基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

「宇宙の終わり」について現在の物理学から考えられる5つのシナリオ──『宇宙の終わりに何が起こるのか』

宇宙の終わりに何が起こるのか作者:ケイティ・マック講談社Amazon始まりあるものにはすべて終わりがあるというが、宇宙にもまた終わりはあるのだろうか。宇宙にもビッグバンという起点があるから、ないということはないだろう。著者はノースカロライナ州立大…

世界各地に存在した、元素ハンターたちの挑戦を描く──『元素創造 93~118番元素をつくった科学者たち』

元素創造 93~118番元素をつくった科学者たち作者:キット・チャップマン白揚社Amazonこの『元素創造』は、元素周期表の末尾に並ぶ26元素がどのようにして作られ・発見されてきたのか、科学者らの挑戦をまとめた一冊である。現在元素は118種に名前がついていて…

世界初のペンギン生物学者の南極探検を描く『南極探検とペンギン』から、命につけられた値段を考察する『命に〈価格〉をつけられるのか』までいろいろ紹介

はじめに 本の雑誌に書いているノンフィクションガイド連載の原稿(2021年7月)を転載します。今回は宇宙の知的生命探査についての一冊からペンギン本、統計に批評にと多彩──だけどわりと地味めな本が揃った月である。今月号(2021年10月号)もよろしく! 10月号…

脳に性差はあるのか?──『ジェンダーと脳──性別を超える脳の多様性』

ジェンダーと脳――性別を超える脳の多様性作者:ダフナ・ジョエル,ルバ・ヴィハンスキ紀伊國屋書店Amazonこの『ジェンダーと脳』は、よく言われる「男女で脳に性差はあるのか?」というテーマに、神経科学者であるダフナ・ジョエルが向き合った一冊である。先…

夜寝るのを待ち遠しくさせてくれる、夢と睡眠についてのノンフィクション──『夢を見るとき脳は - 睡眠と夢の謎に迫る科学』

夢を見るとき脳は――睡眠と夢の謎に迫る科学作者:アントニオ・ザドラ,ロバート・スティックゴールド紀伊國屋書店Amazonこの『夢を見るとき脳は』は、夢を見ている時脳内で何が起こっているのかに注目した一冊である。夢を見たことがないという人は、ほとんど…

アフリカの文化が色濃く反映された、様々な種族の文化摩擦と対立、その調和を描き出すSF長篇──『ビンティ ー調和師の旅立ちー』

ビンティ ー調和師の旅立ちー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:ンネディ オコラフォー早川書房Amazonこの『ビンティ』は、米国オハイオ州生まれのアフリカ系アメリカ人作家ンネディ・オコラフォーによるスペースオペラ的SF長篇である。三作の中篇から構…

アルゴリズムを闇雲に信じることがないように、その限界を認識する──『アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか』

アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか (文春e-book)作者:ハンナ・フライ文藝春秋Amazonグーグル検索をした時、Facebookをみたとき、ECサイトで「おすすめ」商品が表示される時──我々はいま、日常のあらゆる側面でアルゴリズムと接している。…

宇宙を支配する帝国の宮邸で繰り広げられる陰謀劇、ポリティカル・サスペンスが堪能できるSF長篇──『帝国という名の記憶』

帝国という名の記憶 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:アーカディ マーティーン早川書房Amazonこの『帝国という名の記憶』は、アーカディ・マーティーンの長篇デビュー作。デビュー作にも関わらずヒューゴー賞を受賞、その他のSF賞にもバンバンノミネートされた注目…

温室効果ガス排出量を510億トンからゼロへ、ビル・ゲイツの提言───『地球の未来のため僕が決断したこと:気候大災害は防げる』

地球の未来のため僕が決断したこと作者:ビル・ゲイツ,Bill Gates早川書房Amazonこの『地球の未来のため僕が決断したこと』は、マイクロソフト創業者にして、世界最大の慈善基金団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団を創設・運営している、イメージ的には永遠…

嗅覚が軽んじられるのはなぜなのか?──『においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物である』

においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物である作者:A・S・バーウィッチ河出書房新社Amazonにおい、嗅覚というのは五感の中でもわりと軽視されがちというか、仮に何か一つ感覚を消滅させられるとしても、視覚、聴覚と比べたらなくなっても構わないかな……飯を食…

能力主義信仰を問い直す『実力も運のうち』から、物理学に美しさは必要か? と批判的に切り込む『数学に魅せられて、科学を見失う』までいろいろ紹介!

本の雑誌459号2021年9月号本の雑誌社Amazon はじめに 本の雑誌に書いているノンフィクションガイド連載の原稿(2021年6月)を転載します。毎月書いていると今回はけっこうしっかりしてるな、とか今回は(公言はしないけど)薄味だな、とかいろいろ思うところがあ…

六隻の海賊船をたばね、世界最大級の船を襲った男の逸話──『世界を変えた「海賊」の物語 海賊王ヘンリー・エヴリ―とグローバル資本主義の誕生』

世界を変えた「海賊」の物語 海賊王ヘンリー・エヴリ―とグローバル資本主義の誕生作者:スティーブン・ジョンソン朝日新聞出版Amazon歴史上の海賊と聞いて多くの人が思い浮かべるのはおそらくフランシス・ドレークとか、黒ひげの名で知られるエドワード・ティ…

ほとんどの人は本質的に善良であると、強力に性善説を推し進める一冊──『Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章』

Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章 (文春e-book)作者:ルトガー・ブレグマン文藝春秋Amazonこの『Humankind』は、オランダで25万部以上の部数を重ね、『サピエンス全史』のハラリにも絶賛され対談をし、ピケティに次ぐ欧州の知性など…

歴史の影で忘れ去られていた女性暗号解読者たちの活躍に光を当てる一冊──『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』

コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち作者:ライザ・マンディみすず書房Amazon近年、ロケットのための計算に明け暮れていた女性たちを描き出したノンフィクション『ロケットガールの誕生』や、ディズニーの初期で制作に関わった女性たちの活躍…

無秩序な日本中世を振り返り、現代の当たり前を見直すエンタメ歴史ノンフィクション──『室町は今日もハードボイルド―日本中世のアナーキーな世界―』

室町は今日もハードボイルド―日本中世のアナーキーな世界―作者:清水克行新潮社Amazon最近日本に住んでいるフランス人や中国人YouTuberだったり海外YouTuberの動画をだらだらと見ていることが多いのだが、同時代を生きていたとしても国ごと、コミュニティごと…

数千年におよぶ進化と文明の発展を重ねた蜘蛛と人類の邂逅が描かれる、進化のダイナミズムが詰め込まれたSF長篇──『時の子供たち』

時の子供たち (上) (竹書房文庫 ち 1-1)作者:エイドリアン・チャイコフスキー竹書房Amazonこの『時の子供たち』は、イギリスの作家エイドリアン・チャイコフスキーのSF長篇である。刊行は2015年で、2016年にアーサー・C・クラーク賞を受賞している。それ以上…

グーグルやフェイスブックによって、人間性が強奪される未来についての警告──『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』

監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い作者:ショシャナ・ズボフ東洋経済新報社Amazonこの『監視資本主義』は、ショシャナ・ズボフによって書かれた資本主義と人類文化の未来についてを扱った壮大なテーマの一冊である。壮大なのはテーマだけでなく、本文600ペ…

イノベーションは必然で、個人は重要ではないとする『人類とイノベーション』から、女性アニメーターたちの伝記『アニメーションの女王たち』まで一気に紹介(本の雑誌掲載)

はじめに 本の雑誌2021年5月号分の原稿を転載します。この号はわりと粒ぞろい。『人類とイノベーション』、『アニメーションの女王たち』あたりは特にオススメです。 本の雑誌2021年5月号掲載 人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する (Ne…

主要SF賞を総なめにした『宇宙へ』の続篇にして、単独でも読める宇宙開発SFの傑作──『火星へ』

火星へ 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:メアリ ロビネット コワル早川書房Amazonこの『火星へ』は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の主要SF賞を総なめにした『宇宙へ』の続編にあたる。話は繋がっているが、それぞれの巻で話はオチていて、違ったおもしろさ…

法がおよびづらい、海の無法者たちの世界を暴き出すノンフィクション──『アウトロー・オーシャン:海の「無法地帯」をゆく』

アウトロー・オーシャン(上):海の「無法地帯」をゆく作者:イアン・アービナ白水社Amazonこの『アウトロー・オーシャン』は、ニューヨーク・タイムズで記者として働き、本書のもととなった「無法の大洋」と名付けられた一連の記事で数々の賞を受賞したイアン…

深刻なパンデミックに対抗するため組織内で奮闘した個人の姿を描き出す、『マネー・ボール』の著者最新作──『最悪の予感: パンデミックとの戦い』

最悪の予感 パンデミックとの戦い作者:マイケル ルイス早川書房Amazonこの『最悪の予感』は、統計データを用いることで、従来誰もやってこなかった手法で選手を採用し、戦術を組み立てていった野球チームについて書かれた『マネー・ボール』などで知られるマ…

生物学とテクノロジーを合体させた、バイオロボティクスについての一冊──『ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー』

ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー作者:バルバラ・マッツォライ白揚社Amazon通常、ロボットといえば鋭角や四角でゴテゴテしているイメージで、それとは正反対の植物とは結びつかない。しかし、ロボット研究・開発は昆虫や動物か…

抗生物質の使用により耐性を増していく超耐性菌にどう抵抗していけばいいのか?──『超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」』

超耐性菌 現代医療が生んだ「死の変異」作者:マット・マッカーシー光文社Amazon近年、体内の腸内細菌の存在が我々の健康に大きく関与していることなどが明らかになってきて、細菌を死滅させる抗生物質を無闇矢鱈に乱用するべきではないという潮流が生まれて…

動物の言葉を話す男と古代のおとぎ話を忘れた近代社会が対立する、エストニア発の傑作ファンタジィ──『蛇の言葉を話した男』

蛇の言葉を話した男作者:アンドルス・キヴィラフク河出書房新社Amazonこの『蛇の言葉を話した男』は、エストニアで歴代トップ10に入るベストセラーに入り、フランス語版も大ヒットして14ヶ国語に翻訳されたファンタジィ長篇である。帯には、『これがどんな本…

刑務所のありかた、罪と罰の関係性を考え直す『囚われし者たちの国』から、病気の「最初の患者」たちの重要性に迫った『0番目の患者』まで色々紹介!(本の雑誌掲載)

はじめに 本の雑誌2021年3月号掲載の原稿を転載します。普段僕が連載で取り上げている本は完全に自分の好みで選んでいるせいでサイエンスノンフィクション多め、それもほぼ翻訳書になってしまうのだが、今回は『2016年の週刊文春』とか、『ゲンロン戦記 「知…

中国の思想と文化が色濃く反映された、傑作ぞろいの中国史SFアンソロジー!──『中国史SF短篇集-移動迷宮』

中国史SF短篇集-移動迷宮 (単行本)中央公論新社Amazonこの『移動迷宮』は近年躍進著しい中国SFの中でも、中国の歴史を扱ったSF短篇を集めたアンソロジーである。SFジャンルは近年それなりに市民権を得てきたといっても、特に翻訳ではまだごく一部の出版社(早…

オランダ史上最悪の犯罪者と呼ばれた兄を告発した妹による、壮絶なる体験記──『裏切り者』

裏切り者作者:アストリッド ホーレーダー早川書房Amazon本書『裏切り者』は、映画にもなった「ハイネケンCEO誘拐事件」の実行犯として知られ、その後も犯罪を重ね「オランダ史上最悪の犯罪者」と恐れられるまでになった男ウィレム・ホーレーダーについて書か…

筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、サイボーグになることを選んだ男──『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン: 究極の自由を得る未来』

NEO HUMAN ネオ・ヒューマン―究極の自由を得る未来作者:ピーター・スコット・モーガン東洋経済新報社Amazon ALSという病 筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気がある。体が徐々に動かなくなっていき、最終的には自発的な呼吸も行うことができず、意…

自閉症者だからこそのユニークな読書体験を描き出す、「読み」の探求──『嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書──自閉症者と小説を読む』

嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書――自閉症者と小説を読む作者:ラルフ・ジェームズ・サヴァリーズみすず書房Amazonこの『嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書』は、副題に入っているように、本書の著者が自閉症者と共に色んな小説を読んで語り合ってみたという、た…

厳重に階層が固定されたミツバチの社会を蜂視点で描き出す、神話的なディストピア文学──『蜂の物語』

蜂の物語作者:ラリーン・ポール早川書房Amazon週刊少年ジャンプにはこれまで様々な打ち切り漫画が生まれてきたが、僕がその中でも最も打ち切りがショックだったのが、マキバオーなどで知られるつの丸による『サバイビー』だった。ミツバチを主人公に、その生…