基本読書

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楊令伝 四 雷霆の章/北方謙三

前回楊令伝三を読んだのが8月27日なので、少し間があいたことになる。そのおかげで一歩引いた目線でこの楊令伝を読む事が出来た。今度はむしろ、粗を探してやろうというぐらいの気持ちで読み始めたのだがやはりたった一つのシンプルな事実を再確認するための行為にすぎない事を思い知らされる。 やっぱ滅茶苦茶おもしれえ

水滸伝では出し惜しみされ続け、さほどの出番が無かった童貫だが今回は戦い続けである。その童貫さん、不平たらたらであるが、こいつは常に不平を言っているので大したことではない。もっと血のたぎるような戦いがしたいとしか言っていない驚異の戦闘狂である。

方臘教の信徒を、何十万と殲滅しておきながら、たいして気負ってもいないのである。確実に地獄に落ちるであろう。
さらに驚くのはこれ程の人数を相手に戦い、蹴散らしたというのに、なんとも凄さが伝わってこないのである。70万が連環馬によって殲滅され、まともに動けるのは30万しか残りませんでした、としか書かれていない。

おいおい・・・項羽でさえ二十万しか虐殺しなかったというのに、その2倍もの人数を殲滅しておきながらサラっと流されすぎではないか。実際70万いたのが、30万になったからといって40万人虐殺したわけではないのだが・・・。皿に言えば、項羽の虐殺は生き埋めによる完全死であって凄惨さは項羽の方が数段上だ。その事を考慮しても、たいしたことじゃないのかもしれない。

なんだか兵の単位が、三国志並に多くなってきたような気がする。あれ、最近の株価ですか? というぐらい増えたり減ったりが激しい。いったいこいつらはどこから湧いてくるのかと、今までの戦いで確実に200万人ぐらい死んでると思うのだがそれでも兵は尽きないのか。ううむ、恐ろしい国中国。人だけは腐るほどいる・・か。方臘軍の戦い方を見ていると人の命って軽いね、と思わざるを得ない。中国に人がいっぱいいるといっても、それは今の話であって当然水滸伝時代にはもっと少なかったはずである。中国の人口推移を見てみると、1400年頃の中国の人口は約0.7億人である。今の日本よりも少ないということになる。作中で30年ぐらいの時間が過ぎたような気がするので世代交代が一回起きているぐらいか。200万人も戦死させていたらもういっぱいいっぱいではなかろうか。

 「俺も、死ぬ気だ。趙仁も、包道乙も、許定も、訒元覚は怪我をしたが、いまも十数万を率いて西に位置している」
 「みんな、死ぬのですか。ならば私も、死にます」

か、軽くね? 命、軽くね? 日本人じゃないんだから、もうちょっと自分っていうものを持とうよ。みんな死ぬならおれも死ぬって、もうちょっと考えてくれ。まるでスーパーに買い物に行くみたいに死なれたら困るぜよ。

話は三巻に戻ってしまうのだが、表紙かどこかに書かれていた楊令の姿が、あまりにもイメージとかけ離れていて失望を通り越して絶望した。まるで寂海王じゃないか、このひげづら。もっとスラっとした美青年という感じだったのに神は完璧超人楊令に完璧な容姿を与える事はしなかったか。

三巻で楊令が加入し、ようやく舞台が完全に整い、物語の核たる部分が完成したという気がする。方臘軍の動きも、禁軍の動きも、燕国の動きも、金の動きもすべてがある一点に向かって動き続けているような、明確な意図を持った流れを感じる。なかでも方臘軍が思いのほか、存在感を増しているのが楽しい。最初に出てきた時はまーたヤムチャ的ポジションか、とバカにしていたものだがどうしたものか、童貫をてこずらせる程の存在になってきているではないか。ヤムチャ的ポジションからベジータとまではいかないにして、ピッコロぐらいのポジションにはついたのではないか。これならばかませ犬としても充分役に立ってくれるだろう。ふむん、そうなると気になるのは呉用の今後か。はたして方臘と死を共にするのか、はたまた梁山泊に連れ戻されるのか。水滸伝がいかに死ぬか、という物語なのに反して楊令伝がいかに生きるか、というところに焦点が当てられているような気がするので、呉用はやはり梁山泊に戻るのではないかという予測。そもそも方臘と共に死ぬぐらいだったら、わざわざ生き残った設定にしないような気もするが・・・うーむ。

四巻で何が起こったかと思い返してみるが、戦いの描写ばかりだったような。趙安vs燕、童貫vs方臘、花飛麟vs王慶 三国志を読んだあとだと、やはり用兵描写がわかりやすい。 それにしてもみんな歳をとったもんだ。水滸伝一巻じゃ若造だった史進も今となっちゃあいいおっさんだし、公孫勝や武松、燕青やらなんやら、みんな歳をとった。童貫なんてもうおっさんどころじゃなくおじいさんだ。そりゃ王母も死んでしまうわ。大往生だったんじゃなかろうか。王進が何歳だかわからないが、60ぐらいか? 20の時に産んだとしても80は超えているはずである。この波乱の時代にそこまで生きる事が出来たならば、大満足だろう。王進システムによって正義の志と人殺しのすべを学んだ恐るべき子供達が一同に会して、王母の死を嘆きながら酒を飲む場面は不覚にも泣いてしまった。


今日のBGM:MyBest R35世代作業用BGM vol.20
気まぐれでBGMを書いていくことにした。