基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

献本御礼

男だけを殺す感染症によって男性人口が激減した時、社会はどのような変化を遂げるのか?──『男たちを知らない女』

男たちを知らない女 (ハヤカワ文庫SF)作者:クリスティーナ スウィーニー=ビアード早川書房Amazonこの『男たちを知らない女』は、クリスティーナ・スウィーニー=ビアードのデビュー作にして、もし世界に男だけを殺す感染症が広まって、社会の構成要員がほぼ…

街なかの時計がすべて別の時刻をさすほどにルーズなブラジルと、時間に厳しいタイトな日本、何が異なるのか?──『ルーズな文化とタイトな文化』

ルーズな文化とタイトな文化―なぜ〈彼ら〉と〈私たち〉はこれほど違うのか作者:ミシェル・ゲルファンド白揚社Amazon世界は技術の発展によって、過去例にないほど密接に繋がるようになった。飛行機は世界中を行き来し(今は違うが)、インターネットは光速で世…

誰もがテレポートを実施でき、距離が存在しなくなった世界をどこまでも追求する、エネルギーに満ち溢れた四年ぶりのSFコンテスト受賞作──『スター・シェイカー』

スター・シェイカー作者:人間 六度早川書房Amazonこの『スター・シェイカー』は、三回に渡って大賞が出なかった(優秀賞は出てたけど)ハヤカワSFコンテスト久しぶりの大賞受賞作にして、いかにもデビュー作らしく、荒削りながらも圧倒的な才能を見せつけてく…

造語「メタヴァース」を生み出し、数々の起業家の世界観に影響を与えた伝説のSFがついに復刊!──『スノウ・クラッシュ』

スノウ・クラッシュ〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:ニール スティーヴンスン早川書房Amazonこの数年メタヴァース=仮想現実が盛り上がっている。Facebookが社名を「Meta」に変更し、OculusQuestやVRchatが普及し、フォートナイトでのライブ・生活体験が当…

第一次世界大戦中にインターネットや携帯電話が発展し、高度な監視システムが構築されたIFのドイツを描き出す改変歴史SF──『NSA』

NSA 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:アンドレアス エシュバッハ早川書房Amazonこの『NSA』は、ドイツを代表するSF作家アンドレアス・エシュバッハが18年に発表した、ドイツが舞台の歴史改変SF小説である。歴史改変ものとは、「もし歴史のあの時点で結果がこ…

過激主義組織はどのように人を勧誘し、虜にするのか?──『ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ』

ゴーイング・ダーク 12の過激主義組織潜入ルポ作者:ユリア・エブナー左右社Amazonこの『ゴーイング・ダーク』は、12の過激な主義主張をかかげる組織に著者が潜入し内部を綴るルポタージュである。最近のこうした組織はオンラインで門戸を開いているものだか…

《ウィッチャー》ワールドの原点とその本質的な魅力を味わえる、入門にうってつけの一冊──『ウィッチャー短篇集1 最後の願い』

ウィッチャー短篇集1 最後の願い (ハヤカワ文庫FT)作者:アンドレイ サプコフスキ早川書房Amazonポーランドの作家アンドレイ・サプコフスキによるファンタジィ小説シリーズ《ウィッチャー》は、小説も世界的なベストセラーであるが、本作を原作としたゲーム…

2020年の読むべき日本SF短篇が一冊であらかたカバーできる、竹書房文庫の年刊日本SF傑作選!──『ベストSF2021』

ベストSF2021 (竹書房文庫, お6-2) (竹書房文庫 お 6-2)作者:大森 望竹書房Amazon2020年に発表された日本SF短篇の中から、大森望が傑作をよりすぐったのがこの竹書房から刊行されたアンソロジー『ベストSF2021』である。2019年作品版の『ベストSF2020』が202…

mRNAワクチンを接種した人全員に読んでもらいたい、ワクチン開発の奮闘を描き出す一気読み必至のノンフィクション──『mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来』

mRNAワクチンの衝撃 コロナ制圧と医療の未来作者:ジョー ミラー,エズレム テュレジ,ウール シャヒン早川書房Amazon日本政府によると、日本の新型コロナウイルスワクチン接種回数は1億9800万回、2回の接種を完了した人は総人口の77%と数字が出ているが、…

『火星の人』の著者最新作にして、宇宙SF&宇宙生物学SFの傑作長篇──『プロジェクト・ヘイル・メアリー』

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上作者:アンディ ウィアー早川書房Amazonこの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、火星に一人取り残されてしまった男の決死のサバイブを描くハード・宇宙開発SF『火星の人』でデビュー&大ヒットした、(リドリー・スコッ…

がんを根絶するのではなく、コントロールするという選択肢──『がんは裏切る細胞である――進化生物学から治療戦略へ』

がんは裏切る細胞である――進化生物学から治療戦略へ作者:アシーナ・アクティピスみすず書房Amazonこの『がんは裏切る細胞である』は、書名通りがんについて書かれた一冊である。がんがどのように生まれ、現代まで生き残ってきたのか。いま、どこまで研究が進…

進化は偶然によって決まるのか?──『進化の技法――転用と盗用と争いの40億年』

進化の技法――転用と盗用と争いの40億年作者:ニール・シュービンみすず書房Amazonこの『進化の技法』は、『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト: 最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅』や『あなたのなかの宇宙』で知られる古生物学者・サイエンスライターの…

注意力を取り戻し、社会に潜むコンテクストを深く理解するための「なにもしない」という方法──『何もしない』

何もしない作者:ジェニー オデル早川書房Amazonこの『何もしない』は、「何もしない」ための行動計画書というか、思索書というか、自己啓発書というか、そんな感じの本である。何もしないなんて簡単だろう、何もしないだけなんだから、と思うかもしれないが…

テロと感染病の蔓延により、リアルに接触する機会が激減した未来を予言的に描き出したネビュラ賞受賞作──『新しい時代への歌』

新しい時代への歌 (竹書房文庫)作者:サラ・ピンスカー竹書房Amazonこの『新しい時代への歌』は、本邦では初紹介となる作家サラ・ピンスカーの長篇にして2020年度のネビュラ賞受賞作である。本作、日本でこうして邦訳作が刊行されるまえからすでにかなりの話…

世界各地に存在した、元素ハンターたちの挑戦を描く──『元素創造 93~118番元素をつくった科学者たち』

元素創造 93~118番元素をつくった科学者たち作者:キット・チャップマン白揚社Amazonこの『元素創造』は、元素周期表の末尾に並ぶ26元素がどのようにして作られ・発見されてきたのか、科学者らの挑戦をまとめた一冊である。現在元素は118種に名前がついていて…

アフリカの文化が色濃く反映された、様々な種族の文化摩擦と対立、その調和を描き出すSF長篇──『ビンティ ー調和師の旅立ちー』

ビンティ ー調和師の旅立ちー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:ンネディ オコラフォー早川書房Amazonこの『ビンティ』は、米国オハイオ州生まれのアフリカ系アメリカ人作家ンネディ・オコラフォーによるスペースオペラ的SF長篇である。三作の中篇から構…

宇宙を支配する帝国の宮邸で繰り広げられる陰謀劇、ポリティカル・サスペンスが堪能できるSF長篇──『帝国という名の記憶』

帝国という名の記憶 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:アーカディ マーティーン早川書房Amazonこの『帝国という名の記憶』は、アーカディ・マーティーンの長篇デビュー作。デビュー作にも関わらずヒューゴー賞を受賞、その他のSF賞にもバンバンノミネートされた注目…

温室効果ガス排出量を510億トンからゼロへ、ビル・ゲイツの提言───『地球の未来のため僕が決断したこと:気候大災害は防げる』

地球の未来のため僕が決断したこと作者:ビル・ゲイツ,Bill Gates早川書房Amazonこの『地球の未来のため僕が決断したこと』は、マイクロソフト創業者にして、世界最大の慈善基金団体であるビル&メリンダ・ゲイツ財団を創設・運営している、イメージ的には永遠…

歴史の影で忘れ去られていた女性暗号解読者たちの活躍に光を当てる一冊──『コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち』

コード・ガールズ――日独の暗号を解き明かした女性たち作者:ライザ・マンディみすず書房Amazon近年、ロケットのための計算に明け暮れていた女性たちを描き出したノンフィクション『ロケットガールの誕生』や、ディズニーの初期で制作に関わった女性たちの活躍…

数千年におよぶ進化と文明の発展を重ねた蜘蛛と人類の邂逅が描かれる、進化のダイナミズムが詰め込まれたSF長篇──『時の子供たち』

時の子供たち (上) (竹書房文庫 ち 1-1)作者:エイドリアン・チャイコフスキー竹書房Amazonこの『時の子供たち』は、イギリスの作家エイドリアン・チャイコフスキーのSF長篇である。刊行は2015年で、2016年にアーサー・C・クラーク賞を受賞している。それ以上…

主要SF賞を総なめにした『宇宙へ』の続篇にして、単独でも読める宇宙開発SFの傑作──『火星へ』

火星へ 上 (ハヤカワ文庫SF)作者:メアリ ロビネット コワル早川書房Amazonこの『火星へ』は、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の主要SF賞を総なめにした『宇宙へ』の続編にあたる。話は繋がっているが、それぞれの巻で話はオチていて、違ったおもしろさ…

深刻なパンデミックに対抗するため組織内で奮闘した個人の姿を描き出す、『マネー・ボール』の著者最新作──『最悪の予感: パンデミックとの戦い』

最悪の予感 パンデミックとの戦い作者:マイケル ルイス早川書房Amazonこの『最悪の予感』は、統計データを用いることで、従来誰もやってこなかった手法で選手を採用し、戦術を組み立てていった野球チームについて書かれた『マネー・ボール』などで知られるマ…

生物学とテクノロジーを合体させた、バイオロボティクスについての一冊──『ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー』

ロボット学者、植物に学ぶ―自然に秘められた未来のテクノロジー作者:バルバラ・マッツォライ白揚社Amazon通常、ロボットといえば鋭角や四角でゴテゴテしているイメージで、それとは正反対の植物とは結びつかない。しかし、ロボット研究・開発は昆虫や動物か…

中国の思想と文化が色濃く反映された、傑作ぞろいの中国史SFアンソロジー!──『中国史SF短篇集-移動迷宮』

中国史SF短篇集-移動迷宮 (単行本)中央公論新社Amazonこの『移動迷宮』は近年躍進著しい中国SFの中でも、中国の歴史を扱ったSF短篇を集めたアンソロジーである。SFジャンルは近年それなりに市民権を得てきたといっても、特に翻訳ではまだごく一部の出版社(早…

オランダ史上最悪の犯罪者と呼ばれた兄を告発した妹による、壮絶なる体験記──『裏切り者』

裏切り者作者:アストリッド ホーレーダー早川書房Amazon本書『裏切り者』は、映画にもなった「ハイネケンCEO誘拐事件」の実行犯として知られ、その後も犯罪を重ね「オランダ史上最悪の犯罪者」と恐れられるまでになった男ウィレム・ホーレーダーについて書か…

自閉症者だからこそのユニークな読書体験を描き出す、「読み」の探求──『嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書──自閉症者と小説を読む』

嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書――自閉症者と小説を読む作者:ラルフ・ジェームズ・サヴァリーズみすず書房Amazonこの『嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書』は、副題に入っているように、本書の著者が自閉症者と共に色んな小説を読んで語り合ってみたという、た…

厳重に階層が固定されたミツバチの社会を蜂視点で描き出す、神話的なディストピア文学──『蜂の物語』

蜂の物語作者:ラリーン・ポール早川書房Amazon週刊少年ジャンプにはこれまで様々な打ち切り漫画が生まれてきたが、僕がその中でも最も打ち切りがショックだったのが、マキバオーなどで知られるつの丸による『サバイビー』だった。ミツバチを主人公に、その生…

ヒューゴー、ネビュラ、ローカスと主要SF賞を総なめにした、エモーショナルな往復書簡時間SF──『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』

こうしてあなたたちは時間戦争に負ける (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)作者:アマル・エル=モータル,マックス・グラッドストン早川書房Amazonこの『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』は、アマル・エル=モータル、マックス・グラッドスト二人の共作による…

更新世へのタイムトラベルを通して、現代人類とホモ・ハビリスのロマンスを描き出す異色の時間・文化人類学SF──『時の他に敵なし』

時の他に敵なし (竹書房文庫 び 3-1)作者:マイクル・ビショップ竹書房Amazonこの『時の他に敵なし』は、1982年に刊行されネビュラ賞も受賞した、マイクル・ビショップによるタイムトラベル・ラブロマンスである。今回が本邦初訳で、この時代にあらためて翻訳…

世界2900万部超えの怪物中国SF三部作、ついに完結──『三体』

三体Ⅲ 死神永生 上作者:劉 慈欣早川書房AmazonSFとしてはこの10年で最大の話題作である、作家劉慈欣による『三体』。その三部作が、先日刊行されたばかりの『三体III 死神永生』(ししんえいせい)でついに完結!中国本国で大いに盛り上がり、その後ケン・リュ…