- 作者: 清涼院流水
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/08
- メディア: 文庫
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また特に意味はなかったけれども、文字の並びが特に意識されていて何行も同じ場所で区切られていたり、一文字ずつ行が進むたびに少なくなっていったりと見た目的にも面白いものとなっている。徹底的に言葉で遊びまくる趣向も満載で、いらいらするぐらいである(褒め言葉)特にデリバリー・ヘル(出張地獄)を略してデリヘルの遠藤などとの通り名が出てきた時は爆笑を通り越して尊敬した。そんなアホなことを考えられるのはなんてすばらしいことなのだろうかと。作家というのは普通の人が気がつかない点に着目して、それを文章にしなければならない。誰も気が付いていないからこそ、そこには価値が生まれる。そういった意味では誰も気が付いていない文字の世界を表現し続けている流水先生はこの分野の第一人者でありSFジャンルの第一人者であるH.G.ウェルズなどと肩を並べる存在なのではないいだろうか。世の中にはさらに発展した系統の、SFミステリィの第一人者といえばアシモフといったように細かく系統がわかれていく傾向があるけれども、流水先生のこの大説は唯一無二のものであって他の追随を許さない。
驚いたのが、この結末にはそれほどアホなという気持ちがわき上がってこなかった点である。それどころか普通の良質な作品を読み終えた時に感じるような、うぬぬこやつやってくれるわという感想だった。意味不明な仕掛け(最大の仕掛けは物語の外にあるというやつ)はやっぱり健在だったけれども、特殊な読み方もやっぱり健在だったけれども、それさえ無視すれば清涼院流水をまったく知らない人間にも勧められそうな程ケレン味の少ない素晴らしい作品だった。特にそう思ったのは、木村さん殺人実験Wを読んだときである。この中で、倍々ゲーム的に分裂していく木村彰一が俺たちこのまま増えていったら一か月で地球の人口を越して、ひょっとしたら殺されたりするんじゃないかという空想をする場面がある。途中まで空想なのか現実なのかわからなくて、本当に分裂して何十億人になってしまったのではないかと心配になったのだが最終的にはやはり空想だった。そう、ここが問題なのだ。いつもならやる。実際に倍々させて地球人口をはるかにオーバーさせた木村彰一を出現させる。コズミックやジョーカーやカーニバルでもやってみせたように、誰もが一度は考えるアホな妄想を実際に書いてしまうアホさが御大にはある。だからやると思ったのだが、そこはあえておさえてくれたらしい。空想という枠の中にとどまってくれた。
ちなみに最後に提示された物語の外にある大じかけ、「ナントカ院」とは清涼院のことでいいのだろうか。地図を見たけどよくわからない・・・。