基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

斜陽/太宰治

感想 ネタバレ無

お、おおおお。凄い、凄いぞ。もうずーっと昔の本なのにちっとも古さを感じさせない。時代設定はもろ昭和初期で、作品の中身といえばもうまるっきり今と似てもにつかないほどの古さなのに、その中に流れる空気が、新しい。

太宰治の作品なんて、教科書に載っていたようなものしか読んだ事ないもので、読んでいて何故、2作品とも女性が語り部なのだろうと不思議に思ったものだ。

しかも違和感を感じない。男だからかもしれないが、それでも驚くほど自然だ。解説を読んで知ったが、女性の書き方に定評があったらしい。納得。

太宰をほとんど読んでこなかった自分を悔やむ。ほんの数ページの短編であるおさんでさえ、その存在感はそこらの長編よりもでかい。

できれば当時の時代背景までよく知っていたら、もっと楽しめただろうに。現在との、あまりの価値観の違いに戸惑う事も多かったもので。

どこにでもちりばめられているはっとするような表現も凄いし、セリフの端からにじみ出てくる各人物の思想も凄い。

それがそのまま作者の意見へと繋がっているのかはわからないが、ズドンとくる。

今まで何度も人が死ぬその間際に何を考えるか、という事が気になって気になって、小説の中にそれを求めて、同じような作品を何作も読んできたけれども、何かがここに極まった感がある。

生きるとは何なのか、なんていう高尚なテーマがあるとは言わないが、よく考えなくてもそんなテーマは、小説というテーマで生き物が出てくるのならば、意図しなくても勝手に出てくるものだ。

ついに行き着いたか、という感覚。斜陽にはその一例が書かれているだけれども今まで読んできたものの中でも、格別の読後感だった。

文学だから、読んで為になったとか、教養が身についたとか、人に自慢できるとかそんなくだらないことではなくて、純粋に面白い。


ネタバレ有

幸福感というものは、悲哀の川の底に沈んで、かすかに光っている砂金のようなものではなかろうか。


理解しがたいがなんとなく気になった。いつかうまい感じに、スルっと理解できるようになる時が来るかも。
今は意味はわかるものの、感覚として伝わってこない。

作中でお母さんと、弟が死ぬ。
そのどちらも、思わず唸った。
母親が死んだ描写の次のページが、

戦闘、開始。

で始まるところから、意味もわからず鳥肌がたった。いったい何と闘うんだよ、いきなり戦闘開始ってなんだよ、なんていう疑問は全く浮かんでこなかった。ただ格好良い、と思ったし、否定的な文句が出てこない。ここから作品の雰囲気も、ガラっとという表現を使ってもいいぐらいに、変化したように思う。
戦闘、開始。が意味するように、今までの停滞した、状況から流動的に。動かし始めたような、展開が急加速を始めたような、実際に加速しはじめたのだが。
いったい何と闘うんだよ、なんて野暮な突っ込みをいれなくても、何と闘うのかなんてのは、すぐ次の行に書いてある。

僕は自分がなぜ生きていなければならないのか、それが全然わからないのです。
生きていたい人だけは、生きるがよい。
人間には生きる権利と同様に、死ぬる権利もあるはずです。

社会性というものを持った瞬間に、自殺というものはタブー視されるはずだから、死にたいから死にまーすっていってみんな死んでったら、社会が保てないんじゃないか。だから死ぬ権利なんてほんとはないんだと思うなぁ。
だからこそ人間は生まれながらに死ぬ事が出来ない、という不自由を背負って生まれてくるわけであって。誰も自由ではない。

大体が、弟も社会不適格者と呼ばれるにふさわしい人格を持っていたわけで。
自然の中に、生活していたなら、勝手に死んでいってしまうような弱い人間でも、今の人間の社会というやつはそれを助けてしまうわけであって。弱肉強食があてはまらない今の世に生まれてきたこと自体が不幸という話でもあるのだけれども。

そんな話をしだすと、ヒトラーばんざーい!といっているのと何ら変わらなくなってくるから困るのだが、助けないわけにはいかないというのが、なんかもう、生まれた瞬間に、死ぬ権利を奪われて不自由になるのと同様に、すでに欠陥といえるのかもしれぬと思ったわけで。

姉さん。
僕には希望の地盤がないんです。さようなら。

中略

夜が明けてきました。永いことご苦労をおかけしました。
さようなら。
ゆうべのお酒の酔いは、すっかり醒めています。僕は、素面で死ぬんです。
もういちど、さようなら。
姉さん。
僕は、貴族です。


何でこんなに、手紙なのにさようなら、と何度も書いたのか、とか僕は、貴族です、にはいったいどれだけの思いが込められているのか、とか希望の地盤がないというのはどういうことなのか、とか本当に色々語りたい事があるのだけれども、そんなに書いているのはさすがに面倒くさい。それに語るためには相手が必要だ。
この時代の貴族というものに、どれだけの重さがあるのかが、理解できないものの正直、この文章を読んだときの衝撃は計り知れない。陸上競技で大会に出たら、自己ベストで走りきった、みたいなー衝撃が。意味がわからないな。
いやいやいやだって僕は、素面で死ぬんです。 僕は、貴族です。ってこんな格好いいセリフ今まで見た事ない。貴族がどんなのかもわかっていない人間がこんな事いうもんでもないかもしれないが。


上の文章のあとに、姉の手紙という形式で次の文章が入るのだが。

ゆめ。
みんなが、私から離れて行く。


ゆめ。って何ぞや・・・?ゆめゆめお忘れなきように、とかいう感じのゆめ、なのか? 言葉がわからぬ。それとも、夢でーす☆みたいな意味なのか?そりゃないわな・・・。
それとも今までの事が全部ゆめのようだった、という事か。