基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

戦争をテクノロジー、物理法則から理解する三冊

戦争、それは人類の最も悲惨な自己破壊である。この世界には無限のリソースはなく、人間は感情的に理屈に沿わぬ意味不明な行動を起こすことがあり、人々は時に計画的に、時に勃発的に、他国に対し戦争行動をしかけることになる。

そうしていったん戦争がはじまると(あるいは、始まる前から)、過去から現在までの軍事指導者というものは、敵よりも有利な状況を作れる何かを探し始める。それは誰も考え出していない戦略、戦術かもしれないが、多くの場合軍事指導者は「新しい兵器」を追い求めているものである。新しい兵器──つまり他の誰も持っていない兵器を持っていれば、戦闘状況を有利に進めることができる。当たり前の理屈である。

時代によって戦争行動では、素手であったり剣であったり銃であったり爆弾であったり核兵器であったりと様々な技術を凝らした道具が用いられてきた。そこで本稿では、"人間が人間をどのように効率的に破壊しようとしてきたのか"という、戦争テクノロジーの発展を理解するために手助けとなる本を三冊紹介しようと思う。

戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか

戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか

戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか

まずご紹介したいのは『戦争の物理学―弓矢から水爆まで兵器はいかに生みだされたか』だ。これは書名からもわかるとおりに物理学と兵器の密接な関係について述べられた一冊である。大砲の命中精度を高めるためには弾道学が必要で、弾道学では物理学の知識が不可欠だ。電磁スペクトルへの理解が進めば軍事分野において放射線がさまざまな形で応用できるようになるし、原子構造が解明されれば超強力な爆弾をつくる後押しになる。物理学の知識の増大と新兵器の開発は表裏一体の関係にある。

本書でおもしろいのは、水爆やロケットなどの現代兵器だけではなく、弓矢やチャリオット、古代のエジプト人やギリシャ人が戦争でバリスタや投石機を使っていた時代から、それがどのような原理を持っていたのかを時系列に沿って解説してくれるところにある。そのおかげで、いったいどのタイミングで戦争と物理学が大きく前進し、死者数がはねあがっていくのか、そのポイントがすぐにわかるようになっている。

たとえば火薬と大砲の登場は戦争の性質を一変させ、100年も続く戦争を引き起こした。物理学者が磁気に関わる発見をすると、航海技術が向上し船員達は広い領域へと乗り出すことが出来るようになった。ニュートンによって文明社会は効率化し、戦争がもたらす破壊も結果的に大きくなった。本書を読むことで、兵器がどのように作動し、またどのように進歩してきたのかという基礎中の基礎を知ることができる。

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)

ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA (ヒストリカル・スタディーズ)

  • 作者: アニー・ジェイコブセン,加藤万里子
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2017/04/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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続けて紹介するのは『ペンタゴンの頭脳 世界を動かす軍事科学機関DARPA』。これは今年読んだノンフィクションの中でもベスト級におもしろかった一冊だ。DARPAとは米国の国防高等研究計画局で、軍事科学に革命を起こし、米国の科学技術力の優位を守ることを目的とする軍事機関である。その活動が表に出ることは多くないが、著者は取材と情報収集を重ねできるかぎりその実態を描き出してみせた。

その予算は年間30億ドル、一箇所に集まっての研究は行わず、局内のプログラムマネージャーが防衛関連請負業者、政府組織に研究を委託し、DARPAはその成果を軍事技術に転用する。DARPAは毎年、一流の科学者ら平均120人のマネージャーを約5年の契約で雇うが、彼らの権限はとてつもなく大きく、外部からの介入をほぼ受けずに研究を開始し、続行も中止も自分の判断で行うことができる。その為、DARPAの研究は突拍子がなかったり、バカげているように見えるものもある。そのせいで、研究は大きな失敗を招くこともあるが、時に物凄い成果を出したりする。

DARPAが凄いのは権限の与え方だけではなく、成果が出るか不鮮明な研究に気前よく金を支払えるところにある。たとえば再生生物学の研究をしている研究者のもとにやってきて、「素晴らしい、それをもっとスケールアップできるかね?」と問いかけ(ようは人間が再生できるかと聞いている)、イエスと答えが返ってくれば資金を提供してみせる。『そこがDARPAの素晴らしいところだ、とガーディナーは思っている。「あの機関は、答えがわからないことに資金を出してくれるんだ。」』

本書の中ではDARPAが研究開発したいくつもの兵器、これから開発され、戦争の状況を一変させかねない兵器、組織としての実態、またいくつものあまりにも馬鹿げた失敗が紹介されていくが、そのどれもが異常に規模がデカくエキサイティングで、最終的にはまるでSFを読んでいるかのような気分になるだろう。

21世紀の戦争テクノロジー: 科学が変える未来の戦争

21世紀の戦争テクノロジー: 科学が変える未来の戦争

21世紀の戦争テクノロジー: 科学が変える未来の戦争

最後に紹介するのは、『21世紀の戦争テクノロジー: 科学が変える未来の戦争』。邦題からは21世紀の戦争テクノロジー解説書なのかな、と思うかもしれないが原題は「CAN SCIENCE END WAR?」。科学は戦争を止めることができるのか? と問いかける一冊である。『戦争の物理学』で述べたように、科学と戦争は密接に結びついている。しかし、それならば科学によって戦争を止めることはできないのだろうか?

もちろん理論的にはできるだろう。たとえば、戦争が起こるのは人間が人間であるからなのだとしたら、それならば人間の性質を変えてしまえばいい。たとえば、人間性から暴力衝動をなくしてしまえば、戦争が起こることもなくなるだろう──と"理論的には"いくらでも想像することが出来る。そんなことは現実的に考えると到底不可能だという点に目をつむれば。どんなに科学で解決方法を考えても、かえって戦争を遂行する手段が増えるという意図せぬ結果があらわれてしまうものなのだ。

先に本書の結論を述べてしまえば、現状科学は戦争をなくすことはできない。しかし、なくすことができるかどうかについては検討することができる。本書は、科学と戦争の関わりを歴史的に概観しながら、科学が戦争の歴史に幕を引くことができなくても、破壊の規模を小さくすることはいかにしたら可能になるだろうか──と非致死性兵器の可能性の追求など、最新技術を例にあげながら検討を加えていく一冊だ。

おわりに

とまあ比較的新しく手に入りやすいであろう(刊行が古くても1年前ぐらい)三冊を紹介してきたが、一つ一つの兵器を深く掘り下げるというよりかは、物理学、軍事研究機関、科学は戦争を止めることができるのか、とそれぞれ違った軸から戦争と科学技術の関わりを総論的に捉えられる本を選んだつもりである。どれもおもしろいので、興味のある本があったらピックアップして読んでみてね。