基本読書

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ガラクタまみれの町に、革命の時が訪れる──『穢れの町』

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2)

ロンドンの不用なごみの寄せ集めで出来た巨大な屋敷、堆塵館。そこにはごみから財をなした特異な能力と文化を持つアイアンマンガー一族が住んでいる。

そんな怪しい世界観で、物の声が聴こえる少年クロッド・アイアンマンガー、孤児として連れてこられたルーシー・ペナントの二人を中心に、アイアンマンガー家に存在する謎──なぜアイアンマンガー一族はみな浴槽の栓とか、真鍮のドアの把手とか、特に役に立たないものを特別な宝物として身につけ、決して離さないのか? 

ロンドンの負債を肩代わりしているといわれ、ロンドン市内すべてのごみを引き取る権利を与えられているアイアンマンガー家とはいったい何者なのか? なぜゴミの山に住んで、ごみを集めているのか? なぜクロッドには物の声が聴こえるのか?──といった多くの疑問を明らかにしていくことになり、クロッドがアイアンマンガー一族の秘密を知り、館から離れるまでが物語の第一部『堆塵館』の物語であった。
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第二部たる今作『穢れの町』では、舞台を館から、その近くに存在する穢れの町へとうつし、物語の規模は増し、どんどん熱を帯びてゆく。これから第一部を読む読者のために多くは語らないが(語りたいが)、第二部では十シリング金貨へと変えられてしまったクロッド・アイアンマンガーが、街を金貨として人の手から人の手へと渡し渡され、この街に存在する"物"達との対話を進めることで、街の全体像がみえてくる。

ここがどれほどくすんだ地域なのか。仕立て屋と呼ばれる人殺し、ごみから集めてつくられる、贋人間の存在。そうとは気づかれずに、侵略されている穢れた町。正直言って、第一部を読んでいた時にはアイアンマンガー一族の話が中心で、「これはかなり変てこな家族の物語なのだろう」と思っていたが、第二部を読んで印象が一変した。雰囲気/世界観こそダークかつ特殊、それを語る独特な文体はとても王道的とは言い難い──が、第二部ではクロッド・アイアンマンガーは自身の特別な能力"物の声が聴こえる"をさらに発展させ、まるでヒーロー物のように覚醒してみせる!

クロッド・アイアンマンガーは、とりたてて勇敢でもなければ、肉体は弱々しい。通常、とても英雄とは呼ばれまい。しかし行われている悪事を知り、黙っていられるほどの我慢強さもない男であった。町に迫る危機、覚醒した異端のアイアンマンガー。お互いを求めながらも、なかなか再会することの出来ぬ二人の若き恋人。自身の一族との対決。世界観こそ異様なものの、筋立て自体はどこまでも真っ当な英雄譚だ。

 どのくらいなんだろうね。ジェームズ・ヘンリー。病気が音もなく忍び寄ってくるまで、あとどれくらいの時間が残されているんだろう。いま、ぼくはなにをしたらいい? あの館に入っていかなければならない。入っていって、あそこで人々がなにをしているのか確かめなければ。でも、ぼくにおじいさまを止められるのか? ぼくはこれまで、生きていくことは危険とはかかわりのないことだと思っていた。あの金属の重々しい門を通ってあそこまで歩いていけるのだろうか。うまく滑り込めるのか。このクロッドがあの広い場所で、煙が充満するなか、おじいさまとそのほかの身内を探し出して、止めることができるのか。あの人たちはぼくの言葉に耳を傾けてくれるのか。これまで一度もそんなことはなかった。どうすれば耳を傾けてくれるのだろう。ぼくは変わったんだ。ぼくはすっかり変わった。ぼくがあの人たちを説得しなければ。穢れや過ちをすべて正して、悪いことをやめさせなければならない。ぼくはクロッドだ。そしてあの人たちを止めるんだ。

本書の中盤から終盤にかけてはページをめくる手が止まらないどころではない! 無数の病がロンドンへと蔓延し、破壊の奔流が押し寄せ、町はカタストロフへと巻き込まれてゆく。ここまでくるとページをめくる手それ自体が疾走しており「う、う、う、うわああああああ」とただただ圧倒されて最後まで物語を追うのみだ。めちゃくちゃおもしろいので、頼むから読んでくれという気持ちである。ただ、今読むと第三部の刊行予定である本年12月まで随分とヤキモキしながら待つことになるだろう。

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)

堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)