基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

キッチン/よしもとばなな

あらすじ
人生色々

感想 ネタバレ無

全体を流れる雰囲気が、一貫していて全く崩れる事がない。流れるような文章。本当に最低限必要な事しか描写していない、と感じる。それゆえに読むのは非常になめらかだった。
村上春樹の読みやすさとは、また違った読みやすさである。
そしてその最低限の文章と、最低限の心情表現というべきもので、ここまで表現出来てしまうものか、と驚きである。
キッチンに関しては、キャラクターの心情が理解できないところもあるが、やはり面白い。
ムーンライト・シャドウは、読んでいる間は、ありきたりな話っていうか凡庸だなぁなどとおそれ多くも思いながら読んでいたものだが、ラストの一文で、不意を突かれた、というかなんというか、思わず泣いてしまう。

少し卑怯だ。

全体としては1時間も読むのにかからなかったと思うが、心には残った。ズドーンと真中に腰を据えて残るような、そんな残り方じゃなくて、心の片隅にちょこんと、あれ?いたんだ?みたいな感じがキッチン。

どちらも喪失感を埋めようとする、話だ。埋め方は人それぞれだが、ここにあるのは綺麗な埋め方だと思う。


ネタバレ有

田辺雄一がちょっと面白くないのだよなぁ。

うまくかけないけれど、女性からみた男、みたいなフィクションにしても、考え方が男の思考回路を通ってないというか。
あっさりと女の子を家にあげたり、あっさりと彼女と別れたり、浮世離れしているというかなんというか・・・。

幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。


確かに。
ひとりだけど、それは社会に属するという行為で補われている、と思う。
誰もが人に認められたい、ほめられたいと思うのは、実は自分がひとりだという事をわかっているからだろうか。

「雄一、本当はもう帰りたくないんでしょう? 今までの変な人生のすべてと訣別して、やり直すつもりなのね。うそをついてもだめ。私は、知っている」


こんな事をいう女はどこにでもいるが、そいつが本当に知っている事は無いと断言出来る。
正直にいって、こんな事をいうやつが一番信用できない。軽々しく言おうが、物凄く真面目に何時間も考えました、っていう風なツラをして言おうが、まったく関係なしだ。

ムーンライト・シャドウ
死んだ姉の事が忘れられなくて、そのセーラー服を着てでかける弟っていう設定、どっかで読んだか見た事があると思うんだけどなぁ・・・なんだったかなぁ。この本は読んだ事もないし聞いた事もないから、まったく別の人が書いたものだと思うのだが・・・。

手を振ってくれて、ありがとう。何度も、何度も手を振ってくれたこと、ありがとう。

ここで号泣。というほどでもないが、泣いてしまった。何故だろう。幽霊になったのに必死になってんのに笑った、とか感じてもいいはずなのに。
具体的な描写がほとんどないまま次の場面にうつって、あぁ、あの場面はもう終わってしまったんだな、と思ったところに、具体的な描写が来たからだろうか。
わかりづらいけれど、あぁ、やっぱりそうだったのか、そんなに手を振るほど好きだったのか、と納得して泣いたのか。


とりあえず、よしもとばななはこの作品しか読んでないのだが、現時点では男の精神構造を全く理解していない、典型的女性作家というイメージしか持てない。
扱うテーマも死の埋め合わせみたいな、死ありきで考えるような話しか無いように(当然この作品しか読んでないのだから、当たり前だ)感じるし。
もっと他の作品も読んでみよう。できればガラっとイメージの変わるようなよしもとばなな作品が読みたい。
出来ればその本で、上のような馬鹿げた感想を撤回させてほしい、とそう思う。

作品に関する評価に限って言えば、上のような部分が少し気になっただけで文句なしに面白い。

正直にいって、自分自身が男なもので、男の作家の書いた女、というものにはそれほど違和感を覚えないのだが(そりゃ、自分自身が男なんだから、わからないよね)その分女の作家が書いた男、というものに対しての目が厳しくなってしまう。


ところで、キッチンの二章めのタイトルは満月、となっているのだが、これはみかげと雄一が、二人とも肉親を亡くして、満月だったのが二人とも、半月になって、最後には二人一緒になり、満月になったんだよ、というような意味なのか。

だったらキレイだなぁーと思うわけである。