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基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ドイツ帝国の正体――ユーロ圏最悪の格差社会

経済ノンフィクション

ドイツ帝国の正体――ユーロ圏最悪の格差社会 (ハヤカワ・ノンフィクション)

ドイツ帝国の正体――ユーロ圏最悪の格差社会 (ハヤカワ・ノンフィクション)

自国の経済分析を見ていると暗澹たる気分になってくる。他国なら惨状であっても笑って読めるかとおもいきや問題は似通っていてまったく笑えない。それどころか、ドイツはたしかにユーロ圏としては最悪の格差社会といえるかもしれないが、経済は依然として強いし伸びてもいて、日本よりも状況がよほどいいので参ってしまう。

本書はドイツで起こっている格差がなぜ起こったのか、現時点で格差はどこまで進み、顕著にみられるのはどんな分野なのか、格差は経済システムにどんな影響をもたらすのかを概観する一冊である。ドイツ版ピケティと帯にデカデカと書かれているように、富めるものがますます富む基本的な仕組みがドイツでも当てはまることを解説しているので、アメリカだろうが日本だろうが他人事ではない。

まず、そもそもドイツって格差がどれぐらい進行しているの? という話だが、資産がそもそもあやふやな概念であるし、政府や統計局も超富裕層のデータ取得は滞っており計測するのが難しい(アンケート調査などをしているが、ある程度裕福な人は資産についての情報を積極的に統計局に提供したりしない一般的な傾向がある)。

それでも何度か実施された調査を元に、ぱっと見格差がわかりやすい数字から上げていくと、ドイツの資産額階級上位8万人の総資産が下位の4000万人の総資産の16倍に相当し、上位80万人の総資産が残りの国民8000万人の総資産とほぼおなじであるとか明らかな格差がみえてくる。分配の不平等さを表す統計学的指標であるジニ係数(ゼロが完全な平等で1が極端な不平等を示す)がドイツは0.78。日本は0.55、フランス0.68、イギリス0.67とざっとくらべてみてもかなり高い。

保険、不動産、自営業者

格差が起こる原因になっているのは主にどんな分野なのかといえば、本書で取り上げられているのは各種保険、不動産、中小企業、自営業者などなどである。景気がそれなりに安定しているように見えるドイツだが、たとえば欧州の企業向け融資需要は(2013年)前年同期比で26%も減少しているなど厳しい数字も出ている。

融資需要がなければ銀行に預けられている金は増える一方なので最低限の金利が続く。保険会社は保険料の大部分をリスクの少ない債券を購入することを義務づけられており、当然保険会社だけでなく銀行もリスク回避的に動くので投資は集中し債券の利回りもさらに下がる。結果として、預金者や個人年金保険加入者にインフレ率を上回る利回りが顧客に提供できなくなる=預金や保険加入のみの資産運用では、実質的に資産が減少していくのと同じことである。

不動産にいたっては、ドイツの世帯の半数以上は不動産を所有していない(日本でもそうたいしてかわらない)。別に不動産という形で資産を持っていないこと自体は問題にならないが、持家がない場合賃貸になるわけで、そこで利益追求型の不動産会社や個人が住宅所有を過剰に増やした場合資産の再分配が助長される。それは不動産投資の必然的な帰結であり、修繕費と建築費用だけで家を貸し出せってか? 不動産投資する意味がまったくなくなってしまうというのはもっともな話ではある。

本書もさすがにそこまでのことを言っているわけではなく、過剰に利益を追求することで実質的に格差が広がっている現状がここでは問題視されている。ある程度の上限を儲けるべきなのでは、もしくは現状融資対象から外されている所得が少ない人々にも不動産を持てるよう融資を可能にすべきなのではというのが本書の主張である。

これについてはかなりのリスクがあるものの、国が保証する範囲を定めたりで対応できそうではあるけど、うーん、やたらと複雑になるし賃貸の方で制御したほうが楽なんではないかと思うが。資産を不動産に限定する必要もないように思える。なにしろ不動産を半数以上は所有していないのと同時に、株式資本についてもドイツ国民の90%は保有していないので、根本的に資本がねえという問題なのではなかろうか。

おもしろかったのがドイツの自営業者事情で、だいたい11〜12%ぐらいがドイツの自営業率(正確な数値はわからないと書かれている)なのだが、その内4人に1人、110万人の自営業者は公定最低賃金である時給8.5ユーロよりも少ない事業所得しか得ていない。近年ではタクシー運転手や農家といった古典的な自営業者は減少傾向にあり、一方で塾講師や文筆、芸術分野で増えている(地獄感がある

文筆、芸術分野だけでなく自営業者数全体が増えていたのだが、その理由としては、事業を開始する際に公的補助を受けられることが大きい。かといって儲かるわけでもないので最低限の生活を保証する金額以下の生活を送る人々が増えているという状況だろう。自営業=実質的な企業が多いことはイメージ的には経済にプラスのように思えるが、実際は格差を加速させる可能性があるわけでちょっと意外だった。

「資産家は富をどう築いているのか」という章ではさまざまな形で富裕層がさらに資金を増やすやり方が一部紹介される。これについては、病院などで行われている看護師給料の搾取などは日本でも同様の事例がいくつも見られるように思う。ようは、人件費が経費の大部分を占める事業は人件費を圧縮すれば利益になるので、利益を貪欲に追求するとしわ寄せがまっさきに職員にくる(プログラマとかも同じだな)。

 病院が経費を削減すると、たいてい減らされるのは看護師の賃金である。社会保険料および税金の控除前の賃金は、フルタイムで働く看護師の20%で1500ユーロ以下、その上の20%では1500〜2000ユーロである。上位の13%だけが、3000ユーロ以下以上を受け取っている。

なぜこうなったのか、どうしたらいいのか

本書の最終章は、じゃあそうした状況に対してどうしたらいいの? という提言になっているが、これもう原因が自由化と各種税率の軽減にある(というのが本書の立場)んだから今こそ真っ当に適切な再分配をもう一度導入するしかないよねとなる。

民営化政策を止めて、年金制度を強化して、教育を補助して、最低賃金を引き上げて……高所得者がどれだけの資産を持っているのかを正確に計測して、税金をいっぱいとろうね、と。別に特筆すべきものはないが、うーんどうだろうね。そんな主張が(局所的には通りそうだけど)通るだろうかと疑問に思うけど、日本でもマイナス金利とかアベノミクスとかそんなことが現実に日本の政治で出来るわけがないと思っていたことが実現しているから意外と動く時は一瞬で動くのかもしれない。

ドイツの格差問題について知りたい──というよりかは、ドイツを仔細に分析することで普遍的な格差問題に迫っている一冊なのでその辺興味ある人はどうぞ。261ページとコンパクトながらも情報が詰まってお得である。