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諸国の教育現場をまわり、良いところ悪いところを比較する──『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?:5つの教育大国に学ぶ成功の秘密』

日本の15歳はなぜ学力が高いのか?:5つの教育大国に学ぶ成功の秘密

日本の15歳はなぜ学力が高いのか?:5つの教育大国に学ぶ成功の秘密

本書は、『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?:5つの教育大国に学ぶ成功の秘密』と、こんな書名なので日本の教育について語られた本なのかと思いきや、原題は『CLEVERLANDS The Secrets Behind the Success of the Worls's Education Superpowers』で、日本のみならず世界の教育を対象にした一冊になる。

国際学力テストPISAで上位に入る5つの国家の教育現場へと赴いて、それぞれの国の教育における良いところと悪いところを比較してみようとした記録、いわば教育というテーマを持った旅行記である。研究というほど厳密な内容ではないが、教育の場に見に行くだけではなく仕事を手伝うことで深くコミットしており、その視点が(日本にもきていて、外からみるとこう見えるのかと新鮮に感じる)またおもしろい。

読解力、数学知識、科学知識を調査するPISAは1997年にはじまって以後、3年毎に調査結果を出している。おおむね15歳の生徒が対象に選ばれ、日本はこの調査の中で上下移動はあるものの、数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシーなどなど10位以内の常連だ。本書で他に取り上げられているのは上海、シンガポール、フィンランド、カナダになるが、みな10位以内に入る、成績上は優秀な国家である。

とはいえその上位の国みなみなが同じやり方をしているわけではない。共通している部分もあるが、各々の国の固有の歴史、文化からくる特殊な形態もあり、良いところもあれば悪いところもあるのが実情である──というのは日本で暮らし、教育を受けた人々からすれば先刻承知のことかとも思うが、そうなのである。

たとえばフィンランド

さて、それではそれぞれの国がどのようなどのような教育システムを持っているのか軽く紹介してみよう。たとえば、成績のばらつき、家庭環境の影響でともに際立って平等な教育システムを有するフィンランドでは、最初に学校に入ったときに、読み書きがうまく覚えられない子たちに対してはクラスを分けるのではなくクラス担任による追加指導が入る。また、必要があれば特別教師にサポートを頼むことも出来る。

場合によっては、勉強面だけではなく心理面などでもサポートが可能なように、学校には心理カウンセラー、ソーシャルワーカー、スタディ・カウンセラーが揃っている。また、システム上の特徴としては、小学校と中学校が統合されており、7歳で入学した後は9年間学校に通い、15〜16歳になった時点で、大学入学を目指すための学校に進むか、職業専門学校に進むかを決断することになる。フィンランドの極めて高い公平性には、こうした統合された公平な学習期間が関係しているようだ。

理想的にみえるが、課題がないわけでもない。上級クラスにあたるものはほとんど存在しないので、優秀な子が伸びるのを妨げているのではないかという批判もある。最近は、移民の急増によって全体的な成績は低下している。多文化を前提とした教育の在り方が必要とされているが、まだ十分にその対応が行われているわけではない。

たとえば日本

日本の教育については皆さんよくご存知だと思うが、イギリス人の目を通すとまた違った観点がみえてくる。たとえば規則に従い、文句はいうなと従順な人間を構築する学校教育。著者は日本の学校に暖房やエアコンの設備がないことを知って、日本では禅に由来する〈我慢〉が重要視され、『耐え難いことに忍耐と威厳を持って耐える』特性を培うためだと理解してみせる(ほんとにそうなのかわからんが)。

いい面としては、誰もが高校に行くと思われており、そのためのきちんとした制度が整っている。教師は評価を基準にして学校間で異動させることによって、どこかの学校に優秀な教師が集中することがなくなる(いいかどうかは兎も角)。フィンランドと同じく、学校内で能力別クラスに分けることはなく、日本には、万人に等しい教育を受けさせるという非常に強い信念がある(それは確かに実感するところではある)。

日本の教育カリキュラムは固定されておりそれがしっかりと作り込まれている(○年生の段階ではここまでしか教えてはいけないという制限なども含めて)おかげで教師陣は生徒をフォローする時間を持てる(いや、バリバリ残業してると思いますけどね……)とか、いやいや、固定カリキュラムの功罪もいろいろあって──と細かい話をし始めるとキリがないが「まあ、こう見えるんだな」というのはおもしろい。

それ以外の国をざっくりと

シンガポールは非常にPISAの成績が良いがシステムの実態としてはキツイものがある。子どもたちは人生の早い段階で能力別に入れる学校のランクが振り分けられ、その後どのようなカリキュラムが受けられるのか、大学にいけるかいないかまで含めて事実上大きく制限されてしまう。中国ではみなが同じ進行で勉強をするが、高考と呼ばれる大学統一入試でその後の人生の大半が決まるため、中国の子どもたちはそこに向けて猛勉強しなければならないという大きなプレッシャーにさらされている。

それぞれ良いところもあるわけだが、著者が子どもを通わせるとしたらここだというのはカナダのようだ。認知的、社会的、道徳的スキルや特性の教え方のバランスがよく、子どもたちはのびのびと勉強し、能力の劣る子どもにも支援の手が適切に差し伸べられている。ま、シンガポールも中国も日本もそれぞれ極端な面があるからね。

おわりに

決められたカリキュラムをこなし、試験で良い成績をとる。そうした与えられた問題を解きこなしていく能力と、自分自身で問題を考え出し、手持ちの物で解決していく能力のことを考えると15歳までの学力のみを問題にしても仕方がないところがあるが、それはそれとして15歳までの教育システムの比較として興味深い一冊である。

本書では最後に総まとめとして、「高い成果と公平性を実現するための五つの原則」なども挙げられているが、日本での例をあげるまでもなく、あくまでもイギリス人が短期間滞在して見て、考えたものなので、厳密な内容の本ではないのには注意。