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物事の仕組みを理解するために──『ホワット・イズ・ディス?:むずかしいことをシンプルに言ってみた』

ホワット・イズ・ディス?:むずかしいことをシンプルに言ってみた

ホワット・イズ・ディス?:むずかしいことをシンプルに言ってみた

すべての人間が一カ所に集まってジャンプしたらどうなるの? などの現実的にはありえない質問に対して、ユーモアたっぷりのイラストと科学的に正確な解説を添え、物理や数学のおもしろさを体験させてくれた『ホワット・イフ』は快作であったが、同じ著者による最新作が、本書『ホワット・イズ・ディス?』である。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
今回は副題に「むずかしいことをシンプルに言ってみた」と入っているように前作とは趣向を大きく変えており、著者の言葉を借りれば『これは、絵とやさしい言葉を使った本だ。ページごとに、大事なものやおもしろいものの仕組みや成り立ちを、英語でいちばんよく使われる1000語だけで説明している』という一冊になる。

物事の仕組みや成り立ちを理解する

存分にイラストと解説を描きこむために本の大きさは大型の図鑑サイズとなり、国際宇宙ステーション、カメラ、アメリカ合衆国憲法、電子レンジなど身近な物から遠い物まで、その仕組みや成り立ちをページをいっぱい使って解説してくれる。

この解説がまた素晴らしく、1ページめくる度にいかに自分が当たり前に使っている物や概念の仕組み/理屈をよくわかっていなかったのかを思い知らせてくれるのだ。たとえばカメラはどのような仕組みで写真を残しているか答えられるだろうか? 「電子レンジ」といえば多くの人がそれが何なのかを知っていると答えるだろうし、簡単に使ってみせるに違いない。しかしその仕組み──どのように温めて、時に爆発してしまう理屈を把握している人はどれだけいるだろう? 

物に名前をつけることは便利だが、あまりに簡略化された名前をつけると、その物自体について疑問を覚えなくなるという弊害がある。たとえば本書では「電子レンジ」は1000語に入っていないので、「物を温める電波箱」と呼称される。多少長い呼び名になったが、これでこの言葉を使う時に少なくとも「電波を使って温めるんだな」ということを理解するに違いない。難しい言葉を(まあ、電子レンジはそう難しくはないが)あえて封印することで見えてくるものもあるのだ。

そもそも難しい言葉を学ぶ必要なんてないと言う人もいる──大事なのは、物事の仕組みや成り立ちを知ることであって、その呼び名を知ることではないというわけだ。私は、必ずしもそうではないと思う。物事についてほんとうに学ぶためには、ほかの人たちから助けてもらわないといけなくて、この人たちの言うことをほんとうに理解するためには、その人たちが使う言葉の意味を知らなければならない。

物を温める電波箱、街を焼き払うマシン

本書では食べ物を温める電波箱(電子レンジ)は、物を温める仕組みについて次のように説明する。『水を作っている小さなつぶを電波がおして、つぶのスピードをあげる。何かのなかにある小さなつぶのスピードが上がると、それは温かくなる。水の中に十分な量の電波を送ると、水は熱くなる』。"小さなつぶ"とは専門的な言い方をすれば分子のことだが、物事の理屈を把握するだけならこれで十分といえる。

ほかにも、太陽のような極端に大きいものから細胞のように極端に小さなもの、果ては国の法律や計量単位のように形のないものまで縦横無尽に仕組みを解説していく本書だが、中でも「核爆弾」について解説した「街を焼き払うマシン」のページは平易で完結極まりないなテキストだからこその恐ろしさが伝わり、強く印象に残る。『いま私たちはそれほど心配しておらず、ほとんどの人が、戦争が起こるとは思っていない。しかし、私たちはまだこのマシンを持っている。』

どのページもそれぞれ表現とイラストの工夫が凝縮されており、ぱらぱらとめくっていくだけでやたらと楽しい。↑で例にあげたもの以外だと、上下移動ルーム(エレベータ)の仕組みは食い入るように読んでしまった。毎日使っていたり目にしているのに(ある意味では細胞や太陽もそうだろう)仕組みを知らないものって、本当に多いんだなあと実感させられる。見過ごしがちな物事の仕組みや成り立ちをあらためて知ることで、世界をより鮮明に理解できるようになるだろう。

おわりに

何度読み返しても新たな発見がある本は家の目立つところにおいておきたくなるものだけれども、本書はそんな特別な一冊だ。大きいので物理書籍を本屋で買うと持って帰るのが大変だったりするが(家に届いた時予想外に大きくて誰かの嫌がらせかと思った)、できれば紙でばばーん! と広げて楽しんでもらいたい。

それがどれだけ単純なものであれ、物事の理屈/成り立ちを理解するのは本当に重要なことだと思う。なぜなら理屈を理解していなければ目の前でどんなことが起こっても理解できず、魔法か天罰がくだったようにしか感じられないだろう。しかし理屈/原理を理解してさえいればなぜそれが起こったのかがわかり(たとえば温めたかった食べ物が爆発したり)対策がとれるようになるからだ。そして、ひとつの理屈はまた別の理屈に通じている。だから、一歩一歩理解していくのが大事なのだ。

子どもでも読めて(翻訳には小学6年生までに習う漢字だけを用いている)100を超える大人まで楽しめる、レンジの広い本なので贈り物にも最適である。いやはや、訳は大変だっただろうなあ。本当にオススメの本です。現在Amazonにゃあ在庫がないのでKindleか本屋で探してください。

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか

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