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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

叛逆したりspamに惑わされTYPE-MOONコンテンツを漁る一月

冬木月報

2016年1月のまとめ

1月は多少忙しくてあまり読めなかったし更新できなかったのでコンパクトに。

告知としては2月の10日に出るSFが読みたいの2016年版に海外SFでランクインした20作品のガイド、及びこの年の総括語り、またランク外の注目作品については1ページもらって書いています。ランキングはなかなかおもしろい結果に。
www.hayakawa-online.co.jp
こういうガイドブックとかの「作品ガイド」って、みんなさらさらさらーっと書いてるんでしょう? 楽勝でしょう? と思っていたんだけど、いざ自分が書くとなるとかなりの労力を費やす必要があった(それが影響して1月の更新頻度が下がった)。まあ、だからすごいでしょうとか、ほめてくれとかいうわけではなくただの感想である。SFが読みたいが出たら個人的な1年を通しての注目SFの振り返り記事を書いてもおもしろいかな。

フィクションのふりかえり

1月に書いた記事の中で特に注目のものをふりかえると、アン・レッキー『叛逆航路』がまず挙げられるだろう。『ニューロマンサー』を超える7冠を獲得した歴史的作品! とはいえこういうのは時の運が絡むので話はほどほどに。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
もちろん面白く、特異な作品である。登場人物のほとんどは、その架空の未来国家では性的に男であろうが女であろうが「彼女」と表記されるために、文字で読んでいるだけでは性が判別できない。実際、三部作のうちの一作でありながら登場人物の多くはその生物学的な性別がわからないようになっている。

大きな特異性のもう一つは、語り手であるブレクがAIである点だ。それだけでは別になんの珍しさもないが、複数の身体をあやつり全ての視点が自分のものなので、「一人称語りでありながらも三人称のような記述」ができるのである。とまあ手法はおもしろいが、ストーリーもベースにあるのは何千もの身体を持ち国家を支配している最高権力者をいかにしてぶち殺すのかというシンプルな復讐譚でもあるので、そこさえはずさなければ安心して読めるだろう。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
小説の次点だと『天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと』は読む人は読んでいるだろうし、シリーズを通して読んでない人に説明するのは大変なのでおいておこう。生まれてきたことに感謝をするレベルにおもしろい作品はそんなにはないぞ。なのでそれ以外で挙げるならトム・ヒレンブラント『ドローンランド』かな。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
ダニサイズのドローンまである世界で、社会をくまなく監視体制においたヨーロッパで起こるSF犯罪ミステリ。大量のデータでほとんどの人間が解析され、それが戦術ソフトウェアに転用されると「相手の攻撃パターンの予測、複数人に襲われた場合は誰から倒すべきかの判断」までもしてくれるすぐれものだ。戦術ソフトウェアに誘導されながら戦う刑事の姿はケレン味たっぷりである。

ノンフィクションのふりかえり

huyukiitoichi.hatenadiary.jp
ノンフィクションではフィン・ブラントンの『スパム[spam]:インターネットのダークサイド』がめちゃくちゃ読みづらいけれどもおもしろかった。『チャールズ・ストロスが言うように、「一方にはチューリングテストに通れるメールを生成するソフトウェアを書こうとする側、他方にはまにあわせのチューリングテストを管理できるソフトウェアを書こうとする側がいる」』というように、迷惑メールなどのスパムを送り込む側の視点と、それを防衛する側がどのような対策を重ねているのか、その歴史から技術的な面までフォローした世にも珍しい「スパム研究書」。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
次点としては『これで駄目なら』というヴォネガットの卒業講演集もいいけど、基本的にはヴォネガット・ファン向けでもあるので鴻巣友季子さんと五人の小説家の問答集『翻訳問答2 創作のヒミツ』を推そう。登場する人物は奥泉光さん、円城塔さん、角田光代さん、水村美苗さん、星野智幸さんとそうそうたるメンバー。『吾輩は猫である』や『竹取物語』の英訳テキストを題材に、鴻巣さんと問答相手がお互いに指定された一部分を訳してなんでそう訳したんだろう? と会話を交わす。

普段あまりみることのない「翻訳家同士の解釈の違い」「どのように解釈を決めるのか」が見えてくるおもしろいシリーズだ。

TYPE-MOONコンテンツ

記事を書いていないが、Fate/goにハマった影響で今まで手を出していなかった型月コンテンツをいろいろと遊んだり読んだりしていた。成田良悟さんの『Fate/strange Fake』などおっかけていないのがけっこうあったのだ。

Fate/EXTRA MOON LOG:TYPEWRITER I+II (2巻セット)

Fate/EXTRA MOON LOG:TYPEWRITER I+II (2巻セット)

タイミング良く『Fate/EXTRA MOON LOG:TYPEWRITER』というFate/EXTRAのシナリオ集が出ていたのもある。これ、シナリオが奈須きのこによる書き下ろしで、ゲームもけっこう面白いのだが戦闘やらダンジョン探索がめんどうで途中で放置していたので助かった。1巻2巻で大ボリュームで、電子的に再現されたSF聖杯戦争が楽しめる一品である。ゲームだと三人のキャラを選んで、それぞれのかけあいが楽しめるのだが、そのかけあいが全部収録されている。この他には三田誠さんによる『ロード・エルメロイII世の事件簿』もちょうど三巻が出たところである。こっちはほぼ正史? のようで、聖杯戦争は起こらないもののTYPE-MOON世界では超重要拠点である「時計塔」を真正面から描いた魔術ミステリ☓バトル物。これまでにも魔術ものを手がけてきたり、TRPG畑の人間であったり、恐らくは生きてきた時代も近く空気が原典と似通っている。橙子さんが出てくるのは知っていたが「名前だけ」とかそういうゲストではなくガッツリ出てきてガッツリ喋ってると思わなかったので読んでいて嬉しかったのである。
Fate/strange Fake (1) (電撃文庫)

Fate/strange Fake (1) (電撃文庫)

最後に成田良悟さんによる『Fate/strange Fake』だ。これはまあ、完全にifということであるが、さもありなん、こちらはこちらでデビュー以来一貫してお得意の群像劇を活かせる複数人数が入り乱れる聖杯戦争。それもケレン味たっぷりの「例外的サーヴァント」に「例外的マスター」、その誰もに共通しているのはどいつもこいつも人生振りきれたアッパーさというイカれたメンツが勢揃いしている──のはいいんだが、分量が足りない。ページ数は常識的な分量で、現状2巻までじゃあ全然足りないのである。こちらはガンガン続きを出してくれることを望むのである。

マンガ

カナリアたちの舟 (アフタヌーンKC)

カナリアたちの舟 (アフタヌーンKC)

『カナリアたちの舟』というマンガがめっぽうおもしろかった。突如として地球が宇宙人に侵略され、普通の女子高生がわけもわからずさらわれてしまう(たぶん)。彼女の目がさめてみたらそこは地球ではなさそうな光景に謎の建築物の中。一人だけ冴えない男がいるほかは、なんか食べられるものが生えていてどこからの干渉も受けない。このままここで二人だけ、何もない世界で生きていくのか──。

とそんなフェイズはすぐにおわり、外に決死の思いで這い出してみれば(まわりが崖なので出れなかった)、なぜ地球が襲われたのか、他の地球人はどうなっているのか、ここはどこなのかといった数々の事実が明らかになっていく。その設定自体がよく練りこまれていてものすごくおもしろいというわけではないのだけど、人類とは全く別の生物の異質感が一冊の中に見事に凝縮され、少女との物語として構築されているので満足度が高い(たぶん単巻完結)。

これから読む本

ノンフィクションとしてはジョナサン・シルバータウン『なぜ老いるのか、なぜ死ぬのか、進化論でわかる』が楽しみかな。老いも死も別に進化論の範疇じゃないんじゃなかろうかという気がしてならないが。フィクションとしては宮内悠介さんの『アメリカ最後の実験』が楽しみ。宮内悠介による音楽小説って傑作しか思い浮かばない。

アメリカ最後の実験

アメリカ最後の実験

それでは、今年も既に1/12が終わってしまいましたが残りもがんばりましょう。