基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2015年のベストとか、12月のオススメとか。

挨拶代わりに昨年のまとめでも

さて、それでは2015年12月のまとめを……。

その前に昨年のまとめでも。隔月刊化したSFマガジンで連載をはじめて、HONZにお誘いいただいてというのが文章書きの方だと二大トピックスでしょうか。そうしたもろもろがあっても、ただのブログ書きであり、ブログが主戦場であることは変わりなく、その証明としても更新頻度は特に落とさないようにしたい(願望)と思っていたのだけど特に問題なかったようです。というより、諸々によって必然的に読む量が増えて、読む量が増えると連続的に文章が出てくるから逆に(文章量が)増えた。

長年続いたサイトを更新停止していく人々を見ると、自分もいつまで続けられるものなのかなと思ったりもするが、別に毎日更新を義務付けているわけでもないし、書くことは依然として僕にとっては何よりも楽しい最上の娯楽であるから、2016年は大丈夫でしょう。そういうわけなので2016年も頑張っていきます。記事の最後の方で年間のベストを数冊選ぶ予定(まだ書いてない)。

あ、あと12月25日にSFマガジン2016年2月号が出ています。僕は火星SFガイド14作と『神の水』1ページレビューと連載の海外SFガイドを2ページ書いてます。

SFマガジン 2016年 02 月号 [雑誌]

SFマガジン 2016年 02 月号 [雑誌]

2015年12月の面白かった小説

神の水 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

神の水 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

12月に出た本ではないけれども、パオロ・バチガルピ最新作『神の水』がやはり傑作である。誰が正しく現実を見据えているのか──『神の水』 - 基本読書 

アメリカの水資源不足問題という今まさに起こっている問題を、近未来を舞台にさらに先鋭化し、迫真のリアリティでもって描き出してみせる。そこにあるのは、目の前の失われつつある「水」を確保し、守り抜かねば故郷を追い出されるような、ゲームのルールが現代とは決定的に変わってしまった世界だ。水利権とそれを守る自前の軍隊を持っているヤツラが生き延び、持っていない人間は生き残ることができない。

「かつての善きアメリカを懐かしみ、再来を信じているもの」「悲惨な現実を前にして、外道のような行いを恥じるもの」など様々な理想を抱く人間が本作には幾人も出てくるが、現実は一変してしまっており「かつての現実」はもう戻ってくることはない、それこそが有限である資源が枯渇した未来のシビアさであり、夢も希望もありはせんとばかりに絶望的な状況を淡々と描写していく。下手な希望や、ありもしない現実を見るのではなく「本当の現実」を正しく捉えなければ生き残れない──。

物語のクライマックスと、「誰の現実観が生き残るのか」という相克のクライマックスが同時にやってくるラストは圧巻にして予測不可能である。

2015年12月の面白かったノンフィクション

道程:オリヴァー・サックス自伝

道程:オリヴァー・サックス自伝

私はよくも悪くもストーリーテラーだ──『道程:オリヴァー・サックス自伝』 - 基本読書 
神経学者であるオリヴァー・サックスの『道程』は、彼の自伝なのでファン以外には面白くない──と思いきや、異才が辿った人生の物語として、これ単体で読んでもとても面白い本だ。同性愛者であり、孤独癖があり、医者一家の中でエリートとして育ちながら実技はまるでダメで、悩みながら医者となり、それでも「書くこと」に楽しんでのめり込み多くの著作を遺した。医者、学者としては多くの人の話を聞き、深く患者に入れ込みながらも、同時に冷静な観察眼を併せ持った卓越した人物である。

多くの弱さがありながらも、それと相当するだけの実りを育てた魅力的な人間であることがこの自伝からはよくわかる。かくありたいと思える人間の一人であった。

小説その他

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ミハイル・エリザーロフの『図書館大戦争』も大変良い本だった。幾つかの条件を満たして本を読み終えることで自分の身体が強化されたり記憶力がよくなったりといった特殊な強化バフが自分にかかる世界。その秘密を知る者達は特殊な本を確保し私設図書館を作り上げ、日夜本を奪い合って殺しあうという例の図書館戦争とは似ても似つかないトンデモな大戦争である。記事を読んでもらえればその一端に触れることができるが、自身を強化した数千人のババア軍団との戦いなど頭が悪く面白いぞ。
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ベン H ウィンタース『世界の終わりの七日間』は書名の通り(原題は『world of trouble』)一週間後に小惑星が衝突して、まあ人類はもう終わりだよねと広く科学者らに観測されている世界を描いた作品である。三部作の最後の一作で、これまでの作品は「あと数ヶ月で地球が終わるって言ってるけど俺は刑事だし事件の捜査するよ!」という超絶頭の固い刑事がなぜそこまで調査にこだわるのか、そして滅亡寸前の人類はどのような行動をとるのかを丹念に描写してきた。最終作はミステリ的な形式は後ろに控え、より世界の終わりを前にした人々の比重が高まり、そんな状況にいたっても調査をやめられないクレイジーな主人公の内面に深く迫ってみせる。

『地上最後の刑事』『カウントダウン・シティ』『世界の終わりの七日間』と三部作それぞれ随分テイストが違うので、ミステリ傾向が強いほうが好きならば第一部から、破滅に向かう人類の姿が見たいなら本書を、いい感じのバランスで読みたいなら第二部をといった感じで適当に読んでもいいかもしれない。

ノンフィクションその他

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『眠っているとき、脳では凄いことが起きている』はまあそのまんまのタイトルの本ではある。結局、1日8時間も無防備状態になるのだから、それなりに生存において重要なことを睡眠中にやってるんだぜ、という話だ。起きていたあいだの記憶を整理し、問題解決に向けたアプローチをとって、何より寝ないと脳はすぐに判断力を失う。人にもよるが6時間だと足りないので7〜8時間は寝たほうがいいだろう。もちろん、徹夜など能率が悪くなるだけなのでご法度である。
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『パクリ経済──コピーはイノベーションを刺激する』は、著作権に守られていない、パクリ放題の世界でも新しく物を創る人がいなくなるどころか、イノベーションが活性化されている事例を見ていくことで「コピーが一概に悪いわけではないでしょ、どんな場合にコピーがイノベーションを阻害して、どんな時には阻害しないのかを考えてみようよ」と整理した本である。

例としてわかりやすいのは料理におけるレシピだ。コピーされまくるが新しいレシピを創る人はいなくならない。他にも、アメリカではフォントには著作権はないが、フォントの世界でもイノベーションは起こり続けており、そこには様々な理由がある。以下はその幾つもある理由のうちの一例ではあるが、納得のいく理屈だと思う。

あるタイプフェースのデザインが流行して、そっくりなコピーが急増し、そのスタイルで市場が飽和した時、フォント界は次のデザインのトレンドを探し始める。その結果、コピーに対する保護がほとんどない世界でも、新しいフォントが増え続けることになる。

イノベーションを効率よく起こす制度設計について考える時に、盲目的にコピー、パクリを禁止する必要はないのだと本書を読むとよくわかる。

ゲームとか

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Fallout4とウィッチャー3をやった(やりすぎでは)。どっちも素晴らしく面白く、2015年を代表するゲームといっていいだろう(あとメタルギア5ね)。Fallour4はシナリオはともかくあの世界を探索し発見していくのが楽しくてたまらず、自分とは無関係に存在している勢力が勝手に争い、殺しあっているのをみているとああ、この世界は自分とは無関係に維持され、存在しているのだと実感する。それは世界に一住民となって住んでいる感覚をもたらしてくれて面白いのだ。
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ウィッチャー3は僕としてはこれぞゲームの醍醐味という「自分の選択が世界の命運を左右する」が行えるゲームで、自分がその世界を善い方向に導いてやるぞ!! とのめり込んで楽しんでしまった。終わった時は「い、いったいこのあと何をして生きていけばいいんだ……」とちょっと呆然としてしまったぞ(その感覚は良い本や良いゲームをやった時特有のものだ。)

マンガと映画

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

不死者達のバトルを描いた『亜人』というアニメ映画をみたら、これがめちゃくちゃ面白かった。不死者が出てくる作品はよくあるが、不死者とはいっても対処法はいくらでもあるわけだ。封印されて水底に沈められたりね。大抵の作品で不死者は少数派だからそのような対処法が特別にとられるだけだが、この作品の場合は幾人もの不死者がいる世界、不死者は不死者なりの戦術を考案し、逆に不死者を捉えようとする機関もそれなりの戦術を考案する不死者ならではのバトルがひたすらに熱い。

たとえば「死ぬと全てが再生」するから、捉えようとする側は麻酔銃などで眠らせてしまおうとする。眠っただけだと再生しないからだ。それは一時は有効な戦術だったが、不死者側は「麻酔銃で撃たれたら、自分の頭を撃ち抜く(あるいは麻酔銃で撃たれた部分を刃物で切り離す)」ことによって麻酔を阻止する/一回死んでリセットする。こうした真っ当な戦術展開がスピーディに行われていくので能力バトルとしてツッコミどころが少ない。それどころか、物語はすぐに個人間の争いを超えて、不死者は世界的なテロ組織へと変貌を遂げ──と世界規模の話に展開してくのも熱い。

規模が世界へと展開しても、非常に真っ当に「不死者性」はテロ戦略に組み込まれ機能していくので、「これこれ、こういうのが読みたかったのだ!」と喝采をあげたのである。アニメの話からマンガの話にシームレスに切り替わっているが、映画版と漫画版はだいたい今のところ話が同じなのだ。映画版を分割して詳細にしたアニメ版が1月からやるっぽいのでちょっと見てほしいなあ。ほんと面白いので。

2015年、ベスト小説

エピローグ

エピローグ

今年もっとも楽しんだのは──何はともあれ円城塔『エピローグ』と『プロローグ』かな。円城塔作品の現時点での最高傑作にして到達点でしょう。何が何だかわからないほど超越した知性というものをこれでもかと描写し、法則が揺らぎ続けている何でもありな宇宙を存在感のあるものとして描写してみせる。壮大な与太話でありながらどこまでも真面目な話であり、読者まで含めて作品として成立してしまう力技。
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エンジェルメイカー (ハヤカワ・ミステリ)

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ミステリ)

海外小説としては『エンジェルメイカー』がトップ。SF、ファンタジー、スパイ物、少年漫画的な燃える展開とすべてを投入しクライマックスへと結実させてみせた圧巻の一冊(長さも)。2015年を通して間違いなく一番興奮した小説だ。
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2015年、ベストノンフィクション

2015年 HONZ 今年の1冊(1/3) - HONZ
HONZでも同様の企画が上がって、答えているのでその文章をここにも転載する。

今年読んでいて一番興奮したのは中国へ特派員として滞在した海外ジャーナリストが書いたルポタージュ『ネオ・チャイナ』だ。的確に中国の実情──大きな成長と同時に存在している異常な歪みを描き出しているが、そこで歪みにあらがって生きる人々はまるで英雄譚の主人公のように魅力的である。

現地で政府批判を行うジャーナリストは一歩間違えば問答無用で逮捕されてしまう危険と隣り合わせの中で「わかりにくい」言葉を使いながらなんとかチェックアンドバランスを得ようとしてみせる。あらゆるものを性急に、杜撰に進めようとする傾向から建設計画は各所で短縮され、その結果事故が起きて人がガンガン死ぬが、ウソまみれの政府発表と報道規制によってチェックは行われず、改められることはない。

中国文化論としてはもちろん、理屈にあわない理不尽の中で、野望を抱き自分なりの理屈を通し、人生の幸福を掴みとらんとする人々の物語として是非オススメしたい。

ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望

ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望

失われた夜の歴史

失われた夜の歴史

もう一冊選ぶなら『失われた夜の歴史』がノンフィクションでは一番面白かった。産業革命以前の、まだ電源が通っていなかった夜の世界で人々はどのような生活をおくっていたのか──。月明かりを頼りに本を読む少年、暗くなったら寝る以外することがないので早くに寝るものの、途中でどうしても起きてしまう人々は毎日途中で2〜3時間を雑用をしたり本を読んだり、闇夜に乗じて悪事をはたらく者共もいる──と分割睡眠に当てていたなど今では想像もつかない情景がそこにはある。
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そんなところかな。もちろん、それ以外にも面白い本をたくさん読んで、映画をみて、ゲームをやった。より詳細な記録は「冬木月報」タグから月のまとめがみれるので、遡ってみてください。出版業界は年々売上が下がっているというが、良い本にたくさん出会った年であった。

これから読む本

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↑こんな感じ。とりあえずスパム本から読もうかな。

スパム[spam]:インターネットのダークサイド

スパム[spam]:インターネットのダークサイド

  • 作者: フィン・ブラントン,生貝直人,成原慧,松浦俊輔
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2015/12/25
  • メディア: 単行本
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それでは、また今月も面白い本にたくさん出会えることでしょう。さらだば。