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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

45年の歴史が一冊に──『ハヤカワ文庫SF総解説2000』

SF その他のノンフィクション お仕事告知

ハヤカワ文庫SF総解説2000

ハヤカワ文庫SF総解説2000

基本的な説明をしておくと、本書はハヤカワ文庫SFに納められた作品が2000番まで割り振られたということで、記念にSFにマガジン2015年4,6,8月号で行われた特集をまとめて一冊にしたものである。3号に渡って行われたその特集とは、1番から2000番までのSF全てを解説するという離れ業で、隔月刊となってそのぶん分厚くなったにも関わらず3号を費やす巨大特集となったのであった。

本には何か追加があるんですか、というのは当然気になるところだが、まず特徴的なこの異常な表紙──未刊になった『ターザン』シリーズを除いた1996点を繋ぎ合わせたもの──はすぐに目につくだろう。これは中で拡大バージョンが数ページに渡って掲載されている。一方、文章的な追記はめぼしいものは特になく、編集部による「はじめに」と、最後に2000番以降に何が出たのかの一覧(解説はなし)が載っているぐらい。なので内容的にはSFマガジンで特集分を買っていれば、もちろん修正なとはあるにしても特に差異はないのはちと残念。

いうても一冊の本にまとまったのは良いことだ。
こう言ってしまってはなんだが雑誌を買ってない人の方が圧倒的に多いのだから。

頭から順番に読んでいってもいいし、ぱらぱらとめくって適当に目についたものを読んでいくだけでも随分楽しい。『クローム襲撃』や『ソラリス』など、ハヤカワ文庫で出ているものであれば昔懐かしいSFを文字通り全て網羅しているから過去の記憶を反芻しながら読むのもいい。僕も雑誌の時にぱらぱらとめくって読んでいたが、本になってからも作業机の傍らにあってちょっと休憩するかという時につい開いて適当な箇所から読み始めてしまう。

一冊あたりの文字数は単品であれば340文字、ローダンなどの長大なシリーズ物は一冊毎に解説が書かれるのではなく(そんなことしたら本の大半がローダンシリーズのあらすじで終わってしまう。)シリーズの長さと重要度に応じてそれだけ多くの文字数が割り当てられるようになっている(最大でも2ページ)。何しろ2000番もあるから、当然執筆陣の数もすごいことになっている。

Amazonからコピペしたものをペッとしておこう(敬称略)。

縣丈弘、秋山完、東浩紀、天野護堂、池澤春菜、石和義之、いするぎりょうこ、礒部剛喜、乾石智子、卯月鮎、榎本秋、海老原豊、円城塔、大倉貴之、大迫公成、大野典宏、大野万紀、大森望、岡田靖史、岡本俊弥、小川一水、岡和田晃、オキシタケヒコ、忍澤勉、小田雅久仁、尾之上浩司、尾之上俊彦、小山正、風野春樹、片桐翔造、香月祥宏、勝山海百合、鼎元亨、樺山三英、川又千秋、菊池誠、北原尚彦、木本雅彦、日下三蔵、久美沙織、倉田タカシ、coco、五代ゆう、小谷真理、小林泰三、酒井昭伸、堺三保、坂永雄一、坂村健、笹本祐一、佐藤大、佐藤道博、塩澤快浩、下楠昌哉、新城カズマ、水鏡子、鈴木力、スズキトモユ、瀬尾つかさ、関竜司、添野知生、代島正樹、高槻真樹、高橋良平、立原透耶、巽孝之、田中啓文、タニグチリウイチ、東野司、飛浩隆、鳥居定夫、酉島伝法、中野善夫、中藤龍一郎、中村融、七瀬由惟、鳴庭真人、難波弘之、二階堂黎人、仁木稔、西崎憲、西田藍、西村一、野崎六助、野尻抱介、橋本輝幸、長谷敏司、林譲治、林哲矢、東茅子、東雅夫、福井健太、福江純、福本直美、藤井太洋、藤田雅矢、藤元登四郎、船戸一人、冬木糸一、冬樹蛉、古山裕樹、片理誠、細井威男、細谷正充、牧眞司、増田まもる、丸屋九兵衛、宮風耕治、深山めい、六冬和生、森晶麿、森下一仁、森奈津子、八代嘉美、八杉将司、柳下毅一郎、山岸真、山本弘、YOUCHAN、遊山直奇、ゆずはらとしゆき、横道仁志、吉上亮、吉田親司、吉田隆一、渡邊利道、渡辺英樹

各人の思いが詰まった総解説

これの良いところは、編集部が「はい、あなたこれね」と割り振ったわけではなくて、基本的には自分がやりたいものを申告して、割り振ってもらうのを待つ自己申告制であることだろう。それだけに、たとえ単品340文字であってもそれを受け持った人はそれが人生にとって重要なオールタイム・ベスト級の一品だったりするわけで、熱量に溢れており、作品解説以外にも「各人の思い」みたいなのが見えるのだ。

東浩紀さんが一作だけ書いているから何かと思ったらローバート・J・ソウヤーの<<ネアンデルタール・パラドックス>>シリーズについてで「おお、そこなのか」と思ったり、円城塔さんによる『順列都市』解説、長谷敏司さんによる『たったひとつの冴えたやりかた』解説などなど「そりゃ(解説を)読みたいよなあ」と思わせるラインナップ揃い。当然誰にも拾われずに「マッチは、マッチはいかがですか」状態になった作品もあるわけで、褒める論調ではなく、批判的に書かれているものもある(あえて引き受けたうえで批判的に書いているものもあるかもしれないが)。

まさか2000番もあって全部が全部傑作なわけがないし、そうした作品の場合でも「苦しさ(解説の書き手の苦しさでもあるし、著者自身の苦しさでもある)」みたいなところまで含めて楽しめるだろう。「こんなものがあったのか」とか「こんな設定が既に出ていたのか」と驚かされるのはむしろそういうところに眠っていたりする。

SFマガジン 2015年 04 月号

SFマガジン 2015年 04 月号

個人的な思い出とか。

この特集が始まったSFマガジン2015年4月号は、僕にとってはSFマガジンでの連載を始めることになった最初の号であることも手伝ってとりわけ思い出深い。総解説に参加したのは2015年6月号からだったが、書き散らすブログとは違って文字数が限られた中に情報を敷き詰めることの難しさに直面したものだった(その難しさは今もまったくかわっていないのだが。毎号毎号文字数内に収めるためにあーでもないこーでもないと文章をいじりまくっている)

というわけで僕が担当した作品は以下のとおり。「あまり人がやらなそうなところ」を狙っていった結果このような選定になった。オールタイム・ベスト級の作品はやはり被りまくっていたようだ。

  • 『スター・ゲイト』アンドレ・ノートン
  • 『星々へのキャラバン(上・下)』マイクル・P・キュービー=マクダウエル
  • 『反逆の星』オースン・スコット・カード
  • 『ヴォネガット、大いに語る』カート・ヴォネガット
  • 『秘密同盟アライアンス パラディンの予言篇(上・下)』マーク・フロスト
  • 『最後の帝国艦隊』ジャスパー・T・スコット

とりわけ『最後の帝国艦隊』は最後のページに『ソラリス』と共に載っているので探しやすいぞ*1。記念すべき2000番目になったポーランド語からの新訳*2『ソラリス』はアマチュアからプロまでが編集部に原稿を送り、編集部内で最終候補6作を決めたのち読者投票が行われて2解説に絞りこまれたものが本書には収録されている。

実はこれ、僕も海外SFの現ブックガイドを担当している身としては送らないわけにはいかないだろうと思い送っていたのだがあえなく編集部候補作に残ることさえできずに敗退。虚しい思いをしていたのであった。実力不足だ! 無念なり。

*1:だからなんなんだ

*2:初出は国書刊行会