基本読書

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水滸伝 十七/北方謙三

感想 ネタバレ有

ついに童貫がその実力を表す!

童貫の実力が圧倒的すぎてもうなんかこいつが主人公でいいのではないかという感想を持つ。というか、時として大きすぎる力はあきらめを産むのだと知った。

好きな武将が殺されてもまぁ童貫だし仕方ないか、といってあきらめる事が出来るようになった。というか童貫が圧倒的鮮やかさで梁山泊を打倒するのを読んでみたい気もするのである。

まぁ一番読みたいのは梁山泊と宋が共に外敵と闘う展開なのであるがそれはありえないな。

この巻の終りで、108星のうち46人が死んでいる。戦死者名簿を見るだけで一つ一つの描写が頭の中に浮かんできて泣かずにはいられん。しかしこの十七巻が、今までで一番死んだ人数が多かったのかも知れんな。全部で十二人も死んでいる・・・。もうなんか、こんなに一気に死んでしまうといちいち怒る気にもならん。ただ、あぁ・・・という気持ちが残るだけである。


孫立(病尉遅)びょううつち。董平(双槍将)そうそうしょう。
侯健(通臂猿)つうびえん。 盧俊義(玉麒麟)ぎょっきりん。
関勝(大刀) だいとう。  単廷珪(聖水将)せいすいしょう。
鄒淵(出林竜)しゅつりんりゅう。 龔旺(花項虎)かこうこ。
劉唐(赤髪鬼)せきはつき。 楊林(錦豹子)きんびょうし。
孔亮(独火星)どっかせい。 魯達(花和尚・魯智深)かおしょう。ろちしん。

たくさん死んだなぁ。それだけ童貫が強かったという事か。それにしても納得いかないのはこんなに最期まで童貫が出てこなかった事だ。ウルトラマンスペシウム光線みたいなもので、最初からそれ出せよ、という気分である。もちろん弱らせてからじゃないと使えないとかいう理由があるのかどうかしらないが、何かしらの理由はウルトラマンにもあるだろう。童貫にだってその理由はある。相手を強者と認めないと自ら出動しないとかいう設定が。

ただそれだけじゃ納得いかないわけで。何故一個人の武将によってそんなアホな事が決められてしまうのか。この点に関しては設定が苦しいのではないかと読みながらずっと思っていた。敵が強い方が燃えるから、とかいうわけわからん理由で戦場に出てこないとしたらそれまでに散っていった宋の何万という兵の命はどうなってしまうのかと。

高俅が実は裏ボスじゃないかと思っていたが、侯健とのやりとりを見る限りほんとに小物っぽいな。それにしても女のために残ったせいで、女は首を斬られ自分は股裂きで殺されるとは。この股裂き、あっさりと描写されているが中国の中で一、二を争う残酷な処刑法として有名じゃなかったか。死ぬほど苦しいらしいという話をよく読んだ事があるのだが、ここでの侯健は恐ろしいほどに達観している。

小物っぽく思えた侯健も最後には立派な梁山泊の一員として洗脳されていたな。
こうもみんながみんな死に対して達観しすぎているともうこれは洗脳じゃないかと疑いたくなってくる。

盧俊義の死に様も見事だった。

 
 「われらはみな、梁山泊の民。いまは、力を合わせて宋と闘っている。やがて、勝つ。私は信じているが、それを見る事はできん。私の寿命が、月用としているからだ。多くの者が死んだ。それ以上に多くのものが入山してきた。激しい闘いは、これからも続く。ともに闘えないのは無念であるが、わが魂魄はこの梁山泊にある」中略

 「さらば、梁山泊のわが同志たち」


演説終わった瞬間に死ぬとか並の人間じゃないな。さすがにたくさん梁山泊に貢献してきただけあって死に様も異常に待遇が良かった。一将校とは違うぜ!

軽く驚いたのが龔旺の死にざま。


 「俺の命だ。受け取れ」
 龔旺は叫んだ。血が、口から噴き出し、郝瑾の寝台に降りかかった。
 「龔旺殿。命を、確かに貰いました」
 郝瑾が、はっきりした声で言った。龔旺は頷いた。
 いま、自分は笑っているかもしれない、と思った。

輸血ですらねぇぇぇぇ。だが魂魄で生きる梁山泊の人間なら可能なのかもしれない。血をぶっかけることによって命を分け与えるというおよそ人間業じゃない荒事が・・・!。ふはは!ジョースター家の血はなじむ、実に!なじむぞフハハハハハ!ということですね。郝瑾は吸血鬼だったのか。なるほど・・・。

他にあった出来事といえば案外あっさりと呂牛が捕らえられた。しかも拷問されて何でも喋るうううと叫んでるし、何か今までのかっこつけていた呂牛像があるだけに失望である。まぁ自尊心が強かったと作中でも書かれているし、かっこつけは完全に見栄をはっていたんだろうな。実は水滸伝の中で一番痛々しいキャラはこいつかもしれぬ。

孔亮の死にざまも異常にかっこよかった。 


 致死軍。悪くはなかった。思う存分、暴れたのだ。孔亮の名は残らなくても、致死軍を誰も忘れはしない。ただの青州の暴れ者が、宋という国をふるえあがらせた。これぐらいで、もういいだろう。
 抱き起こされた。
 「済まん、独火星」
 燕青の声が聞えた。頷いたつもりだが、首が動いたかどうかはわからなかった。

魯達の死に方が今までのどんな人間の死に方よりもやべえええ。腹を自分からかっさばいて腸と取り出して楊令に見せつけながら死ぬとか・・。いや、そりゃあんたはいいかもしれないけどそんな死にざまと腸を見せつけられた楊令はきっとトラウマになると思うんだが・・・。

ただこれで最強戦士楊令が誕生したな。楊志に育てられ、林冲にぼこぼこにされ、秦明を親代わりに育ち、王進に色々教えられて、さらに魯達に梁山泊が何なのかを教えられて育ったんだからな。これで最強にならなかったらウソだよ。

いや、それにしても凄まじい最期だった。魯達。思い返せば物語の始まりも魯達で始まったのだった・・。その頃は魯智深だったが。それが志半ばにして死ななければならなかったことを考えると非常に無念である。

宋江の魯達に対する思いも泣かせてくれる。

  
 友が、いなくなった。
 土に還ったなどと、言いたくなかった。魯達は、いなくなったのだ。宋江の人生から、永久にいなくなった。
 人が死ぬというのは、そういうことだろう。

 
それにしても最近の宋江の空気っぷりは凄いな。もうほんとに居る必要が無いレベルにまで昇華されてしまった宋江。最近じゃ出てくる事も少なければ、出てきてもほんの一瞬あたりさわりのない事を喋ってすぐに消えてしまう。

死んでいった人間一人一人について書いていきたいところなのだがどんどん死んでいくのでそんな事をしている力が足りない。というかめんどくさい。

公孫勝が高廉の軍を襲ったシーンは、もうこれは確実に公孫勝死ぬな、と思ったものだった。何しろ公孫勝はすでに袁明を暗殺するという大役を終えていて、死ぬにはちょうどいいところだと思ったんだが、しかし生き延びて、高廉の部隊を壊滅させた。本来ならここで公孫勝の出番は終わりのはずだ。相手が梁山泊にあたえた暗殺という方法を相手にもくらわせ、さらにライバルだった高廉の部隊を壊滅させた。本来ならここで表舞台を去るはずだ。

なのに生き残った。劉唐が死んで。ならばこの先、あと二巻しかないがまだ出番があるのだろうか。楽しみである。