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死から蘇りて裏切り者絶対に殺すべし──『レヴェナント 蘇えりし者』

レヴェナント 蘇えりし者 (ハヤカワ文庫NV)

レヴェナント 蘇えりし者 (ハヤカワ文庫NV)

アカデミー賞で映画作品の『レヴェナント:蘇りし者』が監督賞(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)や主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)や撮影賞(エマニュエル・ルベツキ)をそれぞれ受賞したことで大いに盛り上がっているが──日本ではまだ公開されていない。公開日はいつやねんと思ったら4月22日とずいぶん先だ。

盛り上がっているのに観られるのは1ヶ月以上先か……(というか、受賞以前から盛り上がっているからずっと待ち続けている……)とがっくりするものの、先日映画のノベライズではなくれっきとした原作小説が出たのでこれを読んで待つのもいいのではないだろうか。これがなかなかおもしろいのである。

本書のストーリーはかなりシンプルな復讐譚だ。

1820年代のアメリカを部隊に、罠猟の遠征隊に参加した、隊の面々からも評判のいい有能な男ヒュー・グラスは森で熊に襲われて死にかけてしまう。喉が切り裂かれろくに飲み物ものめず、背中には大きな爪痕が残っている。遠征隊隊長の号令によりみな死にかけのグラスをえっちらおっちら運ぶが、当時はまだインディアンらとの抗争が終わっておらず、常に襲撃の危険と隣合わせで怪我人を連れて行く余裕はない。

そこで、ほとんど死にかけていたグラスを埋葬するために二人の男を残し、遠征隊は出発するのだが、この二人がグラスの持ち物を奪ってすぐに遠征隊のあとをおいかけて去ってしまう。これはもちろん卑劣な行為ではあるが、彼ら自身もインディアンの襲撃を恐れる人々であり逃げたこと自体を責めるのも厳しい部分がある。

このままグラスが死んでいれば二人はグラスは死にましたと嘘をついて何の問題もなかったはずだが、絶対に死ぬと思われながらもなんとか命をつないだグラスは、自分の持ち物を奪って逃げた二人へと復讐を誓い脅威の精神力で復活を遂げていく──。

実話なのだ

ヒュー・グラス - Wikipedia
で、このストーリー自体は実はほぼ史実に基づいたものだ。取り残された男ヒュー・グラスは実在するし、彼をおいていった二人や遠征隊の隊長など主要なメンツもわかっている。実際に熊に襲われ、見捨てられ、復讐に向かったのだ。一度聞いたら忘れられないぐらいのインパクトがある設定と展開であり、原作小説よりはこの実話のほうが有名なのではないだろうか。僕も映画をみてこの実話を映画化したものかあと思っていたから、原作小説が存在することに驚いたぐらいだ。

小説とはいえ、本書は基本的な部分についてほぼほぼ伝記に忠実に作り上げられている。重要な役どころの人間は全員史実で名前もその後の人生も判明している人々だし、フィクションの登場人物らもみな伝記などでは明らかになっていない「空白」を利用して生み出されている。ほぼ史実なら小説としては物足りないのではと思うかもしれないが、伝記では当時のヒュー・グラスの心情をこと細かに描きだすことはできないところを、フィクションという体裁ならばそれができる。

喉を切り裂かれ物を食べることなど到底できず、体中の骨が折れ、背中には骨にまで達する爪痕が残っているような「常識的にいえば絶対に生き残ることはできない」怪我をおい、立って歩くどころか物を食べることすらできないヒュー・グラス。そんな彼が、裏切り者絶対に殺すべしと地べたを這いつくばりながらなんとか前へと進む姿にはカタルシスというよりもただただホラーじみた恐怖を覚える。

フィッツジェラルドとブリッジャーは意志を持って行動し、グラスが自分の命を守るために使ったかもしれないわずかな所持品を奪ったのだ。そして、グラスからこのチャンスを奪うことで、二人はグラスを殺したのだ。心臓に刺さったナイフや頭に撃ち込まれた銃弾と同じくらい確実に、殺意を持って殺したのだ。彼らは殺意を持って殺そうとしたが、グラスは死ぬまいと思った。死んでたまるか、グラスは誓った。なぜなら、生き延びて自分を殺そうとした者たちを殺すつもりだからだ。

史実についての断片的な情報から、イメージ的には「ほとんど死んだと思われて埋葬されたあと息を吹き返して歩いて後を追うのかな」ぐらいに想像していたのだが、本書のグラスは最初這うことしかできない。ずりずりと身体をひきずって一日数マイルずつ進み、それでも絶対にあいつらを殺すという執念のみで前に進み続ける。

まあ、非常にシンプルな話なので、ヒュー・グラスの復讐は果たされるのか、はたまた彼は途中で力尽きてしまうのか、これ以上語るべきこともあまりない。

それ以外だと、1820年代という時代の描かれ方がよかったかな。まだアメリカ大陸に未開の地が多く残っていた時代であり、インディアンの恐怖があることから命がけの「冒険」や「探検」が存在していた時代だ。開拓されていない土地を襲撃に怯えながら探索し、動植物を狩りながら日々を生き抜かねばならぬ緊張感が1820年代にはまだある。このへんは映画でどこまで再現されているのか気になる部分だ。当時は存在しなかった人工照明を使わず、自然光と炎の明かりだけで撮影は行われたという。

予告編でもかなりよかったし、撮影賞もとってるぐらいだから期待して間違いないだろう──楽しみだが、もう少し早く公開してくれんもんかね。

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