基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

七回死んだ男/西澤保彦

いや、あっぱれだねこれはぁ!

・とりあえず事件のさわりだけでも―
・主人公は設定を説明する
・登場人物たちが一堂に会す
・不穏な空気はさらに高まる
・そして事件は起きる
・やっぱり事件は起きる
・しつこく事件は起きる
・まだまだ事件は起きる
・それでも事件は起きる
・嫌でも事件は起きる
・事件は最後にあがく
・そして誰も死ななかったりする
・事件は逆襲する
・螺旋を抜ける時
・時の螺旋は終わらない―


まずこの章立てからしてたまらん。とりあえず事件のさわりだけでも─〜から登場人物たちが一堂に会す、までは正直なところ、設定をだらだらと説明されているだけでなかなかに退屈だったのだが、というか登場人物が一度に出てくるのでなかなか把握が大変なのだが、いざことが始まってみれば面白いことこの上なし。最初は、役割ありきのキャラクターがパっと全部出てきたり、まずパズルに使うためのピースを全部開示されるようなやり方が、小説を読んでいるというよりもそのまんまパズルをやっているという感覚で反感を持ったものだったが、いやはや、面白いセリフ回し、ぽんぽんとおこる殺人事件、そのたびに出てくる謎、そして最後に明かされる今までの謎の真相と、ハッピーエンド。


何よりすばらしいのは、後半に行くにつれてどんどん、加速度的に面白くなっていく事だろうか。主人公の語りにハマっていき、まわりの人間のんな、アホなといいたくなるような騒ぎにハマっていき、いいミステリーだった。


謎も、ちゃんと違和感を見つけて突き詰めていける人間なら解ける類のものだったように思う。まったく考えながら読まない自分でさえかなり疑問に持ったところがいくつかある。友理さんに告白して、次の周から何故か突然友理さんが結婚を申し込まれたことになっていることが一番顕著なヒントではないだろうか。そもそも話の展開からして、ああこれは主人公と友理さんが結婚して養子になる展開なんだろうなぁというのは、告白した段階でわかったのだがふむん、まさかこういうラストに持って行くとは。


絶対最後は、友理さんも実はタイムルーパーだったのだ! 今までの謎はすべてそれでとける! というようなオチだと思っていたのだが、まったく当てが外れた。そうして友理さんが実はタイムルーパー協会の一員で、これから一緒に世界を守るために戦っていきましょうと、言う展開になったらもう完全に大好きなハリウッド映画の展開なのだがそれはまぁない。


読む前は、タイムループものの、ミステリーだときいていたのと、七回死んだ男というタイトルなのでてっきり主人公が七回殺されて、自分の死のループを断ち切る話だと思ったのだが、当てが外れた。もしくは起こってしまった殺人事件を、主人公がループしているあいだに謎を解き解決に導くものだとおもっていたのだが、まさか最初は事件がおこっていないのにループにはいってから事件が起きるとは。ラストのオチはなかなかにひどい。というか宗像氏のことなんて、読み終える頃にはすっかり忘れていた。ああ、そういえばそんなやつもいたなぁ、で? それがどうしたの? というレベルである。じいさんがボケて同じ話を繰り返していたっていうのはともかくとして、ループが一回少ないのは実は主人公が自分でも気付かないうちに、足をすべらせてしんでいたからなのだよ! というのはマジビックリ。そんなオチが許されるのか!いや、もちろん許される。 読み返してみると、地味に伏線がちりばめられていることに気づく、読んでいる最中はまったくきづかないのだが、後宮小説と同じで、読み終わったときのネタバラシによって襲ってくるカタルシス(意味はわからない)は極上のものだ。


これはまさにパズルだ。登場人物も、パズルのピースとしての役割しか与えられていないように思うが、それでもキャラづけがうまいのか、それともセリフ回しがうまいのか、読んでいて全く機械的な、無機質なピースを読んでいる感覚を味あわない。セリフだけ見れば完全にコメディでもある。火サスからひっぱりこんだかのような二人の母親にさらにいえばこの二人、心の中で火サスを思うばかりならまだしも、本心がそのまま口に、態度に出てくるから始末に負えない、バカ女という概念をそのままあてはめたようなルナに、めんどくさくなったので省くがみんな一行で説明出来そうな、そんな単純な役割しか背負っていないのに、ふむ、組み合わさるとこんなに面白いのか。まるでレゴのように。


結局は殺人事件なんて起こっていなかったのだ、というのもいい。実際人が人を殺したいと思う程憎むなんてほとんどないのではないか、特にこの本の登場人物の中に、動機を持っている人間が一人だっていたはずがない。そこで殺人事件が起こるというのが、そもそもおかしかったのだ。なかなか平和的ミステリーである。人の死なないミステリー。