基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

海外SF異常事態・マルドゥック・エイプリルフール

近況とかエイプリルフールとか

近況というほどのものは何もなし。しいていえば花粉症がキツくて今は一年を通してもっともパフォーマンスの出ない時期なのでつらいというぐらいか……。

エイプリルフールとか、誕生日とか、大晦日とか、暦を順調に消化していくと必ず訪れるイベントがあるけれどもめんどうでしょうがない。あけましておめでとうとか誕生日おめでとうありがとうとか微塵も思っていないことを言い合うのが実にめんどうだ。太陽が天球を一周しただけのことで何がめでたいんだか意味がわからないが、誕生日は誰にも言わなければやりとりをする必要もないので隠しているのであった。

それでは2016年3月に読んだ物からこれはというものをピックアップ。

3月のピックアップフィクション

3月はSFが多め(いつもだけど)な上に、ここ最近の海外SFの異常事態(話題作、それも古典になりかけている過去の名作群が新訳だったり本邦初訳だったりでバンバン出ている)が発生してどこか異様な雰囲気を感じる。

さようなら、ロビンソン・クルーソー (〈八世界〉全短編2) (創元SF文庫)

さようなら、ロビンソン・クルーソー (〈八世界〉全短編2) (創元SF文庫)

何しろこの数ヶ月でヴァーリイの短篇集『さようなら、ロビンソン・クルーソー (〈八世界〉全短編)』、ティプトリーの9篇初訳の短篇集『あまたの星、宝冠のごとく』、スラデックの『ロデリック』、ハーバートの『デューン 砂の惑星』は新訳で出て、コーニイの『ブロントメク!』、ベイリーの『カエアンの聖衣』が共に大森望訳で新訳、さらにはコード・ウェイナー・スミスの人類補完機構全短篇が『スキャナーに生きがいはない』からはじまってと「何をピックアップしろと」感がある。

ハヤカワ文庫補完計画の影響が大きかったりと理屈はいろいろつけられるだろうけれども、それにしたってスゴイ。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
僕が3月に記事を書いた中であえてオススメをあげるなら──まっさらな状態でおもしろい短篇集を読みたいというのなら……ヴァーリイの『さようなら、ロビンソン・クルーソー (〈八世界〉全短編)』を短篇集としては推して、長篇としてはフランク・ハーバートの『デューン 砂の惑星』を推すかな。一時代を築き上げた作家の作品が新訳でフレッシュに味わえるのも、未訳のものが楽しめるのも嬉しい。新人作家としてはキャンビアスの『ラグランジュ・ミッション』は21世紀に現実的に存在し得る宇宙海賊とは何かを描いてみせた作品が良い宇宙SF。将来有望っすよ。
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日本では忘れてはいけないのがSFマガジンで連載していた冲方丁『マルドゥック・アノニマス』がまとまって出たことで、マルドゥック・シティで無尽蔵に供給される新能力者たちが織りなすデス・ゲームがスタートするという新シリーズの開幕にふさわしい出来。第2回ハヤカワSFコンテスト受賞者柴田勝家さんの『クロニスタ 戦争人類学者』も面白そうだけどまだ読めてない!
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3月のピックアップノンフィクション

ノンフィクションは全方位にオススメ! というものはなかったがおもしろいものがポツポツと。『考えながら書く人のためのScrivener入門 小説・論文・レポート、長文を書きたい人へ』はScrivenerという多機能テキストエディタの紹介/マニュアル本だ。Scrivenerは電子書籍をつくりたい人とか、そうでなくとも数万文字を超えるような文章を書く人は非常に使い勝手のいいツールでオススメなのだけどいかんせん日本語には公式対応してないし機能が多すぎるしとごちゃごちゃしているのでそういう時にこの本があると嬉しい。そんな長文を書く人は多くなさそうだけど。
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『地球を「売り物」にする人たち――異常気象がもたらす不都合な「現実」』は異常気象もまた「投資対象」になることを丹念に取材した一冊。たとえば温暖化が進行するなら、ロシアとかは暮らしやすい気候になって土地の価値も上がるじゃん! 今のうちに土地を買い占めようぜ! とかいう人たちが当然出てくるのだ。

北の方の貧しい土地に住んでいる人たちは温暖化の進行にはまったく関与していないにも関わらず、温暖化に関与している先進国の富裕層に気候変動から生まれる実りさえ搾取されてしまうわけでそれって問題だよね──とはいうものの、来るべき不都合(水位が上がって島が沈没したりね)にテクノロジーで対応しようとする投資家らもいるわけで金儲けも悪いことばっかりではない。
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特にオススメなのがこの『人間VSテクノロジー:人は先端科学の暴走を止められるのか』。デザイナーベビー、ドローン、無人兵器、自動運転……と「それを社会に解き放ったらどんな問題が起こるのか予想しきれない」テクノロジーの発展が凄まじく、『先進テクノロジーの採用に伴う潜在的な危険を想定して管理するさいの問題を検討し、さらにそれを予想される利益と比較考察する』一冊である。

人工知能はまだまだ人間に叛逆したりしない/できないが、自律判定して人を殺す無人兵器とかはもうできるわけで、我々はそこにどうルールを構築すればいいのかはそれらの使用が一般化してしまう前に考えなければいけないことだ。本書は今読むべき、というより今読まないと手遅れになりそうな一冊といえるだろう。

コミック

ハーモニー(1)<ハーモニー> (角川コミックス・エース)

ハーモニー(1)<ハーモニー> (角川コミックス・エース)

優れたコミカライズ。もともと原作の『ハーモニー』は(伊藤計劃作品は全部そうだけど)「小説であること」に自覚的な描写の塊みたいなものなんで映像化(アニメ化/漫画化など)は不可能とはまではいわないけどおもしろいものにするのは無理があるんじゃないのかなーと眺めていたんだけど、丁寧に原作のエッセンスを拾い上げながら漫画に翻案している本作はそれを見事に達成しているようにみえる。

僕はアニメーション映画の方もデザインから何から何まで尖っていて好きだけど(アニメならではの演出もさすが)、どうしても世界に理屈を与えていく部分で延々と人間同士が喋っていると「話なげえ……ぐるぐるぐるぐる」と呆然としてしまうところがあったが(アニメはそれでもギリギリのバランスを保っていたと思う)漫画の方がセリフを自分のペースで読めるという意味で違和感が少ないのもある。

三巷文さんはエロ漫画『こんなこと』で名前を知ったがめちゃんこ絵と情報の詰め方がうまくて、エロさ(これは肉体と肉体の無機質さの表現という意味だけど)と情報の詰め込みの両方が必要なハーモニーには適任だったのかもしれない。

ハーモニー(完全生産限定版) [Blu-ray]

ハーモニー(完全生産限定版) [Blu-ray]

これから読む本

フィクションの方は先ほどあげた柴田勝家さんの『クロニスタ 戦争人類学者』に大期待。『竜に愛されし少女イオナ』も楽しみにしていた作品の完結篇なので早く読みたいところだ。ノンフィクションでは『知能はもっと上げられる 脳力アップ、なにが本当に効く方法か』がこのあまりにも胡散臭い書名に反してなかなか実際的でおもしろい(いま半分ぐらい読んだ。)

クロニスタ 戦争人類学者 (ハヤカワ文庫JA)

クロニスタ 戦争人類学者 (ハヤカワ文庫JA)

そういえば早川の『五〇億年の孤独』という太陽系外にひそむ生命体を探す宇宙生物学関連の本、なんか聞き覚えのある書名だなと思ったら洋書ですでに読んでいたやつだけどおもしろいのでオススメ。「我々はいつか来るとはっきりわかっている地球の終わりに向けて孤独に待つか、惑星のゆりかごを超えて、空の向こう側まで惑星を探しに出て行くかのどちらかを選ぶことが出来る」
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五〇億年の孤独:宇宙に生命を探す天文学者たち

五〇億年の孤独:宇宙に生命を探す天文学者たち