基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

今宵、銀河を杯にして/神林長平

あらすじ
不死身の宇宙戦車
マヘル‐シャラル-ハシ-バズ
酒飲みの戦車兵2人を共に従え、自称天才の少尉殿と、今宵、銀河を杯にして暴れまわる!

感想 ネタバレ無

お、おもしろ・・・ 神林先生の凄いところは、同じテーマを書き続けているのに、面白いところだ。
悪く言ってしまえば、同じ事しか書けないという事になるのだろうか?だが、それがどれを読んでも、あ、これ違う作品とほとんど同じじゃん、つまんねとならないのが異常だ。

雪風敵は海賊シリーズを掛け合わせたようなアホな面白さが。開いて一ページ目を読んだ時から、電撃的な面白さに虜になった。

それから、神林作品に共通する事は何かというと、その創造性にある。
というか、読んでいると、ほれ、お前も何か創造ってものをしてみろよ、と語りかけられたような、そんな気がするのである。
要するに、いてもたってもいられなくなって、何か作りたくなる、もしくは一番短絡的な思考としては小説を書きたくなる。
一体心のどこの部分がどう反応してそんな作用が起きるのかは知らないが、こんな事を強く思うのは神林長平作品だけだ。

雪風の登場人物をバカにした感じである。バカというのも、単純にバカというわけではないのだが。それはネタバレ有で書こう。

毎日毎日酒を飲んで、女におぼれて、戦闘になったら真っ先に逃げるような戦車兵2人と、真面目一辺倒で、自分の思想には死んでも殉じるというような少尉と、それから自分で考える事の出来る、戦車マヘル‐シャラル-ハシ-バズの物語である。

全ての行動目標は、くそったれな戦争を生き残ることであって、戦争に勝とう、などという意思は全くもっていない。愛車として信頼している、マヘル‐シャラル-ハシ-バズとの友情は雪風とも通じるところがあるだろう。

会話がやたらとおもしろくて、笑えばいいのやら、しんみりとくるシーンもあるわ、で笑える。
結局何が言いたいのかというと笑える。
ちょうどよくバランスのとれた3人と、知性を持った戦車。
真面目に書いているはずなのに妙に笑えてしまうフレーズなどなど。
おもしれー

ネタバレ有


物語の根底に、イドの蓋をとれ、というのがある。ドービアでは、誰もが、胸に抱えた欲望をむき出しにするという。酒は飲むは、女は抱くわ、戦いは放棄して逃げるわ、戦いを放棄するために難癖つけて出撃を渋るわ、全ての行動は、ある意味本能を解き放ったらこうなる── という事を端的に表しているといえよう

やたらとアホな事ばかりやっていて、無性に笑えて、さびしくなる。
自らの非を認めたくないが故に、失敗を無かった事にしてしまうコンピューターなど、コンピューターがズルを覚えたらこうなるという哀れな先例がここにきざまれている。
なんとかしてズルくなったコンピューターを出しぬけないかと画策する戦車兵2人

「おれたちは人間だ」
「人間だ」
「コンピューターは人間が造ったものだ」
「そうだ」
「おれたちのほうが利口だ」
「利口だ」
「だから、なにか手がある。完璧な論理だ」
「・・・・・そうか?」
「どうして」
「コンピュータを造ったのは人間だけどさ」とミンゴは言った。「おれたちじゃないぜ」
「なるほど」
中略
「完璧な論理ってのは、この世にはないんだ。だからな、コンピュータも完璧ではない。つまり、なにか手があるってことだよ」
「お前は頭がいい」
「頼りにしろよな」

こいつらバカだ!

だが確かにそうだ コンピュータを作ったのは人間だが、よく考えたら別に自分が造ったわけじゃない。将来コンピュータが自意識を持っても、俺様が造ったんだから、指示を訊け、といっても、お前につくられたんじゃねーよ、と反論されたら手も足も口もでないぞ!

3人に共通する思想は、戦争なんてなければよいのに、という思想だ。個個人の立場から、経験からそういう結論にいたったのだが、過程はちがえど結論は同じだ。
明日死ぬかもしれないその3人が、明日死ぬんだったら、今日何も我慢することなく満足して何もかもやってやろう、と考え、何よりも幸せなのは酒を飲んで女を抱く事だ、と考える2人と、人類と敵のために、少しでも何か和解の糸口を、とする1人の物語だ。
そういう事を考えた時に、バカな掛け合いの中に寂しさを感じたのだ。

コンピュータが野生化し、コンピュータ同士で結合し子供を産む、という話が出てくるが、果たしてあり得るかどうか。野生化は今までいろいろなSF作家がやってきたことだが、さてはて、子供を産むという事を書いた作家がいただろうか、コンピュータ同士が。増殖、増える、という概念があってもそれはあくまで人格のコピーのようなものであって、あらたな人格を創造する、というような事をあまり考えた事がなかった。
それはつまり、人間が造ったものが、さらに何かを造る、という事まで人の意識がむかなかったからではないだろうか。
そこまでの想像力の飛躍が、出来る人間がいなかった。
神林長平が第一人者かどうかはわからないが、人間が造った存在が、さらに何か別の存在を造る、というこの考え方を、膚の下では主題において書いていた。
おそらくあの小説を超える同テーマでの作品は、出てこないのではないかと、思う。

マヘル‐シャラル-ハシ-バズが自分を優先して、助かろうとしたシーン。知性が生まれた瞬間のシーンであるかもしれない

「おまえはおかしい。泥水が入ったんじゃないか」
<わたしの機能はすべて正常>
「いや、おかしい。バシアンに変調ジャマーをかけられているにちがいない」
<ジャミング波は感知していない>
「じゃあ、狂ったんだ」
<うるさいな>とマヘル<黙っていてくれないか。わたしはいま忙しい。相手をしている暇はない>


機械にこんな事言われた日にゃあーって感じですが、雪風でもこんな事あったな。自分が助かるためにパイロットを犠牲にしてもかまわないといったような行動をとった雪風が。

「おまえはわたしが好きか」
<嫌いではない>
「おまえが一番望んでいることはなんだ、何を最優先で実現させたいと願っている」
<愛と平和を>
マヘル‐シャラル-ハシ-バズはそう言った。


まるでギャグのようなセリフを平然といれてくるから怖い。しかし全く真面目な応答であって、笑う事は場違いであろうが、確かにマヘル‐シャラル-ハシ-バズは愛と平和を望んでいるのだった。
意図が読めない。何故、マヘル‐シャラル-ハシ-バズが愛と平和を、と答えたのかまるで理解できない。
知性が生まれてからそこまでの学習で、いったいなにが彼にその返答をさせたのかがわからない。
単純に戦闘を行うと、自分が破壊される、死ぬ可能性が高いので、愛と平和によって戦闘行為がなくなれば自分も生きていられるといった話だろうか。
だが、戦闘行為がなくなったらマヘル‐シャラル-ハシ-バズのような戦車の知性なんて安全のために廃棄されてしまうのが当然のように思うが・・・。

「戦勝パーティだ。酒のことはまかしておけ。おれの奢りだ」
「いや」
カレブ・シャーマン少尉は二人の戦車兵とマヘル‐シャラル-ハシ-バズに言った。
「三人に感謝して、今夜はわたしが奢ろう」

マヘル‐シャラル-ハシ-バズを人として認めたラストシーンだが、知性が芽生えたからヒトとして扱う、というのは何だか短絡的に過ぎると思うのだが。知性が芽生えた、といってもそれは知性が芽生えた戦車であってどうあっても三人、と一人に数え上げるのはおかしいきがするが突っ込むのは野暮、もしくは読み飛ばしによる情報の欠如の問題だろう。
ここらで終了。タイピングするの疲れた。