基本読書

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餓狼伝Ⅴ/夢枕獏

あらすじ

「ぬわわわわっ」


感想


ついにその実力の程を表したグレート巽。本名が巽真であることが判明する。二文字かよ! どうしてもイメージがイノキになってしまう。何故だろうか。ほとんどグレート巽の過去話である。楽しみにしていた長田vs堤は、不完全燃焼というのもおこがましいほどの中途半端さによって中断させられてしまったのでもはやどうでもいい。不完全燃焼というからには、少しは燃焼しなければいけないものだと思うのだが、少しの燃焼さえも感じられなかった。


だが長田と堤の戦いで、長田が裏十字を決められてぬわわわわっと驚く場面は思わず笑ってしまう。ぬわわわってなんじゃい。まぁそれ以上に驚いたのは、グレート巽vsリチャード戦でのグレート巽の意味のわからないほどのあわてぶりだが。

 「くわわわわわわっ」


ってなんだよ。どれだけあわててるんだよ。いやしかし、自分の耳が切り落とされたのを自覚したのだからそれぐらいびっくりして当然かもしれない。耳が落ちたんだから。


耳が落ちたのにとどまらず、他にもいろいろと痛い試合であった。グレート巽vsリチャードは。耳はとれるわ睾丸はつぶれるわ骨が折れるのは当然だわ。しかし人間ってのは実際睾丸がつぶれてもたっていられるものなのだろうか? アドレナリンとかエンドルフィンとかドクドク出てれば大丈夫なのか? リチャードが突然相手役として出てくるのは唐突すぎるように感じたが、まぁそれも餓狼伝の醍醐味なのであろう。なにしろこいつら相手をストーカーして勝負を申し込むのは世界の常識みたいなわけのわからないところに住んでいるのだから。 巽とリチャードの戦いの最後の終わり方は凄い。体が自動的に相手に技をかけて、あぁ違う違う、それじゃお前俺の技から逃げられねぇぞ・・・と頭で考えながらも手は首をゴキっとやっているのだから、こいつはやべぇ、というほかない。少なくともこいつと同じ場所で飯を食いたいとは、思わん。


明らかに常識がぶっ飛んでる丹波に向かってお前もこれから先就職なんて出来るはずないんだからここらでいっちょ名前売っとけって、と説得する川辺がなんだか滑稽なような。 まさかこの丹波が、将来の事を考えて売名行為のために戦うような男だったらそもそもこの物語は始まってすらいないだろう。もしここでひゃっほう! とかいって名前を売った後どこかでトレーナーとしてもぐり込むようなそんな人間だったらそれはそれで面白いのだが。ていうかこいつ、このあとどうやって食っていくつもりなのだろうか。老いたら強さが無くなる、とか言う前にお前には金がなくなるから。いったいどうやって生きていくつもりなんだよ。


丹波完全にグレート巽松尾象山にくわれているような気がするのだが、どうなのだろうか。何しろ丹波必要な事しかしゃべらないからな。堤もその傾向があるが、この二人がそろうと、あぁ、とかうん、とかいう短い言葉のやりとりしか存在しなくて、もっと一気にしゃべれよまどろっこしいなぁと思いながらも、実際の会話というのも考えてみれば、あれとかそれとってー それってなにー? 醤油だよ醤油 さしみ醤油と普通の醤油どっちー?みたいな、そんな短い文節で区切られた会話で構成されているわけで、これはこれでリアリティがあるというのかもしれない。丹波のエピソードよりも松尾象山のエピソードの方が圧倒的に気になる。


いやしかしグレート巽vリチャードは面白かった。これは板垣版でも面白かったような記憶がある、ほとんど覚えていないが。脳天かかと落としを狙ったリチャードであるが、それってプロ同士の戦いでは決まることなんてあるのだろうか? かなり派手だから知名度は高いだろうが、そう簡単に決まるものだろうか。アンディ・フグの踵落としは記憶にある限りでは、物凄い強そうに見えたものだったが。