基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

ピカチュウはなぜピカチュウなのか『オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで』

オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで (岩波科学ライブラリー)

オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで (岩波科学ライブラリー)

バクバク食べるとかサクサク進むとか世の中には豊富なオノマトペが存在している。しかし、たとえばサにもクにもサクにも、どこにも速さをあらわす意味はこめられていないわけだから、速さをあらわす場合はメクメクでもマクマクでもなんでもいいのではないかという気がしないでもない。だが、マクマク進むといわれても「なんかこれじゃない……」感が多くの人にとってはするだろう。それはなぜなのか。

本書『オノマトペの謎――ピカチュウからモフモフまで』は、そうしたオノマトペに関わる謎を解き明かす一冊である。たとえば記事タイトルにも使わしてもらった謎の一つ、「ピカチュウはなぜピカチュウなのか」というのにも明快な理由があって、雷を表す「ピカッ」という擬態語とネズミの鳴き声を模した「チュー」という擬声語の合成音なのだ。他にも類似例としては、ミンミンゼミ、ペンペン草、ガラガラヘビなどもピカチュウと同じくオノマトペ由来の名称となる。もしオノマトペがなかったら、ピカチュウはそのまま電気ネズミとかになっていたかもしれない(可愛くない)。

では、他の例はどうなのか。

とはいえ、それでは説明のつかないオノマトペも多いが、実は日本語のオノマトペでは個々の音に意味があるのだという。たとえば風船がパン(paN)と割れた。糸をピン(piN)と張った、はそれぞれパン=張り切った表面の破裂、ピン=糸の緊張を現していて、どうやらpは「張力のあるもの」を表すことがわかる。

さらに類例をみていくと、視界がパッ(paQ)と広がったとpに加えて子音にaがつくものは「広がったもの」を示していることもわかってくる。加えて、バン、ビン、バッなど濁音をつけることで「強い力、重いもの」の意味が加わってくる。特に語の意味を考えずに使っていても多くの人が同じように感じる共通ルールが存在するのだ。

 以上のような音象徴には、自然な理由がある。pが「張力のあるもの」を表すことは、その発音方法からして納得がいく。pの音を出すためには、まず、唇を合わせて、空気の流れを止めて緊張を保つ。pが「閉鎖音」と呼ばれることがあるのは、そのためだ。その唇を閉鎖した時の緊張感あ、音象徴につながっているわけだ。ただし、実際にpの音を出すためには、緊張を保った唇を一気に開いて、空気を通過させることがひつ王だ。そのために、pは「破裂音」とも呼ばれる。

もちろんこれと同じことは他の音でも同じく適用できる。kの音(カン、キー、ゴー、クンクン)などは「硬質なもの」「空洞」と関係しているという単純なルールがあるが、複数の音が連なってくると、条件はもう少し複雑になる。

たとえば「パクパク」はp音で口の開閉を現しているが、kがあるのに硬質のイメージは伴わない。それは二音節の語では第一子音と第二子音では意味の現れ方が異なってくるからで、そのあたりの詳しい説明は本記事では行わないが、要するにオノマトペは「なんとなく」で決まっているのではなく非常に言語的な事象といえるのだ。

じゃあ、オノマトペって意味は変わらないの?

ちゃんとした音と意味の対応関係があるなら、オノマトペの意味は時代によって変わらないようにも思える。実際、その傾向は強いが、あくまでもふわっとしたルールなので、そのふわっとした範囲で意味がだんだんと変わっていくことはある。たとえば「キンキンに冷えたビール」はもともとは「キンキン声でいった」というように、不快さを含んだ、甲高く響いてくる様子を表して使われることが多かったという。

元の使用例も2000年以降は〈冷〉を示す勢力と拮抗していき、現代では冷えている状況を示すケースの方が多くみられている。その変化の過程としては、「キンキン」の緊張感を含んだ感じに、いつのまにか「冷たい」という印象が加わり、次第に軸足が「冷たい」の方へとうつっていったのではないかと一つの例として著者はいう。もしくはかき氷を食べた時などに頭がきんきんしてくるといった状況からの派生か。

何にせよ、オノマトペの意味は変わっていくもののようだ。

外国のオノマトペ

あと、オノマトペは感覚的なルールに従っているんだから、世界中で似たような音になるんじゃないのという気がするけれども、世界各国のオノマトペの例をみると、子音として共通する部分も多いが、発話としてはだいぶ違うので驚いた。

たとえばワンワンは、韓国語⇛モンモン、インドネシア語⇛グクグク、バスク語⇛サゥンクサゥンクと共通するところがみられるが、歩き方・走り方のオノマトペになるとレベルが上がり、ダーッがエマイ語ではニェニェニェ、動揺して水から走り出る様⇛がイル=ヨロント語ではウールウールウール。ジグザグがバスク語ではシンゴラミンゴラになる。どれも絶対ウソやろとツッコミを入れたくなるぐらい変なオノマトペだけど、他国から日本のオノマトペをみても、同じくそう思われることだろう。

単純に世界のオノマトペをみていくだけでも楽しいが、こうした事例を集めていくと「オノマトペの多い言語少ない言語」、「言語ごとによるオノマトペの守備範囲」などもわかってくる。たとえば英語ではオノマトペって凄く少ないんだよね。

おわりに

本書は他にも、章ごとに執筆者を変えながら赤ちゃん言葉とオノマトペの関係、オノマトペはことばの発達に役立つのかなどいろいろな視点からオノマトペの謎に迫ってみせる。最後の章によると、日本語で日々新しい造語が生まれているように、オノマトペにも新しい物が出てきているようだし、本書を読んでそのルール、特性を理解すれば、あなたも本日以後ずっと使われるオノマトペの創始者になれるかもしれない。

たとえば書名にも入っている「モフモフ」ってずっと前からありそうだけど、2000年以降に表れたもので、最初期の使用例として武井宏之さんの『シャーマンキング』14巻(2001年)、また高橋弥七郎さんの『灼眼のシャナ』の5巻(2003)でシャナがメロンパンを「カリカリな部分を食べて、次にモフモフな部分を食べる」と語る有名なシーンも挙げられている。モフモフの創設者になれたらカッコイイよなあと思う。