基本読書

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天才が天才について描いた映画監督漫画──『映画大好きポンポさん』

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傑作である。

非常にシンプルで洗練された作品であり、何よりも"フリーで"公開されている漫画作品なので、(あと僕にあまり漫画を語るスキルがないし)長々と紹介するのはやめておこう。一度でも読み始めたら最後、最初の一コマから最後の一コマまで無駄なく洗練された台詞回しと演出にぐっと掴まれ最後まで読みきらずにはいられないだろう。

表紙の「イカちゃんかな?」みたいなデフォルメされたキャラクタからはシリアスな物語が展開するとはとても思えないが、凄腕映画プロデューサーのポンポさんを筆頭として魅力的な"天才"たち──一瞬で別人に変貌してみせる、演技に関して天性の才能を発揮する天才俳優、映画のこと以外考えられない、それ以外の能力はまったくもって存在しない目が濁っている天才映画監督、本物の才能を見つけて、適切なタイミングで適切なお題を与えることができる天才プロデューサー──そのすべてが集まって、映画の歴史に残る、素晴らしい映画を一本残す、ただそれだけの漫画である。

台詞回しには一つ一つ意味とその後の展開を予兆させる伏線の情報量がこめられ、推測させるべき箇所は台詞まで落とし込まず背景や表情で演技させ、僅か136ページで完結するコマ割りとプロットには一切のムダがない。最初は買い出しなどの雑用しか任せてもらえないまだ見習いのプロデューサ手伝いであるジーン・フィニ、芋臭くバイトしかしていないナタリー・ウッドワード、その両名がポンポさんに見出され、彼らのための脚本を与えられ、いっぱしの映画監督と俳優として成長していく。

その凄まじいテンポの良さから「都合が良すぎる」と思う人もいるかもしれない。が、それは極少数派だろう。なぜならこれは天才による天才たちの物語であり、天才プロデューサーが見出した、映画を作るしか能がない天才監督と、映画に見出された最高の俳優の物語なので"成功するのは必然"としかいえないのだ。映画しか頭のなかに入っていない天才監督(このときはまだ見習いのお手伝いさん)に対して、ポンポさんはこういってのける。『心の中に蠢く社会と切り離された精神世界の広さと深さこそが その人のクリエイターとしての潜在能力の大きさだと私は確信しているの』


『現実から逃げた人間は自分の中に自分だけの世界を作る まさに創造的精神活動!』まあ、僕は現実から逃げない人間がつくった作品はそれはそれで現実から逃げてしまう人間の作品とは違う味があって好きなのだが、これは彼にやる気をださせるための"プロデューサー"ポンポさんの台詞なのでそれでいい。これは要するに、ジーン・フィニの物語であり、彼がつくる映画の物語なのだから。そんでもってもちろん僕は最初の一コマから最後の一コマまで十全に楽しんだのだが、あまりに美しいのはそのラスト1ページであって、ここで完全に評価が爆上がりしてしまった。

まさかそうくるとは、という驚愕と、でもそれしかありえないという深い納得が僅か136ページの中に凝縮されている。これについて書かなければブログをやっている意味がない! というぐらいにドハマリしてしまったのでガッと勢いで書いてしまったが、最初に書いたようにすぐスマホでもパソコンでも仕事中でも学校でも読めると思うので、ほんの1時間ぐらい何かをサボって読んでもらいたい。