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勝てないゲームなんてほとんどない──『完全無欠の賭け: 科学がギャンブルを征服する』

完全無欠の賭け: 科学がギャンブルを征服する

完全無欠の賭け: 科学がギャンブルを征服する

もし何らかの必勝法が存在し、競馬を当て当たりくじだけを買い続けルーレットやポーカーで勝ち続けることができるのならば、いくらだって金を儲けられるぜガハハ──と多くの人が一度は考えたことがあるのではないだろうか。少なくとも僕はある。とはいえ所詮そんなものは夢物語だ、ギャンブルに必勝法なんてものがあるのだとしたら、そもそもギャンブルそのものがこの世から消えてしまうだろう。

だが、実際にこの世のほとんどのギャンブル──ルーレットだろうが、競馬だろうが、宝くじだろうが、ポーカーだろうが──には、必勝とまではいかないものの確実に利益を上げる方法が存在し、科学によって征服されつつある。本書は、主に1.ルーレット、2.宝くじ、3.競馬、4.スポーツペッティング、5.ポーカーの5つのギャンブルに対して、統計モデリングからシュミレーション科学、ゲーム理論に機械学習/深層学習など無数の手法を用いた、科学的攻略法の歴史と現在を紹介する一冊だ。

ギャンブル+必勝法を編み出した人たちなど、どうせ楽して無限の富を築き上げて左うちわでガハハと笑っている成金のバカなんでしょというイメージを勝手に持っていたが、実際にそこにあるのはたゆまぬ計算と情報収集に独創性。また、いったん手法を作り上げたその後も激しい研鑽の数々であって、まったくといっていいほど楽な道ではない。だが、だからこそギャンブルの征服には意味がある。それはある意味"運"というものを予測可能なものにする、終わりなき未来予測の道なのだから。

ルーレットをどう予測する?

実際に本書で紹介されていくギャンブル攻略の手法について、いくつか紹介してみよう。まずはルーレットだが、これはぱっと見た感じだと「無理なんじゃない?」という気分が湧いてくる。玊がいったん動き出せばあとは空気抵抗や反射速度などの物理的な計算によって計算することはできそうだが、ルーレットにはスピンの結果を不規則にさせるデフレクターが存在するため、これにぶつかると予測不能になる。

とはいえ、どのタイミングでデフレクターにあたるのか、どの場所のデフレクターにあたるのかまでわかっていれば"どこに落ちるのか"は完全に無策な状態よりかははるかにマシな状態で予測できる。空気抵抗の大きさ、ボールがバックトラックを離れた時の速度、ホイールが減速する割合などの数値を取得し、当日の天気(霧が押し寄せてきた場合には、ボールは予測よりも半周早くバックトラックを離れる)や地球やそれ以外の惑星の引力まで計算に入れた上でなお常勝とはいえない。過去にこの戦法で金儲けをしようとした人間もいるが、一人にスピンを記録させ一人が賭けたが、しばしば信号が途切れやりとりが途絶し、どうしても大儲けはできなかったという。

ところがそれも昔の話で、今は機材の進歩もあってより楽にルーレットは予測可能だという。必勝法を知っている人間はそれを基本的に公開しないから、あまり表に出てくることもない。ただ、店側もやられっぱなしではなく、獲得賞金が一定数を超えると各ルーレットテーブルの位置を入れ替えるなどして対抗策をとる上に、基本的にルーレット攻略用コンピュータの使用は各国で禁止されており、バレた時のリスクが大きい。ギャンブルの必勝法を掴んでも決して楽に金が儲かるわけではなさそうだ。

宝くじ、競馬

宝くじで儲ける方法なんかあるわきゃあねえだろと思っていたが、実態としては"儲けられる時もある"。たとえば特定の数字の予測をするくじで、該当者がいなければ次回に賞金金額が持ち越されるケースでは、一定額を超えると買い占めた場合必ず利益が出る状況が発生する。また、当たりが入っているスクラッチカードなどは、各店舗に送る際に綿密に当たりを配分するため(一箇所に当たりが集中しないように)"制御されたランダム性"とでもいうべき規則性が生まれ、予測の余地ができる。

実際、宝くじで金儲けをたくらむシンジケートもいるが、これもまたけっこう大変な作業だ。何しろ何百万枚もくじを買わないといけないから湿度の高い日には発券機がつまるなどのリスクがあるし、大規模な停電などになれば計画そのものがおじゃんになりかねない。その上何百万枚ものはずれチケットを、税務調査官にみせるために箱に保存していかなければならない(当たったチケットを探すのも無茶苦茶大変だ)。リターンは大きいが、なんだか面倒だなあという感想が最初に湧いてきてしまう。

競馬の場合は「馬の能力とオッズを加味して予測もできるのかな?」という気がしないでもないが、実際こちらは香港のみに絞っても、レースを予測するシンジケートが数グループしのぎを削っているらしい。手法としては、幾つもの判定要因を用いて馬の実力を分析し、公表されているオッズを比較して過小評価されている馬を探し、一般ギャンブラーの読みを統合した上で投資をする。各馬を取り巻く不確定性については乱数を用いてシュミレーションを虱潰しに行うモンテカルロ法と一段階の記憶に依存するマルコフ性を結びつけた、マルコフ連鎖モンテカルロ法を利用して予測する。

こちらもその金銭的な旨さに多くの人々が気づきはじめ、香港での競争は激化し、同様の手法がアメリカなど他の地域にも広がりつつあるという。競馬場も商売上がったありだろう──と思いきやむしろ投資額が増えて歓迎するケースもあるんだとか。

ロボットギャンブラー

結局のところ、楽をして金を稼げる手法を見つけても、不可避的に漏れてしまって競争相手が生まれ、大変な作業になっていく。その競争速度がある意味ではもっとも激しいのがロボットギャンブラーがはびこる分野で、ギャンブルの世界では他のものからかけ離れたオッズを探したり、他のギャンブラーのミスにつけこんだりしようとしているプログラムが大量に存在する。人間がやると速度的にも物量的にも限界があるが、プログラムならそのどちらも(人間と比べれば)遥かに早くこなせる。

ただ、それも競争が激化しているので、わけのわからんレベルの投資を強いられることになる。『多くの企業は証券取引所のサーバーのすぐそばに自社のコンピューターを配置しているほどだ。市場が急な反応を見せているときには、通信用回線がわずかに長いだけでも、売買に致命的な遅れが出かねない。』また、賢いわけでもない、速さのみを追求したアルゴリズム群なので、時に予想外の結末を生み出すこともある(誤情報のニュースを真に受けてボットが金融市場を歴史的な大幅下落させたり)。

おわりに

『本書で見てきたように、勝てないゲームなどほとんどない。だが、ラッキーナンバーや「絶対確実な」システムで儲かることもほとんどない。』というように、本書は読めば読むほど苦闘の歴史であり──それ以上に、知的好奇心に満ち溢れ果敢に"運"に挑もうとした人々(とプログラム)の物語である。ギャンブルに興味がなくとも楽しめる良書であり、カオス理論からマルコフ連鎖、機械学習/深層学習まで、さまざまな登攀ルートから運を理解したいと願う人には、おすすめしたい一冊だ。