう。それ以前に内容の下品さが人を遠ざけるであろうことが残念ではあるが、そこさえ乗り越えてしまえばこれだけ面白い能力バトル物は類するものを他に思い浮かばない。

何より長くなるのでカットしてしまったが、能力だけでなく『愛が浅いわけではない。想いは真剣だ。だが、アトランティス鈴木には小学生女子しか愛することが許されない。悲しき男であった。』というように人間もみな変態ばかりで、このような変態的な思いが実に真剣に書き込まれていくドラマもまた読み応えがある。なんにせよ、唯一無二、似たような作品を探すのは非常に困難である。
[asin:4062837595:detail]