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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

なぜ国々は戦争をするのか by ジョン・G・ストウシンガー

なぜ国々は戦争をするのか 上

なぜ国々は戦争をするのか 上

  • 作者: ジョン・G・ストウシンガー,等松春夫,比較戦争史研究会
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2015/10/27
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
なぜ国々は戦争をするのか 下

なぜ国々は戦争をするのか 下

  • 作者: ジョン・G・ストウシンガー,等松春夫,比較戦争史研究会
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2015/10/27
  • メディア: 単行本
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「なぜ国々は戦争をするのか」。凄い問いかけだ。

その疑問に答えられるのであればこの世界から戦争はなくなるかもしれない。やったぜ! だがそんなことわかるんだろうか? 過去に起こった国家間戦争──かつてのドイツが戦争をした理由、それは「びっくりするぐらい頭のイカれた、でも大衆煽動がうまいヒゲの親父がいた」からとか、北朝鮮の無軌道な行為の数々に「金なんちゃらさんが独裁体制をとっていたから」という属人性の高い理由もある。

 本書が、人類のもっとも悲惨な自己破壊を理解する上で、微力なりとも読者のお役に立つことを願ってやまない。

結局のところ、「人間が! 理性的に考えられず思い込みで、感情的に行動し、人間そのものが不完全だから──この世に戦争が起こる! 人間をこの世から排除すれば戦争もなくなるぞ! やったな! 」というだけの話なのでは? と思ってしまうのだが、当然B級映画ではないのだからそんな結論には飛びつかない。本書で著者は20世紀と今世紀に行われた主要な国際戦争12の事例研究を通して、『指導者たちが戦争へと踏み出す「真実の瞬間」』に注目し、「いったいどの瞬間に、どのような理由で戦争が避けられない物となったのか」とある程度の結論を引き出してみせる。

トルコだロシアだシリアだISISだと第三次世界大戦待ったなしの今、国際情勢における緊張感はかつてないほど高まっている。簡単には曲がらない鉄が、熱せられることで容易く変形させられるように、かっかと燃え上がっている時は通常時では起こりえない非常事態を巻き起こすことがある。呑気に歴史から学びましょうといっているような状況ではないが、かつての事例から戦争の引き金を引く事象が広く共有されれば、対応も可能になるかもしれない。

基本情報

具体的な内容紹介をする前に前提情報を共有しておくと、本書の初版が本国で発刊されたのは1974年のことであり、その後時代を経る毎にアップデートされてきたものの訳である。本書それ自体は2011年刊行の第11版、9.11以後までを射程に入れたバージョンとなっている。監訳者である等松春夫氏が主菜していた本書を輪読した上で行われる議論では、陸海空自衛隊の中堅幹部や他省庁からの出席者が揃っており、そのうちの有志で本書の翻訳が進められたそうだ*1

本書で取り扱われていく戦争は次の通り、第一次、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、バルカン半島の扮装、インド・パキスタン扮装、アラブ・イスラエル扮装、サダム・フセインが引き起こしたイラン・イラク戦争と湾岸戦争、ウサマ・ビン・ラディンとテロに対する戦争、アメリカが主導したイラク戦争、そしてアフガニスタンにおける戦争。もちろん上下巻とはいえその全ての要因を列挙し記載するにはページ数も足りない上に、莫大な先行研究があるから無意味でもある。

時代的な背景についても触れておくと、著者が本書を執筆した当時は『戦争はナショナリズム、軍国主義、同名制度、経済要因、その他の「根本的な」原因が引き起こしてきたと先行研究は述べてきたが、筆者には特定の戦争の実際の始まりにこれらの原因をつなげて考えることができなかった。』とする状況があったようだ。そこで、それらの要因分析をあえて廃し、「戦争発生時に、個人がどのように関与し、あるいはしていなかったのか」を中心とする人間の個性を追い求める一冊になっている。

 ヒトラーのソ連への攻撃は、独りよがりな子供のようなひたむきな考えから生まれたものであったので、それは完全に破滅的であり、理解することが困難であった。スターリンは確かにドイツがいつかは攻めてくるであろうと心配していたが、ヒトラーであってもまずは最後通牒を送りつけてくるであろうから、合理的な対応が可能であると信じていた。ソ連の指導者は、ヒトラーが何の理由もなく、個人的な心情で攻撃してくるとは考えていなかったのである。

英国や米国からの警告や、ヒトラーが奇襲を狙っている情報は各所から寄せられていたにも関わらず結局それを信じることが出来ずにまんまと奇襲は成功してしまうわけではあるが。ごくごく簡単にまとめてしまえばスターリンがそんな状態に陥ってしまったのは1.自身のイデオロギーにより英米の情報を信じることが出来なかった。2.ヒトラーが独ソ関係を合理的に考えているとみており、ヒトラーのソ連に対する嫌悪を理解していなかった。3.スターリンはヒトラーが奇襲をしかけてきた事実を知って尚、結果を直視することが出来なかった、とここでは分析されている。

もちろんすべてがこの明快な結論に落とし込めるわけではないし、様々な周辺状況が複雑に絡み合ったうちの一因ではあるが、このように個人的に事象を検証していく、さらにその検証を積み上げていくことで見えてくるものもある。たとえば、最終的にはまとめとして幾つかの傾向が明かされるが、監訳者あとがきからそのまとめの言葉を借りれば『「決定的な場所に居た大きな影響力を持つ人々がいかなる判断をくだすかが、戦争下平和かを決める」に尽きる』

一方、こちらは本書中の言葉だが、『戦争の勃発の問題に関して、これまでの事例研究は指導者たちの性格に決定的な重要性があるこを示している。』といっており、「今更何を言っているんだ」と笑ってしまうような真っ直ぐさだ。しかし確かに、ヒトラーとスターリン、戦争へと固執したブッシュなど、もしその当時の指導者が別の人間であれば戦争は起きなかったのではないかとする分析には一定の説得力がある。

本書が提示する結論とその検証過程はそれだけではなく、個々人の性格の大雑把なパターン分けとパターン毎状況判断の傾向、「思い込み」や「疑心暗鬼」「誤評価」が戦争においてどのように機能してきたのかの分析と多岐に渡っていて興味深い。

 要するにあらゆる戦争の直前には少なくとも一つの国家がもう一方の力を誤評価している。その意味では、あらゆる戦争の開始は事故である。

あらゆる本にいえることだが、本書で述べられていることをそのまま鵜呑みにする必要はない。個別具体的にみればいくらでも異論・反論が出せそうな部分があるし、理論的な側面は薄く、あまりに単純だ。たとえば、専門家の意思決定サポートにより一指導者が戦争を始めることへの影響力は時代を経るごとに落ちているように思う。経済や同盟状況などの要因はもっと複雑に絡み合っているだろう。その上決定的なのは、2011年以後「国々」の定義も、戦争の定義も大きく変わりつつあることだ。

だが、本書は論調としてはまっすぐで筋が通っているため、「異論・反論が出る」事まで含めて基本的な議論のたたき台として有用なように思う。著者のストウシンガーが2015年で88歳とかなりの高齢なので、もう版を重ねることはないかもしれないが、何度も何度もアップデートされるだけの事はある一冊だ。昨年英語では自伝が出ているけど、彼の本はこれまで他には一切翻訳されてきてなかったんだよねえ。

From Holocaust to Harvard: A Story of Escape, Forgiveness, and Freedom

From Holocaust to Harvard: A Story of Escape, Forgiveness, and Freedom

*1:ほとんどが防衛大学関係者か、軍関係者という凄い面子。そのせいかどうかしらないが、訳にはこなれていないところがあるように思う。原書と付きあわせたわけではないからわからないが、「そういう表現は日本語ではおかしいだろう」という部分が多々ある。まあ、具体的な検証を行っているわけでもないからその話はこれぐらいにしておこう。