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これもまた一つのサイエンス・フィクション──『驚異の未来生物: 人類が消えた1000万年後の世界』

驚異の未来生物: 人類が消えた1000万年後の世界

驚異の未来生物: 人類が消えた1000万年後の世界

果たして人類が消えた1000万年後の世界はどうなっているだろうか。海外のドキュメンタリィ番組には人類が消えた後の世界を空想して紹介する物も多くて、僕も見れるときには(配信サイトで配信してたり)見るのだけど、本書はその生物版である。

その結果、「空想科学(SF)」というよりむしろ「科学空想」といえる、進化と美しさを兼ねそなえたひとつの予測が生まれました。私たちの汗と観察と想像の結晶であるこの未来の旅行記には、「いつか、あるところ」にありそうな世界が描かれています。

未来の生物の姿がカラーでしっかりと描かれており、ぱらぱらとめくるだけで図鑑的に楽しめるが、テキストまで読むと"なぜこうした生物がいるのか"という科学的な理路も説明されていて、思わず「本当に1000万年後にはこんな世界が広がっているのかもしれない」と思わせられてしまう。非常に読み応えのある一冊だ。構成としては、最初の三章でそれぞれ海、マングローブ、新大陸の未来生物について述べられ、最後の第四章で「どのようにして予測/想像絵を構築したのか」が明かされていく。

ヤベーコウモリ

たとえば二章「マングローブの林」ではギガプテルス・トロポスフェルスと名付けられた、翼を広げた状態で15mものサイズがあるコウモリが紹介される。このコウモリ、なんと一番高いところで7000メートルもの高度を飛べ、地面に降りることなく飛び続けて生活し、生息数は少ないながらも世界中に蔓延するとみられている。

そんなヤベーコウモリが生まれるわけないじゃんと思うかもしれないが、著者らの予測では(哺乳類が大量絶滅すると)地上では鳥類が陸地を支配するようになり、その鳥類がいなくなった場所を、現在1200種以上いるコウモリが占めると考えているのだ。その際に、コウモリはそれまで鳥類のものだった生態的地位を幅広く獲得した。

高度7000メートルまで到達できるその生態的な機能や、どのようにして交尾をして産卵するのかもきちんと考えられており、予測が正確かどうかというよりかはSF的におもしろい(科学空想といったほうがいいのかもしれないが)。

鳥類が支配する世界

著者の予測の根本にあるのは、先にも書いた哺乳類後の陸地は鳥類が支配する世界であるというもので、陸地では多種多様な鳥たちが紹介されていく。ある意味、恐竜が地球で支配的な位置を占めていた時代への逆戻りに近いのかもしれない。その予測の筆頭ともいえるのが、「ティラノルニス・レックス」と名付けられた体高3メートルの超巨大オウムである。脳が非常に発達しており、攻撃力も高いヤバイオウムだ。

鳥類が支配しているのはともかくとして、なぜ数ある鳥の中でオウムなのか? と思うかもしれないが、そのへんはわりとざっくりしていて『ペットとして愛されている鳥という強い固定観念を打ち破りたかったからです。』というぐらいのもの。でも恐竜ともまた違うヴィジュアル・イメージは力強く、未来生物っぽさがあって良い。

個人的にヴィジュアルが好きなのが、スコロペンドラ・ヴォランというオオムカデで、なんとこいつは空をとぶことができる。最初その姿をみたとき「翼がないから飛べるわけないじゃん」と思ったのだが、中央部の幅が広く翼のようになっているので飛べるらしい。ヴィジュアルは青色をしていて凄くカッコイイんだけど、こんなもんが実際に飛んできたら(大きさは30センチ)気絶してしまいそうだ。

どうやって未来生物を作り上げているのか?

先程のオウムの例のように、ざっくり決まっているところもあるのだが、地球の気候予測、プレートテクトニクスの予測は前提として行われている。その上で、有機体においてはコピー・アンド・ペースト(たとえばクジラの仲間が持っている特性を、両生類の動物にコピペしてみるとか)によって創造し、極限まで適応させ(ペンギンに完全な水中生活をさせ、コウモリを延々と空中に飛ばす)、現在の生物を異なる環境に置く(鳥をモグラみたいに地中に住ませる)といった手法がとられている。

おわりに

手法を明かされると「けっこう適当に決めとるやんけ」とツッコミを入れたくなるが、読んでいる間は「すげーそれっぽい!」と楽しんでいるので気にならない。ヴィジュアルの説得度が高いのだろう。人間がいなくなった世界を想像したSFとしても(SFのネタ帳としても)楽しめるし、絵が多いので図鑑的な面白さもある一冊だ。