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科学が産んだ脅威の動物たち──『サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで』

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで

サイボーグ化する動物たち-ペットのクローンから昆虫のドローンまで

「サイボーグ化する動物たち」と言われると、ブースターが付いていて時速300キロで走るイヌや肩にブレードが付いていて標的を切り刻むネコなどを思い浮かべてしまう(僕だけかもしれない)。本書の原題は「FRANKENSTEINS'S CAT Cudding Up to Biotech's Brace New Beasts」であり、どちらかといえばバイオテクノロジーによる動物の任意的な遺伝子改変による成果を紹介する側面が強い本だ。

遺伝子改変

biotech関連では現状の成果をほとんど知らなかったので、読んでみて「けっこうなことやってんなあ」と思う事例が多い。たとえば中国ではミュータントマウスの大量生産を行っており、牙を生やしたもの、痛みを感じることができないもの、雄を一貫して拒み続ける雌マウスなど500種類を超え依然として生み出され続けている。

別の実験では遺伝子操作されていない仲間より短期間で学習して長期間記憶を保つスマートマウスを何十系統もつくりだしているし、鑑賞魚業界では発行する遺伝子組み換え魚をつくりだし、市場はそれを受け入れた(よく売れた)。クローン動物/ペットは初期の商売はうまくいかなかったようだが、依然として市場は存在している。

まだ実用化されていない分野に目を向けると、人間への臓器移植を目的とし、ブタの臓器が人間本来の組織として通用するようにブタ特有の糖鎖に関連する遺伝子をノックアウトしたブタを作り上げている。この分野で研究が進めば、ブタを臓器提供元として移植を待ちながら死んでいくたくさんの命を救えるかもしれない。ネバダ大学の研究者たちは最近、ヒト幹細胞をヒツジの胎児に注入する実験を行い、生まれたヒツジの心臓、肝臓、脾臓は半ばヒツジの細胞、半ば人間の細胞でできていたという。

すげえことやるなおいという感じだ。これで簡単にヒツジ人間ができるわけでないけれども、こうした事実を知っていくと人間がこの世界で唯一無二であるという現状の現実感覚は大きく揺さぶられる。今や「ジンクフィンガーヌクレアーゼ」という小さな分子ハサミのようなものを利用して、DNAの鎖を特定の位置で切断できるようになり、新しい遺伝子をゼロから設計して作成する合成生物学も進歩著しく、揺さぶられるとかのんきにいっているうちに現実が塗り変わりつつある。

人は神の領域に踏み出そうとしている?

この手の動物改変に関する事例がニュースになると人は神の領域に踏み出そうとしていると言う人もいるし、そう言いたくなる気持ちはよくわかるがこれは少しおかしいように思う。何しろ神が動物をつくったわけではなく、何らかの理由で発生した生物は単なる自然交配の結果として進化を起こし姿形を変化させてきているだけだ。ようは人間が好き勝手に生物を作り変えようが、それはただの「自然への介入」で、今まで当たり前のやってきたこと、人間がいなくても起こっていたこと(父親がライオンで母親がトラの交配種など)と本質的には何にも変わらない。

そもそも、元々必要な特性を生み出すため意図的な交配を繰り返していたわけだから、それが極端に効率的になっただけだともいえる。ただ「よくわかる」と書いたのは、本質的には変わらなかったとしても、それが動物であること、あまりにも簡単にできることに道徳的/倫理的な忌避感や拒絶感、「効率的になったからこそ発生する問題(昆虫ドローンの監視システムとかね)」が生まれえるからで、今後この技術がどのようにして受け入れられ/否定されていくかもここにかかっているのだろう。

新しい技術を否定するのは簡単だが、かといってこうした技術を受け入れることで助かるヒトも大勢いることを考えると、新技術否定論者は助かるヒトを見殺しにするのかという話にもなるので、「新しい技術を用いないことによるリスク/倫理的問題」もある。この問題については、本書は両論を併記しながら「新技術には良いところもあれば悪いところもあるんだからこれから考えていかないといけないよね」と踏み込まないので物足りないが、簡単な問題ではないからね。

クローンペットから、種の保存の観点からのクローン技術/遺伝子保存技術について。爆弾探知のビートルドローンにレスキュー隊のロボラットなど、この記事では触れていない新技術/成果、それに伴う問題点について広く述べられており、全般的になかなかおもしろいので興味があったらどうぞ。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
クローンに絞ったものでは上記の本もおもしろかった。