基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

この10年で最高のロシアSFと言われる傑作終末SF──『サハリン島』

サハリン島作者:エドゥアルド・ヴェルキン発売日: 2020/12/22メディア: 単行本このエドゥアルド・ヴェルキン『サハリン島』は、ロシアのメディアで、この10年で最高のロシアSFと評されているSF長篇である。「この10年で最高」というのは、気軽に使うにはリス…

「最初の患者」たちが果たした役割を正当に評価する──『0番目の患者 逆説の医学史』

0番目の患者 逆説の医学史作者:リュック ペリノ発売日: 2020/12/15メディア: 単行本(ソフトカバー)この『0番目の患者』は、医学においてスポットライトがあたり、病気の名前を冠されることも多い、それを発見したり治した医者の方”ではなく”、その症例をは…

数学を通してミステリの自由に触れる、華文青春本格ミステリの傑作──『文学少女対数学少女』

文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)作者:陸 秋槎発売日: 2020/12/03メディア: Kindle版この『文学少女対数学少女』は前漢時代の中国を舞台にした本格百合ミステリ『元年春之祭』や学園百合ミステリ『雪が白いとき、かつそのときに限り』の陸秋槎に…

サイバーパンクのすべてが内包されているかのような傑作──『サイバーパンク2077』

【PS4】サイバーパンク2077発売日: 2020/12/10メディア: Video Game『サイバーパンク2077』が発売された。もう何年待ったことか。幾度もの延期を繰り返し、ようやくマスターアップしたかと思いきやまさかのそこから再度の延期を繰り返し、と出る前から話題沸…

言語や音楽は、自然界を模倣している──『〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源』

〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源 (ハヤカワ文庫NF)作者:マーク チャンギージー発売日: 2020/12/03メディア: Kindle版この『脳と文明の暗号』はマーク・チャンギージー『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ』の続編というか、姉妹篇であ…

2020年に刊行され、おもしろかったノンフィクションを振り返る

2020年ももうすぐ終わるので、読んでおもしろかったノンフィクションを振り返っていこうかと。今年はまるっと本の雑誌でノンフィクションの新刊ガイドを担当しており、例年よりもたくさん読んだような、あまり変わらないような。とはいえ、おもしろいノンフ…

韓国の注目作家が紡ぐ、科学的でエモーショナルな絶品SF短篇集──『わたしたちが光の速さで進めないなら』

わたしたちが光の速さで進めないなら作者:キム・チョヨプ発売日: 2020/12/03メディア: 単行本(ソフトカバー)2020年は10年の区切りということもあって素晴らしいSF短篇アンソロジーが多数刊行され、SF短篇集も豊作だったのだけどここにきてまた凄いSF短篇集…

今年ベスト級ノンフィクション『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』やアメリカの民間刑務所の実態を描き出す『アメリカン・プリズン』を紹介!(本の雑誌2020年7月号掲載)

まえがき 本の雑誌2020年7月号掲載の原稿を転載します。記事名にも入れているけど、『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』は大作ひしめく今年のノンフィクションの中でも上位に食い込む一冊だった。人生というのはリスクに満ち溢れていて、我々にできるのはで…

データからみたジェンダー・ギャップ、無償労働に医療に軍隊にトイレまで──『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』

存在しない女たち: 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く作者:キャロライン・クリアド=ペレス発売日: 2020/11/27メディア: 単行本この『存在しない女たち』は、英国のジャーナリストでフェミニスト活動家として知られるキャロライン・クリアド=…

AIエンジニアによる犯罪を本格的な描写と共に描き出す、第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作──『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル (ハヤカワ文庫JA)作者:竹田 人造発売日: 2020/11/19メディア: Kindle版この『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』は、早川書房による第8回SFコンテストで優秀賞を受賞した作品だ。SFコンテストはここ3…

集団戦バトル漫画の傑作──『鬼滅の刃』

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)作者:吾峠呼世晴発売日: 2016/06/17メディア: Kindle版『鬼滅の刃』が全23巻で完結した。僕はもともと熱心な鬼滅ファンというわけでもなんでもなく、映画が大ヒットした後あたりからそんなにヒットしてるならさすがに…

「折りたたみ北京」の郝景芳による、中国から見た1984年──『1984年に生まれて』

1984年に生まれて作者:郝景芳発売日: 2020/11/24メディア: Kindle版この『1984年に生まれて』は、郝景芳によって書かれた、中国の1984年前後から00年代頃までの情景が描かれていく長篇小説である。郝景芳はヒューゴー賞を受賞した「折りたたみ北京」をは…

金融から感染症、格差まで、すべては人の繋がり・ネットワークが関係している──『ヒューマン・ネットワーク 人づきあいの経済学』

ヒューマン・ネットワーク 人づきあいの経済学作者:マシュー O ジャクソン発売日: 2020/11/19メディア: Kindle版2020年はひときわネットワークが意識される年だった。インターネットのことではなくて、人と人とのネットワークの話だ。人付き合いが多く、よ…

地下を通して、数千、数万年後の祖先に我々は何を遺せるのかを考える一冊──『アンダーランド──記憶、隠喩、禁忌の地下空間』

アンダーランド 記憶、隠喩、禁忌の地下空間作者:ロバート マクファーレン発売日: 2020/11/19メディア: Kindle版この『アンダーランド』は、大自然を相手にした旅行記に定評のあるロバート・マクファーレンによる、地底をめぐる紀行文学である。マクファーレ…

二〇一〇年代最注目のSF作家による、未来の海上都市を舞台にした〈分断〉と〈結合〉の物語──『黒魚都市』

黒魚【クロウオ】都市 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:ミラー,サム・J.発売日: 2020/11/19メディア: 単行本この『黒魚都市』は、2010年代にその頭角を現してきた、新時代のアメリカSF作家であるサム・J・ミラーによる二作目の長篇小説である。チャイナ・ミ…

ゼロ年代の海外SFの様相がわかる、危なげなく傑作揃いのアンソロジー──『2000年代海外SF傑作選』

2000年代海外SF傑作選 (ハヤカワ文庫SF)作者:エレン クレイジャズ,ハンヌ ライアニエミ,ダリル グレゴリイ,劉 慈欣,コリイ ドクトロウ,チャールズ ストロス,N・K ジェミシン,グレッグ イーガン,アレステア レナルズ発売日: 2020/11/19メディア: 文庫この『20…

政府に頼らず、社会から隔絶したモルモン教原理主義者の世界観から、いかにして抜け出したのか──『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』

エデュケーション 大学は私の人生を変えた作者:タラ ウェストーバー発売日: 2020/11/17メディア: 単行本(ソフトカバー)この『エデュケーション』(原題:Educated A Memoir)は、モルモン教原理主義者で、政府や病院といった公的な機関に一切頼らない父と母に…

細胞生物学の現在と未来を描き出す『人工培養された脳は「誰」なのか』からディズニーを復活させたの元CEOによる『ディズニーCEOが実践する10の原則』などを紹介(本の雑誌2020年6月号掲載)

まえがき 本の雑誌 2020年6月号掲載の新刊ノンフィクションガイドをここに転載します。連載六回目。なかなか書き慣れてきている感じがしますね。トップのフィリップ・ボール『人工培養された脳は「誰」なのか 超先端バイオ技術が変える新生命』はブログでも…

壊れた民主主義を立て直すことはできるのか──『民主主義の壊れ方:クーデタ・大惨事・テクノロジー』

民主主義の壊れ方:クーデタ・大惨事・テクノロジー作者:デイヴィッド・ランシマン発売日: 2020/10/27メディア: 単行本(ソフトカバー)民主主義が現状まったく無問題に世界中で運用されている、と思う人はそうそういないだろう。民主主義は壊れつつある。あ…

空間認知の心理学・神経科学的基盤から、漫画の中の空間論まで──『Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる』

Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる作者:バーバラ・トヴェルスキー森北出版Amazon意識、思考といったものは、我々の頭の中だけで作られるものではなく、空間と身体動作と意識の相互作用・統合によって形作られていくものである。たとえば、極端な…

「色覚異常」とは何なのか──『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』

「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本)作者:裕人, 川端発売日: 2020/10/24メディア: 単行本(ソフトカバー)この『「色のふしぎ」と不思議な社会』は、小説家やノンフィクション作家として活躍する川端裕人さんによる「色」につい…

意図的なSNS上の誘導にどうやって対抗すればいいのか──『操作される現実―VR・合成音声・ディープフェイクが生む虚構のプロパガンダ』

操作される現実―VR・合成音声・ディープフェイクが生む虚構のプロパガンダ作者:サミュエル・ウーリー発売日: 2020/11/04メディア: 単行本この1年の間に、無数の「SNSがいかに操作されているのか」についてのノンフィクションが刊行されてきた。三例あげると…

日々イノベーションが起こっているのに、多くの人が将来に悲観的なのはなぜなのか──『テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス』

テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス作者:カール・B・フレイ発売日: 2020/09/18メディア: Kindle版昨今世を賑わしているのは、AIが人間の労働を代替してしまうがゆえに、どんどん人は解雇され仕事につけなくなってしまう、という不安や恐怖…

連日連夜爆破テロが起きるバグダードの日常を、名もなきフランケンシュタインの怪物が駆ける、中東✕SF──『バグダードのフランケンシュタイン』

SF

バグダードのフランケンシュタイン作者:アフマド・サアダーウィー,柳谷 あゆみ発売日: 2020/10/26メディア: 単行本この『バグダードのフランケンシュタイン』は、アラビア語からの翻訳、しかもシェリーの『フランケンシュタイン』の流れを汲む物語である。SF…

生命から都市まで、すべてを定量的に予測する枠組みを導き出す一冊──『スケール 生命、都市、経済をめぐる普遍的法則』

スケール 生命、都市、経済をめぐる普遍的法則 上作者:ジョフリー ウェスト発売日: 2020/10/15メディア: Kindle版スケール 生命、都市、経済をめぐる普遍的法則 下作者:ジョフリー ウェスト発売日: 2020/10/15メディア: Kindle版この『スケール』は、副題に…

究極の雰囲気ゲー、傑作サイバーパンクゲーム──『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』

store.steampowered.com IGN Japanから原稿依頼があり今度サイバーパンクについての大きめのコラムを書く予定があるので、昔やった『VA-11 Hall-A』を思い出すためにプレイし直していたんだけど、これがおもしろいよなあ。尋常ではないぐらいに「ノベルゲー…

キャメロンがスピルバーグ、ノーラン、リドリー・スコットらに聞く!──『SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座』

SF

SF映画術 ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座作者:ジェームズ・キャメロン発売日: 2020/09/30メディア: Kindle版この『SF映画術』は、『ターミネーター』や『アバター』など数々のSF映画をとってきたジェームズ・キャ…

自由に自分の幸福度を決められる時、医者はそこに上限を設けるべきだろうか?──『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる (文春e-book)作者:ローン・フランク,仲野 徹・解説発売日: 2020/10/14メディア: Kindle版闇の脳科学ってどゆこと? 闇の脳科学があるってことは光の脳科学もあるのか? とか「完全な人間」ってなんだ?? 中田敦彦か?? …

学びだけでなく行動すること、挑戦することをあきらめたくない人へ──『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』

独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法作者:読書猿発売日: 2020/09/29メディア: 単行本(ソフトカバー)『独学大全』は、ネット上の書き手として、そして『アイデア大全』、『問題解決大全』で大きく話題になった読書猿による三…

不死を得た世界に、新たな神が現れる。フランス作家による未来への警告──『透明性』

透明性作者:デュガン,マルク発売日: 2020/10/15メディア: 単行本この『透明性』は、セネガル生まれのフランス人作家マルク・デュガンによる長篇小説である。本書が長篇のフィクションとしては本邦初紹介作となるが、これまで13作の小説を刊行していて、映画…