基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

死神の精度 伊坂幸太郎

あらすじ
仕事をすると雨が降る死神の話。


感想 ネタバレ無

というか、どっかで読んだことあるような設定だなと思ったら、あれだよあれ。なんだっけ、ライトノベル・・・・。死神のバラッドだ。 あれと同じ設定だわさね。死神のバラッドがどういう話だったか忘れたけど確か同じような話だったよ・・・!

しかしあれだな、どれもこれも死を前提とした話だけに、そういう方面の話が好きな自分にはたまらなかった。

特に、死を自覚した人間の考える事が一番の大好物な自分ですが、その意味で最高傑作は最後の短編に出てきたおばあちゃんなんですがね。

いろんな本で、いろんなケースの死を自覚した人間を読んできたけれど、いったいどれが正しいのかわからないな。 もちろん正しい事なんてないのだけれども、一体どういう感情をいだくのが、もっともリアリティのある表現なのかというのがわからない。

死を前にしておびえるのも、現実味のある行動だし、かといって落ち着きはらっているのも、あるかもしれない。死ぬ間際になって、唯一思う事はただ一つだった、もっと生きたい なんて書いたSF作家(レイ・ブラッドベリ)もいるし、自分が死ぬのまで計算にいれて、死後も動く計を創った孔明だっているし、自分から死ぬやつだっているし、もうわけがわからない。

まぁ、だからこそ面白いんですがね。

そしてやっぱり、短編といっても話の組み立て方がべらぼうにうまくて、最初の短編なんかもその結末は全く予想できなかったと唖然とした。

ネタバレ有


人間はみんな死ぬ。まぁ、当然だけど、絶対ではないよね。今のとこ絶対だけどさ。 寿命を800歳にできるかもしれない技術が生まれそうなわけだし。

俺はさ、本当に人が死ぬ時の気持ちに興味があるんだ。 もし俺の目の前に、あと30分で絶対に死ぬというような人が現れたら、お悔やみの言葉を言う前に、今の心境は? と尋ねているはずだ。寿命があと○○ですと宣告された人の気持ちも気になる。 おそらく、最初のうちは、なんだ、まだあと○○もあるじゃないかと無理に自分を勇気づけて生きて、残り日数が少なくなってきたときにもうこんなにたってしまったのかと絶望してしまうのが通常のケースなのではないかと思うが。

死ぬ時のシーンを抜きだしてみよう。

「でも、癌で死ぬよりは、こうやって好きな子のために死ぬ方がよかったです」途切れ途切れではあったが、彼はそう言った。「どうせ死ぬなら」
「人間はみんな死ぬ」
「死にたくはないけど、でもどうせ死ぬなら」彼の目は焦点が合わなくなった。「最善じゃないけど、最悪でもない」

これしかなかった。 死神の話を書くんだから、きっちり死ぬ瞬間までサポートしてほしいものだ。とよくばりな事を書いてみよう。6篇あって、うち1人は死ななくて、5人中1人しか死ぬシーンが書かれていない。 あとも死ぬ事は決定しているようだが、途中で終わっている。全く。

笑ったシーン

「ホモ、とか言ったな」
「冗談に決まってる。それにホモだって堂々としてればいいじゃねえか。あんたたち、本当にそうなのか」
「こいつはホモ・サピエンスだが」私は抱えた森岡を視線で指した後で、「俺は違う」と答えた。


なるほど。 もしいつかお前ホモなのか?と聞かれたとしたら、俺はホモ・サピエンスだが何か?とかえすようにしよう。考えうるかぎり、今のところ最上の答えのように思う。

一番よかったといわれても困るけど(誰にも聞かれてないけど)どれも、差がつけられないぐらい楽しかった、という答えしか出ないな。 ヤクザの話も好きだし、人殺しの森岡の話もばあさんの話もみんなみんな好きだ。 読んでいて、気持ちいいからな。

最後のおばあちゃんの話だが、感慨深いものがある。死神を認識して、死を全く怖がっていない・・・がそれは、死より怖いものを知っているからだろうなぁ。その怖いものが、このおばあちゃんにとっては、自分以外の誰かが死んでいくことであって。

もちろん、死が何よりも一番怖いという人にとっては、死は恐怖の対象でしかないけれど、死よりも怖いものがある人には、死はそれよりはマシな未来という事だろうか。 自分が何が一番怖いのか、わからないですがね。 死が怖いかどうかもわからないなんて、のんきなやつだ。明日死ぬかもしれないのに。


特に劇的な演出があったわけでもないのに、思わず感動してしまった場面。

「賭けてみない?」
「賭ける?何を」
「晴れてるかどうか。雨が止んでるかどうか」老女は右手をのばし、窓を指差した。まだ、カーテンは閉じたままで外は見えなかったが、けれど私には開けずとも答えが分かっている。「止んでいるわけがない」
「じゃあ、賭けようか。わたしは晴れてると思うよ」
「どうしてそう思う?」
「今日は晴れてもいい気がするから」
「根拠になっていない」
「じゃあ、賭けようよ」
私は気のりしなかった。見るまでもなく、雨が降っているに決まっていた。経験上、そうとしか言いようがない。そのことを告げると彼女は、「つまんない男ね」と色っぽい声を出し、つかつかと窓際に歩いて行った。別にわたしが勝ったところで長生きさせてくれなんて言わないのにさ、と笑い、さっとカーテンを開けた。
 すると、だ
「ほら」振り返る老女の向こう側に、私が見たことのない晴天が広がっている。

中略

「こんなに晴れてて、犬があそこにいてさ。子供も楽しそうだし、これだけで」と一度言葉を切り、「これだけで充分、ラッキーだね」


この手のセリフに弱いんだ。 身近にあるものだけで、すべては満足だというような感覚が、全てだと思っているからだろうけど。今のところこの考えが自分の根幹を作っていると思っている。

そして、このおばあちゃんが前の短編に出てきた、若い女の人だったという事に気付かされた時に、また鳥肌が立つのだ。

安っぽい名前をつけさせてもらうならば、構成の魔術師といっていいだろう。かっこわるっ
でもそれぐらい伊坂幸太郎の構成のうまさには驚かされる。

ここで終わりにしたいと思います。