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怪物にだって論理は通用します──『アンデッドガール・マーダーファルス』

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 2 (講談社タイガ)

現状2巻まで出ていて、まだまだ続きそうなシリーズ物だけれどもこれがめっぽうおもしろいので途中だが紹介してしまおう。19世紀末のヨーロッパを舞台にし、俳優として人狼、人造人間、吸血鬼といった異形の怪物共に加えシャーロック・ホームズにワトソン、ルパンもフランケンシュタイン博士などなどを取り揃えた「フィクションキャラクタ」てんこもり世界のミステリ×異能バトルといったところだろうか。

モロに『屍者の帝国』といえばそうだし、19世紀キャラクタ限定Fateといえばそんな感じもある(若干違うが)。それにしても、最初本書の設定を知ったときは「吸血鬼や不死者がいて本当にミステリになるのか?」と思ったけれども、これがきちんとミステリになっている。一方「そんなに愉快な面子を集めて推理するだけで終わっちゃうの?」という疑問もあったが、これも見事に解決している。特に2巻はルパンもホームズもカーミラもジャックもあいつもこいつも入り乱れて推理もするし殴り合いもするカオス極まりない事態になっているのに綺麗にまとまっていて心底驚いた。

「推理」と「暴力」を成立させる理屈もスマートである。たとえば、「吸血鬼だろうが人造人間だろうが論理は通用する」とは言われるまでもない大前提であろう。

「なるほど、これがあなたの捜査法というわけですか。怪物を人間の世界に引きずり下ろし、論理を当てはめる」
「別に引きずり下ろしてなんかいませんよ。怪物にだって論理は通用します」

しかし仮に怪物が犯人だったりした場合、「これこれこういう理由でお前が犯人だ!!」と突き止めたら「わははよくわかったな、だが死ね!!」と自慢の腕力なり戦闘力を活かして探偵に殴りかかってくるので、そこではじめて「腕力」が物を言うようになってくる(から探偵サイドにも「知能担当」と「暴力担当」が必要になってくる)──という「嘘喰い」*1的に完璧な理屈で推理×バトルを両立させているのだ。

簡単にあらすじとか世界観とか

怪物たちが跳梁跋扈するとはいえ、産業革命によってヨーロッパ各地に存在する怪物共も徐々に排除されつつある世界。セイレーンやらグリフィンの希少種はほぼ絶滅したが、吸血鬼など一部の種はまだ根強く各地で普通に生活しているようで、物語の発端となるのはそんな時代に生きる吸血鬼の一家族だ。家主であるゴダール卿が帰宅してみると、妻が胸を純銀製の杭によって貫かれ、身体中に聖水を撒かれ殺されているのを発見する(高い再生能力があるから銀製品や聖水でもなければ傷もつかない)。

果たして誰が殺したのか? というところでゴダール卿は探偵募集の広告を出し(所詮人間じゃなく吸血鬼だから捜査もそんなに熱心に行われないのも探偵を呼ぶ真っ当な理由になっている)、そこに応募してくるのが主人公一派である怪物専門の探偵である。軽薄な言動の男・"鳥籠使い"真打津軽(暴力担当)と、"鳥籠の中にいる何か"輪堂鴉夜(探偵・知能担当)と、馳井静句(クールなメイド担当)の三人組だ(実質二人)。

この怪しげな鳥籠使い一派は、アリバイを調査し現場を捜査し、「凄い再生能力がある」「銀での傷は2,3日は最低でも残る」などの吸血鬼の特殊な事情も考慮に加えた上で、見事に犯人を導き出してみせる。とはいえ、こういってしまってはなんだが、第一章「吸血鬼」、それから第二章「人造人間」はどちらも謎解きとしてはシンプルだ。怪物どもが出てくる割には大それた事件というわけではなく、「これからこういう前提を踏まえた上で、物語を展開しまっせ」とでもいうように、顔見せ的にスマートな話にまとまっている──あるいは、まとまってしまっている。

それが2巻にもなると、ルパンから「ダイヤを狙う」と書かれた予告状が『八十日間世界一周』のフォッグの元へと届き、それをホームズと"鳥籠使い"一行の探偵らが防御する、さらにはその世紀の一戦が行われる現場へとカーミラやジャック、ヴィクターにMを加えた「第三勢力」がダイヤを狙って参戦してきて──と圧倒的カオスさに満ち、「ここからが本番だぜ」とばかりに物語のスケールが破壊的に広がっていく。

ルパンとホームズ(+輪堂鴉夜)の知恵比べに加え、発動するホームズのバリツ*2にワトスンのコンビネーションなどなど、「よくこんなに要素を投入して綺麗にまとめあげたな」と思う他ない出来に仕上がっている。1巻も充分におもしろいのだけれども、まだ読んでいないのであればぜひ2巻まで一気に堪能してもらいたいものだ。

第三勢力も非常にケレン味に溢れており、『「ワンマンの組織には限界がある。私には仲間が必要だ。ただの手下じゃない、信頼できる少数精鋭の部下が。絶対に折れず絶対に曲がらない、研ぎ澄まされた刃のような同志が。怪物的な強さを持つ仲間が必要なんだ……たとえば、君のような」』と、リーダーが勢力拡大のため勧誘ムーブをみせ大戦を予感させるあたりは『ドリフターズ』的なワクワク感がある。

まあ、推理が好きな人はバトルの方でガッカリし、1巻のような推理こそが読みたかったのに! というパターンもあるだろうからどちらが気に入るかのお試しとしても2巻まで読むのをオススメする。どちらもイケる人ならば十全に楽しめるだろう。

おわりに

無数の文脈(他作品のキャラクタとか)や先行作品の影響をてんこもりにし、情報量で推しきるようなスタイルは現代的だなと思う。今後どう物語が転がっていくのか、本当にこんな無茶苦茶な状況になって次巻でも真顔で推理が展開できるのか気になって仕方がないけれども、たぶん大丈夫だと思うので楽しみに待ちたいところである。

屍者の帝国 (河出文庫)

屍者の帝国 (河出文庫)

*1:そもそも対等な立場で賭場を用意するためには拮抗するだけの「戦力」がなければ成立しないなどの理屈によって超人どものバトルもある漫画

*2:ホームズが使うとされる架空の日本武術