基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

竜の卵/ロバート・L・フォワード

あらすじ
中性子星に、人知れず知的生命体が存在していた。人類と、知的生命体とのファーストコンタクトを書くハードSF。

感想 ネタバレ無

ものすごいハードSFである。現役の物理学者で、しかもかなりの論文を発表してきたとあったらもうなにがなんやらといった感じ。

最初はそのあまりの文章量に圧倒されて、読む気がくじけそうになってしまったものの、読み始めたら止まらない、とはまさにこの本のためにあるようなもので、不思議な感覚を味わっていた。

中性子星という特殊な星に生命が存在する可能性を、科学的に立証し、その場合どんな生物としてなら存在できるか、といった点に至るまですべてがハードSFである。

そもそも、中性子星に生命が誕生する、という点からしてびっくりものであって、しかもその生命の歴史を書いた、というのだから凄いものだ。

人間はほとんど出てこないし。想像していたのとはまったく違うものだったが面白かった。書いてある事は全く理解できないことから、お、なんとなく理解できるぞ、という事までさまざまだったが、自分の論文に本書を引用するぐらいなのでその信憑性は確かなものなのだろう。

ラスト50Pを読むまでは、確かに面白い、設定は凄い、だが人間側がほとんど書かれていないし、設定が凄いというだけで、傑作というほどでもないのではないか・・・と考えていたが、ラストまで読んだところ、異星人との時間も文化も超えたファースト・コンタクトという意味で、ほんの短い時間のコンタクトであったが、ここまで印象に残る対話も存在しないと考えるにいたった。

進化の物語としても秀逸である。異星人の誕生から人類とのコンタクトを追っていくのはそのまま、人類の歴史をなぞる事と同義であった。といっても、何でこんなに思考の流れが人類そのままであるのか?というのは全くもって謎であるのだが。
姿かたちが全く違っても、知性を持つという事は人類の歴史をなぞることになるのだろうか?

農耕の誕生、狩猟の誕生、数学の誕生、などなどをまさにロマサガのごとくピコーンと閃く のは読んでいて楽しいものがあった。最近開発されたばかりの技術なのに、本書にすでに書かれている事もあったりして、驚くばかり。

ネタバレ有

よくわからなかったところ

星の密度を高めて、擬似的に中性子星にするやり方はわかったものの、何で人間がそんな事をしていたのかいまいちわからない。というかそもそも、何を求めて中性子星に行ったのかがわからない(最悪)

それから、竜の卵に向けて赤外線の放射のような事をやっていたが、いったい何のためにそんな事をやっていたのか・・・どうもレーザートラップという技術らしいのだが、解説を読んでも全く理解できない。

途中までチーラ人が好きになれなかったなー。神の視点ゆえか。ピンク=アイの馬鹿さ加減には腹が立ったが、最後無残な死に方をした時は、そこまでしないでも・・・・と思わざるを得なかった。

赤外線ってのは人間が浴びても温かさを感じるというし、全長5ミリしかないチーラ人にとってはそれは凄い力のように感じるのだろう。そしてそれを利用している形になったピンク=アイだが・・・。

表面重力が六百七十億Gで温度が八千二百度という星にいる生物というのは全く想像が出来ないけれど、存在する事は可能なのだろう。

ただ、5ミリしか大きさがないのにそこに知性がある、というのにはまるっきり疑問だ。どれだけ効率のいい小さい記憶媒体を持っているのかと。

さらに生物といえるような存在が数種類しかいないため、仲間が死んだらその肉を食べるというのにもおぞましさを覚えるものの、そういうものなのだろうか。その割に腹が減っても、こいつを殺して食べてやろうなどと考える者がいないのは不思議である。

通貨の制度がかかれていなかったが、そこも疑問である。しかし充分に全員にいきわたる 食・住があれば通貨という制度は必要なくなるのだろうか。

今まで生物の時間の流れを感じるのはどうやって決められているか、というのは考えた事もなかったが、そうか、住んでいる星の自転速度で決められていたのか。人間の百万倍の速度でサイクルを続ける生物との対話、っていうのはわくわくさせられるよなぁ。

「この十五分間しかない生涯の友人関係というのは、たまらない気持だわ」


チーラ人の生涯は人間時間にして三十七分だから、十五分というのはほぼ半生に匹敵する。三十七分で一世代交代してしまうのはひどい話だ。8時間睡眠したら江戸から明治に変わってしまう。



ホロメモリークリスタルという装置が出てきたけれど、これもここ1か月の間に日本人が開発した技術だろう。大容量記憶装置として次世代の記憶媒体。クリスタルの中を反射させることでどーたらこーたら、といったものをすでに十年以上前に書いているのか。

チーラ人が自身の住み家である竜の卵の引力を振り切るには、光速の三分の一程度の速度が必要なわけだが、何もかも小さい事を考えると驚異的な科学力である。しかも自分の体を保つために宇宙船の内部にブラックホールと作らないといけないとは・・・。

確か日本かアメリカかでブラックホール人為的に作ろうという話があったが、危険だからという理由で流れたんだったか。まぁ人類にブラックホールは別に必要無いからな。

たった一秒のコンタクトだったが、それは人類にとってだけで、チーラ人からしてみればとてつもく長い間のコンタクトだった。両者に流れる時間の違いという観念からみたSFとしても、ファーストコンタクトものとしても、何よりも重い一秒間であったと、思う。

「あなた方にはさんざんお世話になっていますが、それにどうお返しをするかについては慎重でなければなりません。あなた方にも、自力で成長し発展する権利があるのですから。あなた方自身のために、この最後のホロメモリーの記録が終了したら、通信を絶つ方がいいと思います。あなた方の時間にして数千年はかかるほどの研究材料はさしあげました。これから我々はそれぞれの道に別れて、空間と時間の中に心理と知識を求めることになるのでしょう。あなた方は電子の卓越する世界で、そして我々は中性子が支配する世界で。
 しかし、嘆かないでください。我々があなた方よりずっと速く生きるといっても、宇宙について学ぶべき基本的な真理は限られています。だから、最後には、あなた方も我々に追い付くことでしょう」


チーラ人の特性の中で、だれしもが子供を大切に思う、敵の子供にさえ大切にしてやりたいと思う気持ちが例外なく働く、というのはいい特性だな、と思えた。人類にもそういうところがあればいいのだが。

チーラ人のイラストが巻末に収録されていたが、まさかこんな生物だったとは・・・と唖然とした思いで眺めていた。まるで細菌だ。