基本読書

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戯言シリーズがアニメ化ですってね。『人類最強の純愛』

人類最強の純愛 (講談社ノベルス)

人類最強の純愛 (講談社ノベルス)

言わずと知れた西尾維新、そのデビュー作である〈戯言シリーズ〉のスピンオフである最強シリーズ第2作目である。とはいえそこまで前作『人類最強の初恋』とのリンクがあるわけでもないので、本書から読んでもよいだろう。
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書名から「恋愛ものなのかな?」と推測して読んだ人は本を放り投げかねないので先行説明しておくと、前作はともかく本書には一般的な意味での恋愛要素はない。

著者あとがきから言葉を借りれば、『この最強シリーズは、人類最強の請負人である哀川潤と釣り合う存在を探そうと言う、言うならば広義の婚活として書き始められたところもあるんですけれど』とあるように人類にあまり敵がいなくなってしまった彼女を主人公とし、「何が敵足りえるのか」を模索するような一作になっている。

そのせいで前作からこっち、人外が出てきたり宇宙に行ってしまったり、本書ではまったく別の生命体が出てきたり「人類最強の熱愛」時間を超えてみたり「人類最強の求愛」深海にいったり「人類最強の純愛」ともはや人類最強の耐久試験じみた展開を繰り返している。そうした展開について、いくつかの理由から前作では「つまらんなあ」という感想にたどり着いてしまったが(詳しくは前の記事を参照)、本書では「一周回っておもしろいかもしれん」と思うようになった。

これまで築き上げてきた〈戯言シリーズ〉の世界観を崩しかねない超常現象の数々にあえて対峙させても哀川潤さんがそこまでおもしろい反応を返さなかったり、そもそもノリきれない語りなど難点はあるが、逆にいえば世界観を台無しにしかねないような挑戦的なことをやっているわけで、その振りきれたナンセンスさは新鮮だ。「どうも変だなあ」と読んでいて思うのだけど、その変さもまたよしというか。

それもまあ「単品の作品として読んだ時の評」であって、2作とも「語りや問答を通して哀川潤のさまざまな側面を描きだす」ことには成功しているし、今回は懐かしの赤神イリアさんや天才たちのつどう鴉の濡れ羽島、2010年のメフィストに載っていた、他者視点から哀川潤を語る「哀川潤の失敗」が2篇入っているので戯言シリーズファン的に価値のある一冊であることは疑いようもない。

今後もシリーズは第3作目「人類最強のときめき」へと続いていくようだが、この特殊な婚活はどこかにたどり着いてみせるんだろうか。「最強」に釣り合う概念とはいったいなんなのだろう。できれば、彼女の死までを描いてほしい──というのは僕の勝手な願望だが、そこまでいかずとも彼女の変化が見てみたいと思う。

戯言シリーズのアニメ化

それにしても戯言シリーズがアニメ化ですってね。

それ自体は別にそこまで驚きではないが、アニメ化嬉しい人もアニメ化してほしくない人もこのニュースに強烈な反応をしていて僕的にはそちらのほうが驚いた。放心状態になっていたり、「これこそが我が青春」とばかりに語りだしたり、やめてくれと嘆いていたり。僕が戯言シリーズを読んだ時はネットの反応をみたりといった習慣がなかったし、今ではうまく想像もできないけどSNSもやってなかったから「どのように受け入れられている作品なのか」をほとんど知らないまま楽しんでいたけれども、そんなに熱狂的に受け入れられていた作品だったのか。

大量のパロディやオマージュで成り立っていながらも、同時に革新的というか、他にない作品だったのはたしかだ。まるで一秒も考えずに射出されているような会話劇と展開に、意味があるんだかないんだか判然としないが語感はいいしかっこいい決め台詞の数々。話の本筋に関係があるんだかないんだかさっぱりわからない、ただキムチを食っているだけの場面が異常におもしろく、いったい何を食ったらそんなに無尽蔵に二つ名や能力名や奇天烈なキャラクタが生み出せるんだというぐらいに針の振りきれた表現──と、凄いところをあげればキリがない。

僕がシリーズを読んだのは受験をせねばなと考えている高校生2〜3年の頃だったが、疲弊した身体と心に「自分の好きなものをありったけ全部載せた」かのような作品が実によく馴染んだ。当時の彼が好きだったものは、当時の若者が好きだったものとシンクロしていたのだろう。作風の背後に「これまで影響されてきた作品」が明確に透けて見えるにもかかわらず、あくまでもすべてが西尾維新作品として統合されているところが今思い返してもすごかったなと思うのである。

その後も会話劇は化物語で炸裂し、能力バトルや脅威の能力名無限生成能力はめだかボックスやりすかシリーズや伝説シリーズで個別に深掘りされ、ミステリ方面は世界シリーズや忘却探偵シリーズにて展開されていくわけであるが──こうして振り返ってみるとそのすべてが未熟だったかもしれないがとにかく全力で盛り込まれていたのが戯言シリーズだったと、少なくともそれぐらいは言えるだろう。

作家・西尾維新の代表作は知名度でいうならば、今では「化物語」およびそのシリーズということになるのだろうが最高傑作は何かと問いかければ、多くの人が〈戯言シリーズ〉を挙げるのではないかと思うのである。『すべてがFになる』もアニメ化されたし、青春が後ろから殴りかかってくるというか、パワーアップして前に立ちはだかる日々である。この勢いで史上最高のミステリ『コズミック』もアニメ化して、世界中の人にテレビ(と今ではパソコンか)を壁に投げつけてほしいものだ。

ちなみに戯言シリーズは電子書籍化がはじまっているけれど、電子版あとがきがついているので買ってもいいかもしれない。電子版『クビキリサイクル』のあとがきは、どのようにしてこの作品が書かれたかの暴露でじーんときてしまった。

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社文庫)