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生きていくうえで、あると嬉しい基礎知識──『こわいもの知らずの病理学講義』

こわいもの知らずの病理学講義

こわいもの知らずの病理学講義

仲野徹先生といえば大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授というスゲー肩書を持っていながら同時にHONZレビュアーであり、真面目な学術系の本からネタ本まで幅広く取り扱う上にやたらと文章がおもしろいという凄い人である。

飲み会の席での話がまた笑い続けるほどにおもしろく(飲み会の席でなくともだが、とりわけ飲み会の席で)、その上これが一番凄いような気がするが、新ネタばかりで「それ、前にも聞いたなあ」という話が全然ない。と、幸い僕が数年前からHONZで文章を書きはじめたことによってお知り合いになることができていたので、著者の人となりの話からはじめてみたが、本書はそんな著者による病理学講義である。

病理学とはそもそも何なのかと言えば、『これは病の理(ことわり)、言い換えると、病気はどうしてできてくるのかについての学問』というあたりになる。で、本書は「講義」とついているように、細胞の損傷ってどういうこと、そもそも細胞ってなに、貧血って実際問題どういう時になるの、血栓症、梗塞、心原性ショック、がんって何なの?みたいな「病気の基本的なところ」をじっくり教えてくれる一冊だ。

 医学部の教授という職業がら、近所のおっちゃんやおばちゃんから、病気について尋ねられることがよくありますが、「えっそこまで何もわかってないのか」と思うことがしょっちゅうです。それどころか、新聞や週刊誌で病気の記事を読む時でさえ、明らかに書いた人がきちんと病気を理解しておらず、何を書いてるんだかと思うことがけっこうあります。
 ごく普通の人にも、ある程度は正しい病気の知識を身につけてほしいなぁ、誰かそんな本を書いてくれんかなぁ、と長い間思っていました。(……)そうだ、自分で書いてみよう、と。そうして書きはじめたのがこの本です。

意外とこれまで生きてきて、「貧血って具体的にどういう状態なのかよく知らなかったな……」とか知っているつもりだけど実際はよく知らなかったことがいくつも本書で解き明かされている。で、我々は基本的には病にかかるし、最終的にはがんとかで死ぬわけなので、そうした基礎知識をどこかでバーっと知っておいたほうがいいに決まっているのである。そういう時に本書を読んでいる、家に置いてあると心強い。

講義自体がそんな風におもしろいわけだが、それとは別に余談、雑談もおもしろい(本当の講義自体も雑談の方が記憶に残っているものだ)。

 学生には、なんでも遠慮せずに質問するように言ってあります。が、なかなかしてくれないので、講義の最後に質問表を配って、次の講義で紹介するようにしています。質問表といっても完全自由記述なので、なかなかおもしろい。たとえば、「昨日、彼氏と別れました、どうしたらいいですか」とか、「医学部女子の一部は男子をバカにしているような気がします」とか。
 なんでも聞けと言っている割には、あまりのアホ質問には、バカッ!と言ってしまうことがあります。「この前、水だけで生きているというロシアの老婆が出てましたが、どうして可能なんでしょう」とか聞かれると、失神しそうになります。医学部の3年生にもなって、こういうことが可能であると思う時点でアウトでしょう。

水だけで生きているロシアの老婆スゴイ!(たぶん妖精か何かなのでは) 

ブックガイド的にも楽しめる

雑談といえば、当然ながらやたらといろんな本を読んでいる先生なので、余談本道あわせ大量の本の話が本書の中にも投入されている。たとえば医学とAIの関連の話の際には『IBM 奇跡の“ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる』が。がんの話では当然のように『がん‐4000年の歴史‐』が。人体実験の話の際には『世にも奇妙な人体実験の歴史』が紹介され、死を迎え入れる際にはガワンデの『死すべき定め』が挙げられていたりと、実はブックガイド的にも楽しめる一冊だ。

おわりに

ずいぶんベタ褒めしてしまったが、そのまんま思ったことを書いただけなので、疑う向きがあれば買って確かめていただきたいところだ。とはいえ、やたら売れていてAmazonでは品が切れてしまっているんだけど。副読記事としては下記を参照。
huyukiitoichi.hatenadiary.jp
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