基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

キラレ×キラレ/森博嗣

キラレ×キラレ (講談社ノベルス)

キラレ×キラレ (講談社ノベルス)

 あの晩こそ運命の十字路にわたしは立っていたのであった。もしわたしがわたしの発見を遇するにより崇高な精神をもってし、高潔敬虔なる向上心に動かされてあの実験をとり行ったのならば、すべてはまったく異なる結果をもたらしたであろうし、ああした生死の苦しみのなかからわたしは悪鬼としてではなく、天使としてあらわれ出たことであろう。
(The Strange Case of Dr.Jekyll and Hyde/Robert Louis Stevenson)

この引用文もどこか印象的である。はたしてこの運命の十字路というのが、この作品に当てはまるものかどうか。あまり十字路にたっていた感じはしなかったけれども、この先読み進めていくとあぁ! あの作品で切り替わっていたのか! とびっくりさせられるような気がする。もしくはシリーズ全体のことを言っているのではなく、この作品単体の、ことを暗示しているのかもしれない。

それにしても面白いなぁ。おもに真鍋君のおかげで。彼がいなかったらXシリーズは始まらないよ。ってそんなの当たり前だ。彼のどこがいいって、何をおいても飯優先なところとか。真面目にバカで、しかし役に立つ案を提案してくるところとか。彼の発言を全部まとめたいぐらいだ。いや、そこまではいいか・・・。なんか彼の雰囲気とか、言動がいちいち犯人っぽい。わざとこんなキャラを作っているみたいな。彼は自分の障害になる人間がいて、殺すことがもっとも効率的な行為だったらなんのためらいもなく殺してしまいそうな気がする。助手でちょっと間抜け的なポジションの人間は、犯人だった時の意外性が大きくて好きだ。いや、彼がこの先犯人になるかどうかは、また別問題なのだけれど。
犯人になってくれたらいいな、いいな。真鍋君がどんな人間なのか、一言で表せそうで表せなかったのだがやっと気づいた。素直、とか。そっち方面だろう。能力が高いのか低いのか、それもまた問題である。いったいどんな能力に向いているのか。たとえば突然身内が亡くなってしまい、何はともあれ物事を推し進めなくてはならない、雑事がいっぱいある、そんな時に彼は重宝しそうである。つまりこういう仕事がうまい人間のことを、普段なんていうんだろうか? マルチタスクが出来る人、色々な仕事を同時にこなせるなんていうタイプではない。むしろ何かをこなさなくてはいけない時、全部ちょっとずつやるよりも一つずつ全力で片づけた方がいいのではないか。いや、これも人によるか。書いていてなんだけどこの話には着地点が無い。ここで着地。パタン。

鷹知さんレギュラーキャラだったとは。前回一回限りの人間かと思ってきたのに。今回は彼が事件を持ってくる。ふむふむ、つまりこれからは、事件に自分から首を無理やり突っ込むのではなく、依頼されたものをこなしていく感じで事件を解決していくのだろう。個の人も保呂草とは違った意味で特殊な人間である。非常に淡々としている。一昔前の一流貴族みたいな雰囲気である。実際おぼっちゃんだから間違っちゃいないのかもしれない。

話は事件にうつる。満員電車の中で、ナイフをもちいて切り裂く切り裂き魔をつかまえる話である。満員電車ちうやつはこうしてみると危険なものだなあ。みんながどっと降りていく時に何かされても人ごみに紛れて捕まえられるはずもない。男にとっちゃあ痴漢冤罪もありえるわけであって、二重に危険である。今回の事件は嫉妬に狂った病み女というなんとも昼ドラ的なキャラクターを犯人に据えたものだった。今までの傾向からすれば珍しいと言わざるを得ずにはいられない。ふーん、そうだったのと腑に落ちる感じだ。しかし今まで腑二落ちないのが自然だったので、腑に落ちるのが腑に落ちないという奇妙な矛盾がおこっている。この腑に落ちないの、「腑」は漢字的にあっているのだろうか。ふにおちない、と書いてもいいのだがそれこそなんだかこそばゆい。ふにおちない以外の表現はどうにも思いつかない。納得いかねえでもいいのかな。そういえば前回のイナイ×イナイも割と俗っぽい事件であった。これはひょっとするとひょっとすると、俗っぽい事件てのが今回の×シリーズの共通項かもしれんね。そうなってくると、次の事件の犯人も傾向から予測しやすくなるってわけだ。今まで全く分からずに解決編に突入して、そーなのかーと口をぽかーんと開けてエサをもらう雛のように答えをむさぼるだけだったがこれでようやくこっちからエサめがけて飛んで行けるってわけだ。

この俗っぽい事件が連続しているのは、みんなが探偵をやっていることに関係しているのだろうか。何故だかわからんが探偵といえば俗っぽい事件という関係性が自分の頭の中では構築されているのだ。うーん、俗っぽいというかなんというか、民衆レベルの事件? てのともまたちょっと違うのだけれど。今まではいったいどんなトリックを使われたか!? が謎解きの焦点だったけれども、容疑者の発言の矛盾を追及していくような、まるで逆転裁判っていうかミステリの王道展開を突き進んでいる感じがある。王道展開とか軽々しく書いたけれども、トリックを追及するのも結局王道展開だからどっちにしろ王道展開なのだ。王道が一本と決まっているわけではあるまい。どこかの金ピカの人は否定しそうだけどな。トリックがないわけではないのだが・・・。うーむ、詳しくもないのにわかったようなことを書くとわけがわからなくなってしまう。