基本読書

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秘曲 笑傲江湖 第二巻 幻の旋律/金庸

感想


な、な、なんじゃ〜〜こりゃあああ滅茶苦茶面白いじゃないくわぁぁぁ。べっくりした、べっくり。というか、第一巻を読んだのが一年以上前ゆえ内容をほとんど覚えていなかったが、読んでいるうちにおぼろげながら思い出してきた。そうだったそうだった、確か秘曲笑傲江湖とかいうわけのわからないものを追い求める小説だった。ようなちがうような。


そもそも何で一巻で読むのかを思い返してみるに、そりゃ当然面白くないと感じたからであって、どこが面白くないのかと考えてみるにどうも薄っぺらい感丸出しだったからであろう。いかにもハリウッドのようなとってつけたような恋愛に出てくる奴らはわけのわからん技を繰り出すばかりで何の興奮も沸いてこない。令狐冲とかいう主人公に全く魅力を感じないわで、そう確かに一巻を読んだ時点じゃ二巻に期待が持てるような内容ではない、と判断した。最近また中国関係の本をあさるように読みだして、ふと読みたくなってよかった、こんな面白い物を放置しておくところだった。


しかしひとつ心残りなのは、この笑傲江湖金庸作品の中でも傑作と名高いシリーズだということだ。これが頂点で他がこれより劣っているというのなら何もこれから読み始める事はなかったのに。そうはいっても、もはや止められない。ページをめくるのがやめられないとかいう段階はとうに通り過ぎて読むのをやめられないというレベルである。文章も読みやすい。こんなに大量のキャラクターが群雄割拠し、わけのわからない流派が大量にひしめき合い、理解不能な数々の技が矢継ぎ早に繰り出されるというのにまったく混乱しない。そしてどんどんでかくなる話のスケール! 一巻を読んだ時点じゃ世界がいかに小さかったかを思い知らされる。どんどん話がでかくなっていき、収束点がまるで見当たらない。登場人物が多いというだけならば、水滸伝の方が多いともいえるがあれは視点を次々に変え、その視点の中で限られた人間を描写していればよかったが、視点は一貫して令狐冲のままで、数々のキャラクターが出ては消えていく。 林平之が出てきた時は、こいつが主人公なのでは? と思ったがどうもずっと令狐冲のままのようだ。

何しろ一巻の時点じゃ令狐冲はボッコボコにされるわ、相手が強いだけならまだしも令狐冲自身が特に強いわけではないというしょぼさをアピールしてくれたが、何故か二巻で山奥のジジイにあって変な剣法を伝授され突然強くなる。


それにしても林平之というやつは話の根幹にかかわるような設定を背負わされていながらほとんど描写されることがない。剣に対する才能が並外れてあるような書かれ方をされているがはてさて、このあとどうなることやら。このあと令狐冲が破門されて華山派を追い出されるが、最終的に令狐冲vs成長した林平之みたいな燃える展開になっていくのであろうか。


しっかしこいつら何かあるたびにわーわーぎゃーぎゃー大騒ぎしてすぐに内功だ! 内功を高めろ! ってそれしか言えないのかお前らは。気功も同様である。そしてすぐに義だの仁だの兄弟の契りだのを語り出す。このあたりは中国ものじゃおきまりのものだが、何故中国において義だの仁だの兄弟だのはこんなに重要なのだろうか。武士道みたいなものか? というか、この本の中で起こっている数々の問題はこいつらが義だの仁だの兄弟の契りだのを頑固に守りすぎなければ起こらなかったのではないか?というものがほとんどであるような気がするのだが。この本の中で、技にとらわれることがなくなればさらに強くなれる、というようなことを言っているが、それならばおまえらのその義だの仁だの兄弟の契りだのにこだわるというのもおかしくないか? こいつら義に反するとすぐにお前を殺して俺も死ぬ と言い出すしクレイジーすぎる。

「肉を切るには、肉が無ければならん。薪を割るには、薪がなければならん。敵がお前の技を破るには、お前の方に技があって、はじめて破った事になる。武芸のたしなみのない常人ならば、剣をみだりに揮うだけじゃ。相手の次の剣がどこに向かってくるのか、お前には想像がつかぬ。手誰であろうが、その技を破る事は出来ん。技がないのだから、『破った』とは言えぬからじゃ。ただ常人なら技がなくとも、いともたやすく打倒されてしまう。まことに一流の剣術とは、人を制し、人に制されはしないものなのじゃ」


義を破るには、義がなければならない、義なんて捨ててしまおうなんていう結論に至らんのかお前らは。男と男の約束だから絶対に言えないって、その一事のせいでいったいどれだけの問題がもちあがっているとおもっておるのだ。しかし中国小説じゃ、隠遁した老人というのは絶大な力を持っているというのはもはや定説となっているようである。岳不群も、一巻の時点じゃとてつもないお人だあああと書かれていたような気がするが、二巻ですでに小物感丸出しである。だいたい頭が固い時点でどうもいけない。それに何かあるたびにすぐに紫霞功に頼るし。紫霞功が具体的にどんな技なのかまだわからないが、どうも体中の能力がアップしているところをみるに、スーパーサイヤ人化するようなものなのだろう。東方不敗だとかガンダムのジジイのようなやつもでてくるし、ジジイであるという一点のみでこの作品世界じゃ強くなれるのではないか。ジジババは例外なく強い気がする。


話の途中で、儀琳を置いて令狐冲が物音の様子を確かめに行く場面があるが、結局そのまま儀琳に挨拶一言もなしに家に戻ってしまうとはなかなか酷いやつである、令狐冲。敵にかなわないと知るや否や口で相手を言いくるめようとする反面、何故か義が! 義が! とうるさい。ふむん、こう書くと全く嫌なやつのような気がする。少なくとも相手に勝てないからといって必死にあることないこと敵に語りかける様は主人公とは思えん。


岳霊珊と令狐冲のらぶらぶっぷりは一巻の時からウザかったから二巻で早くも破局して清々している。しかし岳霊珊も結構ぶっ飛んでるな何の躊躇もなく令狐冲から林平之に乗り換えるとは恐るべし。こんな奴は早く死ぬべきでは? 令狐冲も死ぬ死ぬーすぐ死ぬーといいながらなかなか死なない。どうせ死なないのはわかっている、というのもあるが、死ぬ死ぬ詐欺では? カブトボーグのカツジを思い出す。 もう何回この先助かる見込みのない命ゆえ、というセリフを聞いたかわからん。


令狐冲を侮辱しているが、考えてみるに不幸な男である。東方不敗にボコボコにされ、林夫婦をみとったせいで辟邪剣譜を盗んだのではないかとずっと疑われ、岳霊珊には見限られ、へんな六兄弟にわけのわからない気功をうたれ、へんな坊さんにさらに気功をうたれ、身も心もぼろぼろである。だが小説の主人公というのは困難の数だけ最終的に見せ場が増えるという説もあるし、この先どんどんいろんな不幸に見舞われていくのだろう。頑張ってくれとしかいいようがない。


修行して強くなるという展開はいやがおうにも燃える。独孤九剣なんていう怪しげな剣をはじめて強敵相手に使う場面は思わず転げまわるほど燃える。対不棄戦である。しかもそのあとに、十五人もの相手の目を一瞬で潰す。すごいぞ令狐冲! 一巻でぼこぼこにやられていたあの令狐冲はいったいどこへ? というかそんなに一瞬で強くなってしまっていいのか令狐冲。ドラゴンボールの悟空だって結構な段階を踏んで強くなったというのに。


ジャンプ的な、単純に熱くなれる展開に満ち満ちている。とにかく展開がどんどん進むので全く飽きない。どんどん新キャラが出てきて、どんどんわけのわからないことをして、どんどん敵が増えていく。ものすげー大風呂敷。いったいどこまで広がるのか。